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平成23年6月6日

原子・分子過程研究 −LHDを光源として利用する−

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所


 大型ヘリカル装置(LHD)では、水素やヘリウムを用いて数千万度の高温プラズマを安定に再現性よく生成することができます。このプラズマに様々な種類の元素を微量入れると、発光などその元素特有の原子過程を調べることができます。LHDプラズマはそうした研究を行う光源として優れており、太陽の中で生じている原子過程をLHDプラズマを利用して調べることも可能です。今回は、平成22年度にLHDのプラズマ実験で行われた原子・分子過程研究について紹介します。

 電子を1個しか持たない水素原子は、高温プラズマ中では電子が分離して裸の原子核(1価イオン)になります。一方、重たい元素、例えば鉄原子は電子を26個も持っているので、1億度のプラズマでも電子は全部分離することはなく、1〜2個程度は残って多価イオン(24個の電子が分離した場合は24価イオン)となっています。そして、残った電子の状態により、プラズマ中の多価イオンからは様々な色の光が放出されます。光は電磁波であり、その色は波長により決められるので、放出された光の波長を調べることにより(これを分光といいます)、プラズマ中の原子・分子過程をはじめとして、原子物理学や宇宙物理学、プラズマ分光学などの多方面にわたる研究を行うことができます。
 プラズマ燃焼を行う計画のITER(国際熱核融合実験炉)や将来の核融合炉では、中心部から周辺部へ流れ出たプラズマを終端させる受熱板に、高耐熱材料のタングステンの使用が検討されています。しかしタングステンは、プラズマの中にわずかでも混入してしまうと、プラズマのエネルギーを光に変えて放出してプラズマを冷やしてしまうため、プラズマへの混入量が問題となっています。その混入量はタングステンからの発光を調べることにより評価できますが、タングステンの原子過程や発光線(スペクトル)構造に関する基礎的な情報が不足しています。そこで、微量のタングステンをLHDプラズマへ入射して分光計測を行い、波長の非常に短い極端紫外光や可視光の波長域でタングステンからの発光スペクトルを得ました。今後、理論モデルなどとの比較により、得られた発光線データを解析して、タングステンの発光線構造に関する研究を進めていきます。
 同じように、希土類元素であるガドリニウムの極端紫外発光スペクトルの計測を行いました。コンピュータチップなどの高集積化に伴い、半導体の細線パターン加工のための露光(リソグラフィー)に用いる光の波長は年々短くなっています。最近は、スズイオンで得られる13.5ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)の波長の発光線を利用した光源装置の製作が進められていますが、更に波長を短くした希土類元素イオンから得られる6.8ナノメートル前後の波長の発光線の利用が提案されています。元素番号がスズとタングステンの間にある希土類元素のこの発光線は、タングステンの5ナノメートルの発光線と同じ原子過程で発光していると考えられるため、タングステンの発光線の強度や分布の理解にも役立ちます。今回の実験では、6.8ナノメートルの発光線に加え、4本の発光線を観測しました。理論モデルと比較したところ、これらのうち2本はまだ誰もデータを発表していない新しい発光線である可能性が明らかになりました。
 このように、LHDプラズマにおける原子・分子過程の研究は、高温プラズマの物理的な性質を解明する研究だけに留まらず、LHDを光源として利用することで新しい研究領域を開拓しています。


以上