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平成25年4月1日

イオンの世界の「適材適所」 −プラズマ周辺部での不純物分光計測−

 

 

  大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
 

核融合科学研究所

 大型ヘリカル装置(LHD)では、水素ガスをプラズマ化して、壁に触らないように、磁力線で作ったドーナツ型の「かご」の中に閉じ込めています。プラズマはイオンと電子がバラバラになった状態ですが、水素イオン以外にも、炭素や酸素、金属などのいろいろなイオンが不純物として存在しています。では、これらの不純物はプラズマの性能にどのような影響を及ぼすのでしょうか? 今回は、不純物イオンが放出する「光」を計測することにより、不純物の振る舞いを調べる研究について紹介します。

 不純物イオンは、プラズマからエネルギーを吸収して、そのエネルギーを光として放出するため、プラズマの温度を下げてしまうことがあります。そのため、磁力線の「かご」の内部でプラズマの温度を高く保つためには、不純物は少ない方がよいといえます。ところが、「かご」の外側に目を向けてみると、不純物の役割が変わってきます。磁力線が幾重にも重なることによりプラズマを閉じ込める「かご」ができていますが、その表面の近くにある磁力線の一部は、プラズマを閉じ込めている領域より外側の遠く離れた地点まで伸びていて、その先に置かれた受熱板に到達します。この磁力線に沿って、温度は比較的低いのですが、受熱板には「かご」から漏れ出たプラズマが流れてくるため、受熱板の過度な温度上昇を抑える必要があります。このとき、受熱板の前面に不純物イオンが適量存在すると、流れてきたプラズマのエネルギーを吸収して光として放出してくれます。その結果、受熱板に流れ込むエネルギーが低くなり、受熱板の温度上昇が抑えられます。「かご」の中では邪魔者だった不純物が、「かご」の外では受熱板を守ってくれるのです。
 このように、不純物イオンには「適材適所」な役割がありますが、その役割を果たしてもらうためには、不純物がプラズマ中にどれくらい存在し、どのようにプラズマに出たり入ったりするかを調べる必要があります。ここで役に立つのが、プラズマから出てくる光を波長ごとに分けて計測する「分光」という手法です。プラズマ中の不純物イオンは、その種類によって異なる波長の光を放出します。私たちが目で見ることのできる光である「可視光」(波長400〜800ナノメートル、1ナノメートルは10億分の1メートル)をはじめ、それより波長の短い「紫外線」(数10〜約400ナノメートル)や「エックス線」(数10ナノメートル以下)、あるいは可視光よりも波長の長い「赤外線」など、その波長領域は広範囲にわたっています。どの波長の光がどれくらいの強さで出ているのかを調べることにより、不純物の種類と量がわかります。
 LHDでは、様々な種類の不純物分光計測が行われていますが、最近、磁力線の「かご」の内側と外側を分ける表面付近から放出される紫外線に対する分光計測を整備しています。「かご」の少し外側では、長短さまざまな長さの磁力線が折り重なった「層」が形成されているのですが、この「層」を厚くすると、不純物イオンが外側から「かご」の中に入りにくくなる「遮へい現象」が起こることが、これまでの研究によりわかってきました。このような現象を調べる上で、炭素イオンなどが放出する紫外線の計測が役に立ちます。そこで現在、「かご」の表面近くの「層」の中を細かい間隔で観測できるようにして、どの空間位置からどれくらいの強さで不純物イオンによる紫外線が出ているかを調べる計測法を整備しています。さらにこの計測では、波長の微小な変化から不純物イオンの温度や流れの速さも計測する計画です。このような計測を通して、不純物イオンがプラズマに出入りする条件を調べて、不純物が「かご」の中には入らず、外側にいてくれるような制御方法の確立を目指します。


以上