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平成23年4月11日

定常波動研究−電磁波を使って長い時間プラズマを保持する−

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所


 平成22年度の大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマ実験で得られた成果を紹介しています。今回は、電磁波を使ってプラズマを長い時間保持する、という課題に取り組んでいる定常波動研究を紹介します。

 高温プラズマは、プラスの電気を持ったイオンとマイナスの電気を持った電子がバラバラになった状態ですが、LHDでは、この高温プラズマを磁石の力で宙に浮かして閉じ込めています。磁石からは磁力線と呼ばれる、目に見えない磁石の力の線が出ていて、この磁力線の作る「カゴ」の中にプラズマを作ります。電子やイオンのように電気を持った粒子は、磁力線の周りをグルグル回って磁力線から離れない性質を持っているので、磁力線の作るカゴにより、プラズマを容器の壁に触れないように閉じ込めることができるのです。
 電子は軽いので早く動き、LHDのプラズマを閉じ込める磁場の強さが27,500ガウスの時、磁力線の周りを1秒間に770億回まわります。これを周波数と言いますが、これと同じ周波数(770億ヘルツ:77GHz、電子レンジの約30倍の周波数)でプラスとマイナスの電気が変わる電磁波(電波)を電子に当てると、グルグル回る電子が加速されてスピードが上がる、すなわち加熱されることになります。これが電磁波(波動)によるプラズマ加熱です。水素イオンも同様ですが、電子に比べて約1800倍と重く、動きがゆっくりであるため、加熱する電磁波の周波数もFMラジオの周波数の半分程度の3,800万ヘルツ(38MHz)と低くなります。
 通常のLHDのプラズマ加熱実験は、短時間仕様の大電力の加熱装置を用いて、2〜3秒間のみプラズマを生成・加熱していますが、イオンを加熱する電磁波はラジオ局等でも使われているため、比較的電力の大きい長時間・定常仕様の発振器が利用できます。LHDの方式は、将来の核融合発電所で必要な連続運転が可能であるという特長がありますので、LHDでは電磁波を用いた長時間プラズマ加熱・保持実験を行っています。これまでにこの方法で、約1時間のプラズマ保持に成功しています。
 電磁波はプラズマの近くに設置したアンテナからプラズマに照射しますが、平成22年度の実験では、新たに2本1組のアンテナを横に並べて設置しました。2本のアンテナをうまく組み合わせて使うことで、様々な方法でプラズマを加熱することができます。実験ではいくつかの方法を比較し、その結果得られた加熱効率のよい方法で、約90秒間のプラズマ保持を達成しました。
  電子の加熱にはジャイロトロンという大電力の発振器を用います。イオンを加熱する電磁波より1,800倍以上も高い周波数が必要なため、一般に利用できるものはなく、この間、研究所は筑波大学と協力して、高性能な大電力ジャイロトロンを開発してきました。その結果、現在3台のジャイロトロンを用いて、合計3,000kWを超える電力をプラズマへ入射できるようになっています。500kW程度に入射電力を下げると長時間のプラズマ加熱が可能となるため、前述の90秒間のプラズマ保持にも使用しました。このように、電磁波によるプラズマ加熱方法を用いて、H23年度の実験では、これまでの記録を上回るプラズマの長時間保持が期待されます。


以上