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平成24年1月31日

プラズマと壁との相互作用研究 −プラズマに削られた壁材料の振る舞いを探る−

 

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所

 本年度の大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマ実験で行われた研究内容を紹介しています。今回は、磁場に閉じ込められたプラズマを取り囲む真空容器の壁が与える影響について調べる、プラズマと壁との相互作用に関する研究を紹介します。

 核融合を実現するためには1億度を超える高温のプラズマを閉じ込める必要がありますが、こうした高温プラズマは磁石の力で宙に浮かして保持されています。そして、プラズマは真空状態で生成・保持されるので、その外側は真空容器に取り囲まれています。プラズマを保持している磁場の「かご」の形を工夫して、高温プラズマは真空容器の壁に直接触れないようにしていますが、「かご」の外に出たプラズマは磁力線に沿って流れ出し、温度を下げながら決められた場所(ダイバータ)に導かれて終端します。このダイバータにはプラズマが直接流入するため、プラズマがダイバータの材料に触れることによって材料が削られる現象(損耗)や、削られた材料が別の場所に積もって付着する現象(再堆積)が生じます。また、こうした材料表面や再堆積物にプラズマからの粒子や燃料ガスが吸着するという現象も起こります。プラズマが直接触れることのない壁にもプラズマから飛び出してくる粒子が当たるため、壁表面からガスが出てきたり、壁材料が削られたりします。こうした現象をプラズマ壁相互作用と呼んでいますが、ダイバータ材料の損耗と寿命、削られた材料が不純物となってプラズマを冷やしてしまう問題など、核融合を実現するために解決しなければならない課題がいくつかあります。また、壁表面や再堆積物の状態により、燃料ガスやプラズマ粒子の吸着量および放出量に違いがあることから、プラズマを安定に長時間保持するためにも、プラズマ壁相互作用の研究は重要です。
 次世代の核融合装置では、プラズマに直接触れる場所に、高耐熱金属であるタングステンという材料を使うことが検討されています。このタングステンをLHDのダイバータ部のプラズマにさらして、その表面の変化を調べました。すると、表面の一部にアーク放電が生じた痕が観測され、それを調べたところ、アーク放電の痕跡とプラズマを閉じ込める磁場の方向に関係のあることが明らかになりました。
 プラズマとの相互作用により削られた壁等の材料の一部は、プラズマ中に混入します。これをダストと呼んでいますが、LHDでこのダストを捕集する実験も行いました。エアロゲルという密度が低く多数の穴が空いている材料をプラズマに触れさせて、プラズマ中を飛来するダストを捕まえました。エアロゲルは宇宙空間のダストの捕集にも使われていますが、エアロゲルに向かって飛来したダストは、隕石が地球に衝突したかのように、エアロゲルの中にめり込みます。そのため、エアロゲルに入ったダストは逃れにくく、ダストの飛来数をより正確に調べることができました。その結果、プラズマに接触する場所とそうではない場所で、飛来するダストの数が違うことが明らかになりました。
 他にも、壁表面に再堆積した炭素の膜の状態の違いにより、膜の中に含まれる燃料ガスの量に違いがあることを、LHD実験で明らかにするなど、プラズマ壁相互作用研究では、プラズマと直接触れている、あるいはプラズマに面している材料の変化を分析することで、より安定した高温プラズマを実現する課題に取り組んでいます。


以上