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平成24年5月21日

密度とその揺らぎを測る −レーザー光を用いたプラズマの極限計測−

 

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所

 大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマ実験では、高温・高密度というプラズマの極限状態を計測する必要があります。今回は、こうしたプラズマの極限計測の一つである、赤外線炭酸ガスレーザー光を用いたプラズマの密度とその揺らぎの計測について紹介します。

 プラズマの研究には多くの計測装置が使われています。温度や密度といった、人間に例えれば体温や体重に相当する基本的な計測に加えて、フラフラと不安定になっていないかなど、プラズマの「体調」なども計測しなければならないため、こうした計測のことをお医者さんよろしくプラズマ「診断」ともいいます。ただし、プラズマの温度は数千万度から数億度という超高温のため、体温計や聴診器といったものをプラズマに入れることはできません。そこで、プラズマから出てくる光などを利用してプラズマの状態を調べることが行われています。また、出てくる光だけではなく、プラズマにレーザー光を入射して、プラズマとの相互作用により、プラズマの情報を持って出てきたレーザー光を計測することも行われており、この方法は、プラズマの内部の状態をより詳しく調べる上で非常に役立ちます。レーザー光は、蛍光灯などの光と違って光の広がりがとても小さいので、効率よくプラズマの内部まで入射することができ、また、プラズマの状態を乱すこともありません。ここでは、LHDで使われている炭酸ガスレーザー光を用いた計測装置について紹介します。
 光は電磁波であり、山や谷のある波で、目に見える光(可視光)の波長は1万分の4から8ミリメートルです。蛍光灯などから出る光の束は、個々の波の山や谷の位置がバラバラですが、レーザーの光の束は、個々の波の山や谷の位置がそろっているという特徴があります。炭酸ガスレーザーの出す光の波長は可視光より長く、およそ100分の1ミリメートルで、目に見えない赤外線です。
 さて、プラズマ中では、光の波の伝わる速さがプラズマの密度に比例して速くなるという性質があります。そのため、炭酸ガスレーザー光をLHDのプラズマに入射した場合、プラズマを通過させたレーザー光と通過させないレーザー光を比べると、プラズマの密度に応じて、1,000分の1から100分の1ミリメートル程度、光の波の山と谷の位置がずれてきます。この波長程度のわずかなずれを計測することにより、プラズマの密度を求めることができます。さらには、計測システムの感度を上げることにより、プラズマの密度のさらに100分の1程度の微小な密度の揺らぎを計測することもできます。この微小な揺らぎはプラズマの閉じ込め性能を劣化させる原因と考えられているため、こうした計測によりプラズマ中での揺らぎの構造を調べています。
 このように、炭酸ガスレーザーを用いることにより、プラズマ密度という基本的な計測と揺らぎというプラズマの「体調」を診断することができます。これらの結果は、コンピューター・シミュレーションによる理論検討でも、完全ではないものの再現することができています。この他にも、最新の診断機器が極限状態のプラズマの計測には使われています。


以上