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平成23年5月30日

高密度プラズマ研究 −高い密度のプラズマを実現する−

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所


 平成22年度の大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマ実験で得られた成果を紹介しています。今回は、プラズマ中の粒子を制御して高い密度のプラズマを実現する、という課題に取り組んでいる高密度プラズマ研究を紹介します。

 核融合発電を実現するためには、高温度(1億度以上)、高密度(1cc当たり100兆個以上)のプラズマを生成・維持して、そのエネルギーを1秒以上閉じ込める必要があります。このとき、プラズマの密度は高ければ高いほど核融合を実現するのに好都合です。核融合により得られるエネルギー(つまり電力)は密度の2乗に比例して大きくなり、また、プラズマのエネルギー閉じ込め時間も密度の上昇とともに長くなる傾向にあります。さらに、密度が高いと持続的な核融合反応であるプラズマ燃焼を比較的低い温度で起こすことができるため、持続燃焼を起こすための初期のプラズマ加熱の条件が軽減されるというメリットもあります。LHDではこれまでに、中心の電子密度が1cc当たり1,200兆個という超高密度プラズマが得られています(超高密度といってもプラズマは希薄で、1気圧の大気の密度と比べると1万分の1以下です)。このような高い密度のプラズマが得られるのは、プラズマ中に電流を流す必要のないヘリカル型装置LHDの特長で、将来実現を目指しているヘリカル型核融合発電所のメリットになると考えられています。
 今回の実験では、この高密度プラズマ生成に重要なプラズマ粒子の制御法に関して新たな成果が得られました。高密度プラズマを生成・維持するためには、プラズマ粒子の元となる水素ガスを供給する必要があります。供給した水素ガスはプラズマになりますが、いずれはプラズマ粒子としてプラズマから周辺部に出てきて、最後は再び水素ガスになります。この水素ガスがプラズマの周辺部に蓄積するとプラズマの温度などの性能を低下させるため、速やかにプラズマ周辺部から排出(排気)しなければなりません。この粒子排気を行う機能を備えた装置がダイバータと呼ばれる装置です。ダイバータは、蓄積した水素ガスや不純物をプラズマ周辺部から排気する、いわば換気扇のようなものです。効率よく水素ガスなどを排気するためには、プラズマ中心部から流れ出たプラズマ粒子を周辺部の特定の狭い場所に集めて水素ガスにして、それを排気ポンプで吸い出せばよいわけです。こうした機能を備えたダイバータ装置に先行して、平成22年度に、「バッフル」と呼ばれる仕切り板をLHDの周辺部に試験的に設置しました。そして今回の実験では、これを用いてプラズマ粒子の流れを制御して、水素ガスを一か所に集める実験を行いました。その結果、期待通りに水素ガスの集積が起こっていることを示す「圧力の上昇」を観測することができました。バッフルを設置した場所における水素ガスの圧力は設置していない場所の10倍以上となり、コンピュータ・シミュレーションにより設計・予想された通りの「水素ガスの圧縮」効果が実験で検証されました。
 今回の実験成功を受けて、LHDでは平成23年度の実験以降に、ガス排気装置を備えた本格的な「閉構造ダイバータ装置」の設置を行います。バッフル板を用いて幾何学的に閉じた構造にして水素ガスを圧縮し、圧縮したガスを高効率で排気することができるようになります。これにより、プラズマ周辺部の粒子制御性が格段に改善し、プラズマ性能の更なる向上が期待されます。


以上