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平成24年9月25日

壁近くのプラズマを調べる −探針を用いた周辺部の計測−

 

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所

 核融合プラズマ装置では、高温のプラズマを磁力線のかごに閉じ込めていますが、プラズマは真空中に生成されるため、磁力線のかごは金属製の真空容器の中に作ります。そのため、磁力線のかごの外側の真空容器の壁近くにも、温度や密度の低いプラズマが存在します。今回は、大型ヘリカル装置(LHD)で行われている、このような壁近くにある周辺部のプラズマをプローブと呼ばれる探針で計測する研究ついて紹介します。

 磁力線のかごに閉じ込められたプラズマの中心部は数千万度から1億度以上の高温度になりますが、かごの最も端(境界面)では数百万度以下の温度に下がっています。そして、このかごの最も端から引き出された磁力線に沿ってプラズマを導き出してさらに温度を下げ、ダイバータと呼ばれる受熱板に流入させて、プラズマを終端させています。この時、かごの境界面から直接プラズマが逃げたり、受熱板への流れから逃げ出すプラズマがあるため、真空容器の壁近くには、温度や密度の低いプラズマが存在します。このようなプラズマが真空容器の壁に当たると、不純物を出して高温のプラズマを冷やしてしまうとともに、長い間には壁が少しずつ損耗していきます。そのため、将来の核融合発電所を設計するためには、温度や密度の低いプラズマがどのようにして真空容器の壁近くまでやってくるのか(これをプラズマの輸送といいます)を調べることが重要になります。そこでLHDでは、「静電プローブ法」と呼ばれる計測手法を用いて壁近くのプラズマの計測を行い、プラズマの輸送を調べています。
 静電プローブ法では、針の形をした小さな電極をプラズマ中に挿入して電圧をかけ、その時に電極に流れる電流を測ることで、プラズマの温度や密度を求めます。針でプラズマの様子を探ることから、プローブは「探針」と呼ばれています。静電プローブ法はプラズマに電極を挿入するため、通常は電極が損傷しないよう、計測対象は温度の低い周辺部のプラズマに限られます。一方で、電極を挿入する場所を細かく設定できるので、プラズマの温度や密度分布を高い空間分解能で測ることができるという特長があります。そこでLHDでは、圧縮空気のシリンダを使うことにより、高速で電極をピストンのようにプラズマに差し込み・引き抜きができる、高速掃引静電プローブを設置しました。これにより、電極のプラズマへの挿入時間が短時間になったため、壁近くのプラズマだけではなく、少し温度や密度の高いプラズマまで計測できるようになりました。
 さて、真空容器の壁近くのプラズマ輸送では、最近「プラズマブロッブ」と呼ばれる現象が注目されています。これは、プラズマの塊(ブロッブ)が磁力線を横切って移動する現象です。イオンや電子は磁力線に巻き付いて運動するので、プラズマは磁力線を横切る方向には動きにくく、磁力線に沿っては動きやすいのが普通です。ところが、このプラズマブロッブは磁力線を横切って輸送され、しかも遠くまで移動するため、真空容器の壁近くのプラズマの分布に影響を与えることが予想されます。そこで、この現象がどのように起こるのかを調べるため、高速掃引静電プローブを用いて計測を行ったところ、LHDではプラズマブロッブ輸送がダイバータ受熱板の近くで起こりやすく、そこでのプラズマの分布を広げることが分かってきました。分布が広がるということは、受熱板に入る単位面積当たりのプラズマが少なくなるため、受熱板の損耗が小さくなります。そのため、将来のヘリカル型核融合発電所に対して有効な現象といえます。とはいうものの、プラズマブロッブの輸送に関しては、まだ分かっていないことも多いので、このことの確認も含めて、今後も静電プローブ法を用いてさらに研究を進めていく予定です。


以上