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平成25年2月18日

FMラジオの周波数帯の電磁波が切り拓くプラズマ加熱の世界

 

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所

 大型ヘリカル装置(LHD)では、様々な方法でプラズマを加熱していますが、その1つに、FMラジオで使われている周波数帯の電磁波(電波)を用いた加熱法があります。放送局等で比較的大きな出力の電波の取り扱い技術が実用化されていることから、これを利用したプラズマ加熱方法の高度化が行われています。今回は、FM周波数帯の電磁波を利用したプラズマ加熱法の研究について紹介します。

 FMラジオでは70MHz〜100MHz程度の周波数の電波が使われていますが、電波は正式には電磁波と言い、プラスとマイナスの電気が交互に変わりながら伝わっていく波です。プラスとマイナスが1秒間に変わる回数が周波数で、80MHzでは、1秒間に8千万回変わります。この電磁波によりプラズマを加熱することができますが、電磁波をプラズマへ入射するためにはアンテナを使います。ラジオのアンテナは電磁波を受信するために用いますが、ここでは、アンテナをプラズマのすぐ近くに置いて、電磁波をプラズマに放射するために用います。
 アンテナは金属の板でできていますが、そこから放射される電磁波とその近傍のプラズマとの相互作用、電磁波のプラズマへの吸収過程などが非常に複雑なため、形状などを工夫してアンテナの設計を行っています。最近、より高性能なプラズマを定常的に維持するためにアンテナを改良し、そのアンテナをドーナツ型のLHDプラズマの外側のドーナツ円周方向に2本並べて配置しました。これをトロイダルアレイアンテナと言います。
 トロイダルアレイアンテナを使うと、アンテナから放射される電磁波の波の性質を高度に制御することができます。アンテナからの電磁波の波はプラズマが生成される真空容器の中を伝わりますが、1m当たり何個の波があるかを示す指標を波数といいます。トロイダルアレイアンテナではこの波数(ha su u)を制御でき、そして形状がまるで握手(handshake)しているかのように見えることから、HASアンテナと命名しました。
 HASアンテナを用いると、アンテナ近傍の周辺プラズマと局所的に強い相互作用を起こさず、かつ中心のプラズマ性能を劣化させることもなく、有効にプラズマを加熱できることが、実験で確認できました。そこで、このHASアンテナを用いて性能の高いプラズマを定常的に保持する実験に挑戦したところ、密度が1cc当たり10兆個と比較的高い高性能なプラズマを約19分間にわたって維持することに世界で初めて成功しました。このように、HASアンテナは中心部のプラズマを有効に加熱できることが示された一方で、従来のアンテナに比べてアンテナからプラズマへパワーを放射させる能力が低いことも分かりました。そのため、プラズマへの入射パワーをいかにして増やすかが、今後の課題となっています。


以上