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平成23年11月14日

加熱効率を調べる−中性粒子ビームのプラズマによる吸収解析−

 

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所

 本年度の大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマ実験は、10月20日に終了しました。7月28日に実験を開始して以来、7,200回を超えるプラズマ生成を行いましたが、得られた成果も含めて、LHDの実験・研究内容を随時紹介していきます。今回は、中性粒子ビームにより効率よくプラズマを加熱するために、入射したビームのプラズマによる吸収率を調べる研究を紹介します。

 高速度の中性粒子ビームをプラズマに入射して加熱する方法(NBI)は、LHDにおいて高い温度や密度のプラズマを実現する強力な加熱手段です。電荷を持たない中性状態の高速度の水素原子ビームをプラズマに入射すると、プラズマ粒子との衝突によって水素イオンに変換します。この水素イオンがLHDの磁場に閉じ込められ、自らが持つ高いエネルギーをプラズマに渡すことで、プラズマの温度が上昇します。従って、この時に重要になるのが入射した中性水素原子の水素イオンへの変換率、すなわち中性水素ビームのプラズマへの吸収率で、プラズマを効率よく加熱する指標となります。
 プラズマに入射した中性の水素原子は、プラズマとの相互作用によりHα光(エイチ・アルファ光)を放出します。プラズマによりイオン化して吸収された水素イオンは電子を持たないので発光しません。そのため、プラズマ中の水素ビームからのHα発光強度を調べると、プラズマに吸収されずに残った水素ビームの様子が分かります。そこで水素ビームの入射軸線上を観測するようにレンズと光ファイバーを設置して、Hα光の発光強度を計測しました。
 入射した中性水素原子は、プラズマ粒子やプラズマ中の不純物との相互作用により水素イオンに変換するので、観測されたビーム発光強度は、プラズマの密度が濃くなったり、プラズマ中に不純物が入ると減少し、水素ビームのプラズマへの吸収が大きくなるのがわかります。例えば、不純物である炭素の粒を外部からプラズマに入射すると、急激にビーム発光強度が減少する事が観測されています。この時のビームがプラズマに吸収される様子を定量的に調べるため、原子・分子間の衝突、変換等の相互作用に関するデータベースの情報を用いて解析しました。その結果、炭素の粒を入射した直後にビーム吸収率が急激に上昇する事が確かめられ、ビーム発光強度の時間変化が理論的にも分かるようになりました。この強いビーム吸収が、LHDプラズマの温度上昇を引き起こす原因の一つと考えられます。
 このように、プラズマへ入射した水素ビームの発光強度観測と原子・分子データベースを使ったモデル計算を利用して、水素ビームの吸収解析を行い、NBIによる加熱効率の向上を図っています。その結果、LHDプラズマのさらなる性能向上が期待されます。


以上