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平成24年7月17日

長時間保持プラズマの粒子の収支を見積もる −定常プラズマ研究−

 

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所

 大型ヘリカル装置(LHD)は、高性能プラズマを長時間連続的に保持することができるというすぐれた特徴を持っています。LHDのプラズマは真空容器内に生成されますが、長時間にわたってプラズマを保持する際に、プラズマ粒子の基となるガスは絶えず容器内に供給され、排出されます。今回は、定常プラズマ研究において重要な課題として取り組んでいる、プラズマを長時間保持する際の粒子の供給・排出バランスの研究について紹介します。

 LHDで行われているプラズマ実験では、通常は2〜3秒間しかプラズマを生成していませんが、プラズマの性質を調べる目的には、この短い時間で十分です。しかし、将来の核融合発電所では、1年以上の長期間にわたって連続的にプラズマを保持しなければなりません。LHDは、高性能プラズマを連続的に保持することが原理的に可能であり、すでに、電磁波により1千万度以上に加熱されたプラズマを1時間近くにわたって定常的に保持することに成功しています。
 プラズマを定常的に保持するためには、プラズマ加熱の維持と共に、プラズマの基となる水素やヘリウムなどのガスを適切な量だけ入れ続ける必要があります。2〜3秒程度のプラズマ生成の場合は、供給するガスの量を予め設定して問題ありませんが、数十秒を超えてプラズマを保持しようとすると、真空容器内の状況が時間と共に変わるため、それに応じてプラズマの密度が刻々と変化してしまいます。そこで、プラズマ密度を一定に保つために、その時刻その時刻でのプラズマ密度に基づいて、真空容器内に入れるガスの供給量を自動で調整しています。
 一方、供給されたガス(粒子)は、プラズマになったりガスに戻ったりして真空容器内に留まるため、真空ポンプにより、絶えずある一定の量のガス(粒子)を容器外へ排気しています。さて、それではプラズマ密度を一定に保つために入れた粒子数(ガス)と真空ポンプによって排気された粒子数(ガス)の関係、つまり、粒子の収支バランスはどうなっているのでしょうか。プラズマ保持時間が約5分の場合と約1時間の場合について調べてみると、どちらの場合も入れたガス量の方が排気したガス量より多いことがわかりました。特に5分の場合では、排気したガス量の約20倍という大量のガスが真空容器内に入れられていました。プラズマ密度は一定なので、このガスはいったいどこへ行ったのでしょうか。そこで考えられるのがステンレス鋼でできている真空容器壁へのガスの吸蔵です。このようなガスの吸蔵は、小型のプラズマ実験装置で観測されており、最初の30分間は真空容器壁にガスが吸蔵され、それ以降は壁からガスが放出されたことが報告されています。大型装置のLHDでも、今後、さらにプラズマ保持時間を延ばしたり、供給ガス量を増やしてプラズマ密度を高めたりすると、真空容器壁がガスの吸蔵状態から放出状態に変わる現象が生ずることが予想され、その時のプラズマの状態の変化、その後の壁の状態の変化等、調べなければならないことがたくさんあります。
 このように、1年以上にわたって連続的にプラズマを保持しなければならない将来の核融合発電所の実現に向け、さまざまな課題の解決を目指して定常プラズマ研究を進めています。


以上