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平成24年12月3日

ミクロな世界の地層を調べる −堆積層のナノ地層学的診断法−

 

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所

 大型ヘリカル装置(LHD)の真空容器の中にプラズマを点けると、プラズマ中の粒子が真空容器の壁に当たるなどして、ほんのわずかですが壁の一部が削られます。そして、削られた壁の材料は別の場所に積もって薄いミクロな堆積層を形成し、場合によっては、この堆積層が原因でプラズマの性能が低下することがあります。今回は、この堆積層がどのように形成され、プラズマの性能にどのような影響を及ぼすのかについて、ミクロな世界の「地層学」から明らかにする興味深い研究を紹介します。
 
 小学校の理科の授業で学ぶ「地層」は、長い年月にわたってさまざまな土や砂、火山灰、植物や生物の骨などの遺がいなどが堆積して形成されますが、各層は、その時代、その地域の状況を反映しているので、地層から年代やその時の環境などを知ることができます。ちょっと驚きですが、これと同じ地層がLHDの真空容器の壁の上にも形成されています。プラズマ中の粒子が真空容器の壁に当たった際にわずかに削られた壁の材料は、吹き溜まりのような場所に集まって積もります。壁をきれいにする目的で低温の薄いプラズマを直接壁に当てることもあるなど、運転条件や実験条件により、削られる壁の場所や材料が異なるため、それらが堆積する場所に「地層」ができるのです。ただし、LHDの地層は、全体の厚さがわずか1,000分の1ミリメートル、各層の厚さは数10ナノメートル(1ナノメートルは100万分の1ミリメートル)という小さなサイズです。壁材料に使用されている炭素や鉄などがミクロなスケールの層を混合して形成しているため、混合堆積層と呼んでいます。
 さて、このような薄い混合堆積層ですが、時として、巨大なLHDプラズマに大きな影響を与えることがあります。壁表面のいろいろな場所に形成される混合堆積層は、スポンジのようにプラズマ粒子である水素を吸収するため、粒子の供給バランスを崩す要因となります。さらに、層状のもろい構造なため、ボロボロとはがれ落ちてプラズマ中に不純物として入り、プラズマの長時間維持に悪影響を及ぼすこともあります。
 この混合堆積層の特性を調べ、プラズマへの影響を低減するために、極めてユニークな「ナノ地層学的診断法」を開発しました。特殊なナノスケールの加工装置を用いて、高さと幅がそれぞれ100分の1ミリメートル、厚さが100ナノメートルという小ささの堆積層の断面の薄片を切り出し、それを電子顕微鏡によって観察するという手法です。この手法により、混合堆積層のナノ構造が明らかになってきました。数10ナノメートルの厚さの各層は、プラズマの種類や特性、運転条件などによって組成や構造が異なっており、金属を多く含む層は特にもろいため、堆積層全体をはく離させる要因となっていることがわかりました。生成したプラズマの履歴との比較から、金属堆積層を形成しやすいプラズマの種類も明らかになりました。また、大部分の混合堆積層は炭素が主成分となっており、これらが水素を吸収する要因となっていることも確認されました。
 今回の研究では、ナノ地層学的診断法によりミクロな世界の地層の特徴を調べ、LHDの混合堆積層の形成の歴史を明らかにしました。このように、LHDの巨大なプラズマの長時間維持には、ナノスケールの極めて小さな視点での材料研究が必要であることがわかっていただけたと思います。今後もナノ地層学的診断法を用いることにより混合堆積層の特性を理解して、プラズマのさらなる高性能化を目指します。

 


以上