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平成23年10月11日

プラズマの揺らぎをスーパーコンピュータで再現する

 

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所

 大型ヘリカル装置(LHD)の実験により得られた高温度のプラズマの振る舞いを理解して、将来の核融合発電所のプラズマを予測するためには、理論的な解析が欠かせません。今回は、とても複雑な振る舞いをする実験で得られたプラズマを、スーパーコンピュータを用いた計算により再現する研究を紹介します。

 LHDのような磁場閉じ込めプラズマ装置では、1億度に及ぶ高温プラズマを閉じ込めています。しかし温度の分布は均等ではなく、当然、プラズマ内部には温度差が発生しています。この温度差が曲者で、これによりプラズマは、乱流と呼ばれる複雑な「揺らぎ」を持つ状態になることがあり、このとき、熱がプラズマ内部から外部に向けて急速に運ばれる現象を引き起こしてしまいます。通常、熱は高い温度から低い温度に伝わり、この熱の移動を「輸送」と言いますが、「揺らぎ」などにより、通常より多くの熱が移動する現象を「異常輸送」と言い、プラズマの温度を上げる妨げとなります。この現象をいかに抑えて、効率よく高温プラズマを閉じ込めるかが核融合炉開発では重要な課題です。
 プラズマの温度とは、イオンや電子などの粒子がプラズマ中を動き回る速度を表しているので、温度差による揺らぎを詳しく調べるためは、どの程度の速度を持った粒子がどれくらいプラズマ中に存在するかを考慮しなければなりません。磁場閉じ込めプラズマの場合、粒子が存在する空間位置を表す通常の3次元空間に加えて、粒子の動きは磁力線に沿った方向と磁力線に垂直な方向に分けて考えることができるので、速度については2次元を考慮して、合計5次元の空間を使って、プラズマ中の粒子の分布と動きを調べることになります。そして、プラズマには非常に多くの粒子が存在するため、その分布や動きを正確に捉えるには膨大な数の座標点が必要になり、スーパーコンピュータを使った大規模なシミュレーションが欠かせません。
 LHDのプラズマ実験で得られた結果をできる限り正確に考慮して、このようなシミュレーション研究を進めています。最近の研究では、600億個以上の座標点を持った5次元空間における、世界最高クラスの大規模シミュレーションが実行され、LHD実験で発生するプラズマの揺らぎを再現することに成功しました。これによりプラズマ中の熱の伝わり方を理論的に評価することができるようになり、異常輸送の理解が格段に進みます。将来的には、核融合炉のプラズマをスーパーコンピュータ上に再現して、具体的な炉の性能予測へとつながる成果が期待されます。


以上