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平成25年7月8日
多価イオンからの光を調べる −CoBITを用いた多価イオンの基礎研究−
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所

 将来、核融合発電を実現するためには、燃料ガスである水素をイオンと電子がバラバラになったプラズマ状態にして、1億2千万度を超える高温度にする必要があります。ところが、高温度の水素プラズマに鉄などの不純物が入ると、これらの原子が持っている電子がはぎ取られて多価イオンとなり、光を発してエネルギーを放出するため、プラズマの温度を下げてしまうことがあります。今回は、独自に開発した多価イオンを作り出す装置を用いて、多価イオンの挙動やそれが放出する光の性質を調べ、高温プラズマ中での多価イオンの振る舞いを解明するための基礎データとする研究について紹介します。

 原子は、中心部分に正の電気を持つ原子核と、それを取り巻く複数の負の電気を持つ電子から成っています。そこから電子を1個取り去るとイオンになり、それを1価のイオンと呼びます。2個、3個と複数の電子を取り去ることも可能で、そのようなイオンをそれぞれ2価、3価の多価イオンと呼びます。
 核融合プラズマで燃料ガスとして使われる水素は、電子を1個しか持っていないので多価イオンにはなりませんが、炭素や鉄などの電子をたくさん持っている原子が高温度のプラズマに入ると、プラズマ中の高いエネルギーの電子との衝突により、次々と電子がはぎ取られて多価イオンになります。プラズマに対向する壁材料として有望な高耐熱性金属のタングステンの原子は、電子を74個持っています。このタングステンが、プラズマとの相互作用により不純物としてプラズマ内部に混入すると、どんどん電子がはぎ取られて、40価、50価のタングステン多価イオンになることもあります。このような多価イオンは、価数が高いほど多くのエネルギーを光として放出してしまうため、場合によっては高温度のプラズマを冷やしてしまいます。そのため、将来の核融合発電を実現する上で、タングステンなどの多価イオンのプラズマ中の挙動や発光の状態を知ることが非常に重要となってくるのです。
 そこで研究所では、独自に多価イオンを作り出す装置、電子ビームイオントラップ装置(CoBIT)を開発して、タングステンなどの多価イオンを価数状態などを制御して生成し、高温プラズマ中に存在するであろうタングステンなどの多価イオンの生成過程や発光過程に関する基礎研究を進めています。CoBITは、外部からエネルギーの制御された電子ビームを入射して、高効率に多価イオンを生成して閉じ込めることが可能な装置です。そのため、閉じ込めた多価イオンの価数を電子ビームのエネルギーを変化させることで変えることができ、また、独自に開発した専用の分光器により、多価イオンからの発光を連続的に観測することもできます。このようにしてCoBITで観測された、生成条件が明確なタングステン多価イオンからの発光線を、大型ヘリカル装置(LHD)の高温プラズマで観測される種々の価数のタングステン多価イオンからの複雑な発光線の集まりと比較して、どの発光線がどのような価数のイオンから光っているのかなどを解析しました。その結果、21価から40価までの価数のタングステン多価イオンの発光線を、発光過程を含めて同定することができました。
 このように、CoBITを用いた多価イオンに関する基礎研究は、LHDの高温プラズマ研究において重要な基礎データを提供しており、核融合実現へ向けた研究を学術的な側面から支えています。

以上