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平成23年9月12日

サブクールシステムの高信頼化 −超伝導コイルの性能向上−

 

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所

 核融合プラズマ実験装置としては世界最大の超伝導装置である大型ヘリカル装置(LHD)の超伝導コイルシステムは、実験開始から13年間にわたり、稼働率99%を超える高い運転信頼性を誇っています。今回は、この超伝導コイルの性能をさらに高めるために増設されたサブクールシステムについて紹介します。

 高温のプラズマを閉じ込めるためには強力な磁場が必要で、LHDではその生成に超伝導コイルを用いています。超伝導とは、特定の物質をある一定温度以下まで冷やすと電気抵抗がゼロになる性質のことで、電気を流しても熱が発生しません。通常の銅線は電流を流すと発熱するため大電流を流せませんが、超伝導では発熱しないため大電流を流すことができ、強力な磁場を生成することができます。LHDの超伝導コイルは、ニオブチタンという超伝導物質でできた導体を、通常はマイナス269度の液体ヘリウムで冷やして使用しています。一般に、超伝導物質は温度を下げれば下げるほど、より大きな電流を流すことができます。そこでLHDのヘリカルコイルでは、コイルを冷やしている液体ヘリウムの温度をさらに下げるシステムを5年前に導入しました。これをサブクールシステムと呼んでいます。その結果、磁場強度を大きくすることが可能となり、LHDのプラズマ閉じ込め性能が向上しました。
 LHDの信頼性の高い運転には、超伝導コイルが常に同じ状態で冷却されていることが重要です。そこで、安定で信頼性の高いサブクールシステムにするため、装置工学実験でその特性を詳細に調査しました。液体の水が沸騰する温度は圧力を下げると低下しますが、ヘリウムも同様に、液体ヘリウムを減圧すると液体となる温度が低下します。サブクールシステムでは、低温排気圧縮機と呼ばれるポンプを用いて減圧し、それにより温度の低下した飽和ヘリウムを使って、ヘリカルコイルに供給する液体ヘリウムの温度を下げています。供給する液体ヘリウムの温度を一定に保つためには、飽和ヘリウムの圧力を一定に保つ必要があり、そのために飽和ヘリウムの蒸発量が一定になるよう制御しなければなりません。飽和ヘリウムの蒸発量は超伝導コイル全体の冷却バランス等により常に変動しているため、この変動をヒーターを用いて自動調整することにより、供給する液体ヘリウムの温度を0.01度の範囲内で一定に保つことに成功しました。
 一方、低温排気圧縮機は、入口と出口の圧力の比(圧縮比)、蒸発量(流量に相当)がある範囲内でないと安定に動作しません。通常は上述のヒーターを用いた制御方法により、この範囲内で運転していますが、低温排気圧縮機の回転数を変えたり、超伝導コイルの電流を急速に変化させてコイルが発熱する場合には、圧縮比や流量が大きく変動します。これに対して、安全な回転数変更の方法を確立し、さらに自動化することにより、回転数変更の時間を約半分に短縮することに成功しました。また、圧縮比と流量の急激な変動に対しては、ヒーター制御を有効に機能させて変動を緩和することにも成功しています。
 こうした研究はLHDの信頼性の高い運転に貢献していますが、さらに高い信頼性が要求される将来の核融合発電所の低温冷凍システムの設計にも大きく寄与することが期待されています。


以上