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平成24年11月19日

強力なレーザー光が電子温度を測る −高性能レーザーの開発−

 

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所

 大型ヘリカル装置(LHD)では、2億度を超える電子温度のプラズマが得られていますが、そうした電子の温度や密度は、強力なレーザー光を用いて測定します。今回は、電子温度や電子密度をさらに高精度で測ることを目指して行われているレーザーの高性能化に関する研究を紹介します。

 人間の体温は薬局で売られている体温計を使って測定しますが、数千万度を超えるプラズマの温度はどうやって測るのでしょうか? プラズマはとても高温なので温度計を挿入することはできませんし、また、プラズマはとてもデリケートなので温度計を挿入しただけでプラズマの状態が変わってしまいます。そこで、プラズマの温度、特にプラズマの電子の温度を測定するために、とても強力な光、レーザー光を用います。光は高温のプラズマ中へ入ることができるうえ、プラズマに影響を及ぼすこともありません。プラズマに入射したレーザー光は、プラズマ中の電子に当たって跳ね返りますが、電子が動く速さに応じて跳ね返ってくる光の色が変わります。その光を集め、集めた光の色が何色かを調べることで電子の動く速さ、つまり温度を知ることができるのです。これは、「ネズミ捕り」と呼ばれる電波を用いた自動車の速度違反の取り締まりと同じ原理です。
 LHDでは、非常に強力なレーザー光を発生するレーザー装置を3台用いてプラズマの電子温度計測を行っています。1回に出力するレーザー光のエネルギーは2 ジュールと、1ccの水の温度を0.5度しか上げることができませんが、10 ナノ秒(1億分の1秒)という非常に短い時間に出力されるため、ピーク電力に換算すると、なんと20万キロワットとなります。これは1億分の1秒という瞬間的ではありますが、60 Wの白熱電球、約330万個の電力に相当します。LHDで用いているレーザー装置はこのようなレーザー光を1秒間に10回から30回発生させることができます。そして、3台のレーザー装置を組み合わせて、このような強力なレーザー光を1秒間に50回発生させ、時々刻々と状態が変化するプラズマの電子温度を測定しています。
 さて、レーザー装置の中には、強力なレーザー光を発生させる源であるレーザー媒質が入っています。LHDのレーザー装置ではNd:YAG(ネオジム・ヤグ)というレーザー媒質が使われていますが、この媒質により発生するレーザー光の性能が決まります。最近、セラミックス、つまり焼き物の技術でレーザー媒質を作成することにより、レーザー装置の性能が大きく向上することがわかりました。核融合科学研究所では、大阪大学とレーザー技術総合研究所と共同で、レーザー媒質に適用する透明なセラミックスの熱伝導率(材料中の熱の伝わりやすさ)、線膨張係数(熱によって材料が伸縮する割合)、屈折率の温度変化率(温度によって材料中の光の進みやすさが変化する割合)を測定しました。その結果、このセラミックスを低温状態で使用すると、現状のレーザー媒質よりも20倍も熱特性に優れていることがわかりました。このことは、レーザー光の1秒間の発生回数や発生したレーザー光のエネルギーを向上させることができる可能性を示しています。
 プラズマ研究の進展によって、時々刻々と変化するプラズマをより精密に調べる必要性が高まっています。近い将来、焼き物を使って作ったレーザー光がそれを可能にし、それにより、プラズマ研究をさらに発展させることが期待されます。


以上