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平成25年7月22日
プラズマ中の電場を測る −重イオンビームプローブ法による計測−
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 プラズマは、正の電気を持つ原子核(イオン)と負の電気を持つ電子がばらばらになった状態ですが、イオンや電子は磁力線(磁場)に巻きつく性質があるので、大型ヘリカル装置(LHD)では、超伝導磁石を用いてドーナツ型の磁場のカゴを生成して、プラズマを閉じ込めています。ところが、イオンと電子はプラズマ中での振る舞いが異なるため、条件によっては、それぞれが持つ正または負の電気によりプラズマ中に電場が発生します。そして、その電場によりイオンや電子の振る舞いは大きな影響を受けるため、高温プラズマの閉じ込め性能を向上させるためには、電場生成のメカニズムを解明することが重要です。今回は、LHDで行われている重イオンビームプローブ法によるプラズマ中の電場計測について報告します。

 電場とは、正や負の電気の間に働く力に相当するもので、身近なものに例えると、乾電池のプラスとマイナス間の電圧に対応すると考えてもよいでしょう。そして、ある位置における電圧を電位ともいいます。さて、乾電池の電圧はテスターで簡単に計測できますが、高温のプラズマ中にテスターを直接入れることはできません。そこで、LHDでは重イオンビームプローブという計測器を用いて電場を計測しています。
 重イオンビームプローブ計測では、まずプラズマ中にイオンビームを打ち込む必要があります。しかし、LHDは強い磁場により、イオンと電子のプラズマを内部に閉じ込めているため、外部からプラズマにイオンを打ち込もうとしても、通常は磁場ではね返されてしまいます。プラズマの中心までイオンビームを打ち込むためには、ビームの速度を上げた重いイオンを利用して、強い磁場中でも曲がりにくいビームを生成する必要があります。そこでLHDでは、600万ボルトに加速した重い元素である金のイオンビームを生成しています。金の原子から電子が1個取れた1価のイオンビームを探査用(プローブ)のビームとしてプラズマ中に打ち込むと、その一部はプラズマ中で電子が1個はぎ取られて2価のイオンビームに変わります。この時、イオンビームの持つ電気が2倍になるため、その位置におけるプラズマの電位に相当したエネルギーをイオンビームはもらいます。そこで、プラズマを通り抜けて外部に再び出てきたビームのエネルギーを精密に測定することにより、プラズマの電位、すなわち電場を測定することができます。
 プラズマ中の電位は数百〜数千ボルトであるため、600万ボルトに加速したイオンビームのエネルギーの変化は1万分の1程度とごくわずかです。このため、非常に高精度でビームのエネルギーの変化を計測する必要があります。LHDでは最近、計測器の改良を進めて性能を向上させた結果、数百ボルト程度の変化まで精度よく、かつ高速に測定することが可能になりました。これにより、プラズマ中の電位が時間的に急激に変化する現象や空間的に特徴的な電位変化の現象を計測することに成功しました。今後は、さらに計測器の精度を高めて、プラズマ中の電場構造を詳細に調べ、高温プラズマの閉じ込め性能への影響を明らかにして、プラズマの高性能化を目指します。

以上