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平成25年9月17日
プラズマ中心部の原子を見る ― 極限分光計測 ―
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 将来の核融合発電を実現するためには、プラズマの閉じ込め性能を上げて、 1億2千万度以上の高温度かつ高密度のプラズマを生成して、その性質を詳細に調べる必要があります。より高い温度、より高い密度のプラズマを生成するためには、プラズマの閉じ込め性能を正確に評価するための計測が必要です。プラズマが発する光は、温度や密度をはじめとするさまざまなプラズマの性質の計測に利用されていますが、今回は、プラズマを構成しているイオンや電子といった粒子の閉じ込め性能を評価するために、大型ヘリカル装置(LHD)において行われている極限分光計測について紹介します。

 プラズマはイオンと電子がバラバラになった状態ですが、プラズマを構成している粒子であるイオンや電子は、中心部から周辺部まで入れ子状になった磁力線のカゴにより閉じ込められています。プラズマ中にある粒子数の増減は、プラズマ内部で発生する粒子数とプラズマから逃げていく粒子数のバランスにより決まるため、プラズマ中の粒子数の増減量とプラズマ内部で発生する粒子数がわかれば、どれだけの粒子がプラズマから逃げているのか、つまり粒子に関するプラズマの閉じ込め性能を評価することができます。
 プラズマ中の粒子数、つまり密度の増減量は、プラズマ密度の計測により正確に知ることができますが、プラズマ内部で発生する粒子数を計測することはこれまで困難でした。粒子の発生といっても、何も無いところから粒子が突然生まれるわけではありません。原子から電子が離れる、すなわち電離すると、イオン(原子核)と電子に分かれます。つまり、イオンや電子といった粒子の発生とは、原子が電離してイオンと電子に分離することにより起こります。そのため、原子がプラズマ中の粒子との衝突などにより電離すると、突然、イオンと電子が発生するように見えるのです。原子はプラズマ外部から入り込みますが、そのほとんどはプラズマの中に数センチ程度侵入するあいだに電離してしまうため、プラズマの中心部近くまで到達できる原子はほんのわずかです。原子が電離する際に光を出すため、電離量すなわち粒子の発生量は、原子が出す光の強さから見積もることができます。しかし、プラズマ中心部まで侵入できる原子が少ないためその発光強度は弱く、また電離量の多いプラズマ周辺部からの強い光に隠されてしまうことから、中心部の粒子の発生量の評価は通常困難です。
 計算機シミュレーションなどによる検討が進み、プラズマ中心部にある原子が出す光の強さは、全体の発光強度の1万分の1以下であることがわかってきました。そのような弱い光を観測するためには、それを上回る高い精度の計測が必要となります。従来の方法では全体の1千分の1程度の強度の光を区別して検出するのがせいぜいでした。そこで、計測器を改良してこれまでより約30倍効率よく光を集められるようにし、また、安定したプラズマ生成が可能というLHDの特徴を生かしてデータの蓄積・処理方法を工夫することで計測精度を向上して、全体の100万分の1程度の強度の光を区別して検出することに成功しました。このような技術の進展により、プラズマ中心部で発生する粒子数を実際に測ることができるようになりました。これにより、プラズマ粒子の閉じ込め性能に関する研究の新たな展開が期待されます。


 

以上