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平成23年12月12日

高ベータプラズマ研究 −経済的な核融合発電所を目指して−

 

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所

 本年度の大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマ実験で行われた研究内容を紹介していきます。今回は、経済的な核融合発電所を将来実現するための鍵となる高ベータプラズマに関する研究を紹介します。

 LHDでは、超伝導磁石の作り出す磁場の「籠(カゴ)」を用いて高温プラズマを閉じ込めています。プラズマの温度や密度が高くなるとプラズマの圧力が大きくなるので、将来の核融合発電所では、強力な磁場の圧力を使って核融合プラズマを閉じ込めなければなりません。ところが強い磁場を発生させるには大型の超伝導磁石が必要となり、大きなコストがかかります。そのため、小さな磁場の圧力で、できるだけ大きな圧力のプラズマを効率よく閉じ込めることが、核融合発電所の経済性を高めるために重要となります。プラズマの圧力と磁場の圧力の比をベータ値といいます。そして、核融合出力はこのベータ値の2乗に比例することからも、より高いベータ値のプラズマを実現することが核融合発電所を設計する上で必要不可欠となります。
 プラズマのベータ値を上げるには二つの問題をクリアする必要があります。一つはベータ値が上昇するにつれて成長するプラズマの揺らぎです。揺らぎが成長するとプラズマは振動して不安定になり、磁場のカゴから逃げてしまいます。プラズマの圧力は中心で高く、周辺部で低くなりますが、このような圧力の差は揺らぎを成長させる要因となり、この揺らぎが成長するとベータ値の上昇を妨げることが予測されています。もう一つの問題は、ベータ値の上昇に伴って生ずる磁場の構造の乱れです。プラズマの圧力が高くなると、プラズマ自身が磁場のカゴの形を変えてしまいます。プラズマの圧力、すなわちベータ値が上昇するにつれて、特に周辺部の磁場が乱れ始めて、きれいな形をしていた磁場のカゴがしだいに小さくなっていき、ついにはベータ値を制限してしまうことが懸念されています。ベータ値の高い核融合発電所を実現するためには、こうした問題に対する理解を深めて解決することが必要不可欠です。
 LHDでは、ヘリカル型装置として、どこまでプラズマのベータ値を上げることができるのか、また、何がベータ値の上昇を妨げているのか、を明らかにするための研究を精力的に行っています。これまでに、ヘリカル型核融合発電所の設計の指標とされる5%のベータ値を達成し、そのプラズマを安定に定常保持できることを確認しています。高ベータ値のプラズマの揺らぎの成長を調べたところ、プラズマの閉じ込めに大きく影響するほど成長していない上に、その揺らぎの強さは電子温度の上昇とともに小さくなることが確認されました。このことをさらに検証するために、より高い温度での高ベータプラズマを生成するとともに、他の装置との比較研究も進めています。また、ベータ値が5%を超えたプラズマに対しても、その際の磁場の構造の乱れはプラズマの閉じ込めに大きく影響していないことが確認されています。本年度の実験では、この磁場のカゴの形そのものを、プラズマ中での熱の伝わり方などの様々な計測により明らかにする試みが進められました。
 高ベータプラズマにおける磁場の乱れとプラズマ閉じ込めとの関係は、磁場で高温プラズマを閉じ込める装置に共通の課題なため、現在、トカマク型装置を研究している米国と共同研究を立ち上げて、合同で相互の実験を行うことも進めています。

 


以上