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平成25年9月2日
高性能プラズマの長時間保持を目指して −イオンサイクロトロン共鳴加熱−
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

  大型ヘリカル装置(LHD)のメンテナンス作業も終了して、8月12日に真空排気を開始し、いよいよ本年度のLHDの運転がスタートしました。プラズマ実験は、超伝導コイルの冷却に続いて、10月初旬から年末までの約3ヶ月間を予定しています。今年の実験で目標とする課題の1つに、高性能プラズマの数10分を超える長時間保持があります。高性能プラズマを長時間にわたって生成・保持するために、電波(電磁波)をアンテナからプラズマに放射するイオンサイクロトロン共鳴加熱と呼ばれる加熱方法が使われます。今回は、今年の実験に向けて新型のアンテナを設置したイオンサイクロトロン共鳴加熱について紹介します。

 プラズマはプラスの電気を持ったイオンとマイナスの電気を持った電子がバラバラになった状態ですが、電気を持ったイオンや電子は磁力線の回りをグルグルと高速で回転する性質があります。LHDではその性質を利用して、超伝導コイルの作るドーナツ型の磁力線のカゴにプラズマを閉じ込めていますが、磁力線を回る回転数は水素イオンの場合、1秒間におよそ4千万回にもなります。ここで、プラスの電気を持つイオンが回転するのに合わせて、プラスとマイナスが交互に変わるように振動する電気を加えてやるとどうなるでしょうか。すると、前に行くブランコを後ろから押してやり(プラス)、戻る時には後ろに引いてやる(マイナス)と勢いがつくのと同じように、回転するイオンの速度を上昇させることができます。このように、磁力線の回りを回転するイオンに同期して振動する電気(電界)を加えることによりプラズマを加熱する方法を、イオンサイクロトロン共鳴加熱といいます。
 イオンサイクロトロン共鳴加熱では、プラズマの近くに設置したアンテナを用いて電波(電磁波)をプラズマに放射して、振動する電界を発生させます。毎秒4千万回の回転に同期させるためには、FMラジオの周波数に近い40メガヘルツの電波が使われます。イオンサイクロトロン共鳴加熱は、放送局などでも使われるこの周波数帯の発振器が既に開発されていることもあり、主にLHDの特徴の一つである長時間運転で用いられています。昨年度は1,000キロワットの加熱入力電力で、高性能プラズマを19分間保持することができましたが、この時の加熱入力電力の約70%をイオンサイクロトロン共鳴加熱が担いました。
 イオンサイクロトロン共鳴加熱では、電波をプラズマ中のイオンに放射するのに使われるアンテナの役割が重要です。本年度の実験では新しいアンテナを2台追加し、これにより加熱電力を増加させる予定です。この新型アンテナの特徴は、振動する電界の向きを磁力線に対して垂直になるようにアンテナを傾けて、これまでよりも効率よくイオンを加熱できるようにしたことです。また、アンテナへの電波の給電方式を工夫して、プラズマへの電波の同調性を向上しました。これは、ラジオの受信の際のチューニング性能を上げたのに相当し、それにより、加熱電力を増やすことができるとともに、長時間プラズマ生成時の運転性能の向上が期待できます。
 この新型アンテナの導入により、今までよりも大きな電力で長時間のイオンサイクロトロン共鳴加熱が可能となり、LHDの目標の1つである、3,000キロワットの加熱入力による定常運転も射程に入ってきました。定常運転が必要な将来の核融合発電所の実現へ向けて、大きな貢献が期待されます。
 

以上