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平成24年10月9日

プラズマの中に「島」がある? −磁力線のカゴの自己修復機能−

 

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所

 大型ヘリカル装置(LHD)をはじめとする磁場閉じ込め核融合実験装置では、高温高密度のプラズマを磁力線のカゴの中に閉じ込めていますが、装置やプラズマの条件によっては、磁力線のカゴに「磁気島」と呼ばれるほころびができることがあります。「磁気島」は多くの場合プラズマ性能の低下をもたらすため、その性質が調べられています。今回は、LHDで行われている「磁気島」の研究について紹介します。

 皆さんは「島」と聞いて何を想像しますか。椰子の木が生えた南国の島ですか、宮城県松島の美しい光景ですか。世の中にはいろいろな島がありますが、実は、プラズマの中にも「島」が存在するのです。といっても、本物の島ではなく、「島のように見える構造」があるのです。LHDでは、プラズマを閉じ込めるために、超伝導コイルを用いてドーナツの形をした磁力線のカゴを作ります。そのカゴの断面は、理想的にはちょうど節のないきれいな年輪のような入れ子状の形をしています。ところが現実には、コイルのわずかなズレや周囲の機器に含まれている磁性体が作り出す磁場が悪さをして、きれいな形をしたカゴの一部を歪ませて、木目に現れる節のような構造を作り出してしまいます。この構造はちょうど島のように見えることから、磁気島 (じきじま)と呼ばれています。この磁気島が現れると、磁力線のカゴの中に閉じ込められているプラズマの量が減るなど、プラズマ性能の低下が観測されます。そのため、LHDでは補正コイルを用いて磁気島の発生を抑えることを行っていますが、磁気島の発生の仕組みやその性質を調べ、磁気島の制御法を確立することは重要な課題です。
 LHDでは、10年ほど前から磁気島の不思議な振る舞いが観測されてきました。それは、補正コイルを使うなど外部から何もしていないのに、磁気島がひとりでに大きくなったり消えたりする現象です。ここ数年の詳しい研究により、プラズマの圧力が低いときは磁気島が成長し、逆に高いときは磁気島が突然消失してしまうということが分かってきました。磁気島が消失する現象はまるで、プラズマ自身が自分で磁気島を消しているように見えます。圧力の高いプラズマを生成すると磁気島が消えるという特性は、高い圧力のプラズマが必要な核融合発電所の実現に向けて、とてもよい性質と言えます。
 ところが、「磁気島が勝手に消えるので一件落着」というわけにはいきません。なぜならば、「大丈夫」と思っていても、想定外のところで磁気島が突然現れてしまうことも考えられるため、磁気島が消える条件を明確にする必要があるからです。そこでさらに研究を進めた結果、ドーナツの太さ周りの方向に沿ったプラズマの回転がカギを握っていることがわかりました。プラズマが回転すると磁気島が消えてしまい、プラズマの回転速度が下がるとそれまで消えていた磁気島が再登場してしまうのです。ここで問題になるのは、プラズマの回転と磁気島の消失が「卵が先か、鶏が先か」ということです。注意深く実験をして慎重にデータを解析した結果、プラズマの回転が先で磁気島の変化が後、ということが明らかになりました。こうしたLHDでの研究成果により、他のヘリカル型の実験装置においても類似の現象が観測されるようになり、今後の研究の進展が期待されています。


以上