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平成23年9月26日

周辺プラズマからの光を見る −原子過程と分光計測−

 

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所

 現在行われている大型ヘリカル装置(LHD)の実験・研究内容を随時紹介しています。今回は、プラズマの周辺部からの発光を分光計測することにより、プラズマ中の水素原子などの原子過程を調べて、プラズマ中の粒子の振る舞いや閉じ込めの性質を明らかにする研究を紹介します。

 プラズマは原子核(イオン)と電子がバラバラになった状態ですが、原子がイオンと電子に分れることを電離と言います。そして、核融合プラズマは、燃料として供給される水素原子が電離して作られます。このように、電離はプラズマに粒子を供給する役割を果たすので、効率よく燃料供給を行うためには、プラズマ内のどこでどれだけ電離が起こっているのか、という情報はとても重要です。
 電離は電子などが衝突することによって起こりますが、電離する領域にある原子は発光するので、そのような原子から放出される光を計測することにより、電離が主に起こっている場所を知ることができます。原子は、原子核の周りを回る電子の状態に対応して、無数の内部エネルギー状態を取ることができ、この内部エネルギーの状態が変化するときに、原子は発光します。電子衝突などで低いエネルギー状態から高いエネルギー状態に変わった原子は(これを励起といいますが)不安定で、通常は1億分の1秒程度の短い時間で、低いエネルギー状態に自然に変化します(これを自然脱励起といいます)。この自然脱励起の際、前後のエネルギー状態の差と同じ大きさのエネルギーが光として放出されます。これが原子が発光するメカニズムです。この自然脱励起による発光では、特定の波長の光が放出され、分光により観測されるスペクトルは「線」となるため、「発光線」と呼ばれます。
 さて、原子の発光位置を高い精度で求めるために、ゼーマン効果と呼ばれる量子力学的効果が利用されます。原子は磁場中に置かれると、磁場の強さに応じて対象としているエネルギー状態が分裂し、その結果、観測される発光線も波長が少し異なるいくつかの成分に分裂します。このような性質を利用して、ゼーマン効果により分裂した発光線を観測することにより、発光位置の磁場強度を知ることができます。LHDプラズマ内の磁場強度の空間分布はあらかじめわかっているので、求められた磁場強度からプラズマ内のどこで発光しているのか、すなわち、どこで電離が起こっているのかを知ることができます。
 LHDでは、プラズマのあるドーナツ断面全体をカバーする複数の視線を用いてこのような計測を行った結果、発光領域がプラズマ周辺に層状に存在することが分かりました。そして、発光の強さは不均一で、周辺領域のある特定位置近傍に集中しており、また、発光位置はプラズマの閉じ込め領域よりも外側にあることが明らかとなりました。閉じ込め領域の外側で電離して発生したイオンと電子は、ただちにダイバータと呼ばれる真空容器の排気領域へ導かれて原子に戻るため、この結果は、電離した多くの粒子が粒子供給に直接的に貢献していないことを示しています。しかしながら、実際には、燃料ガスを供給することによりプラズマの密度を制御することが可能なため、粒子はなんらかのメカニズムでプラズマ内に侵入しているはずです。そのため、どのようなメカニズムにより粒子が閉じ込め領域に侵入するのかを明らかにして、より効率的な粒子供給方法を見つけることが今後の課題です。


以上