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平成25年9月30日
ハイブリッド時代の高性能計測器 −ドップラー反射計−
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 将来の核融合発電を実現するためには、高温高密度のプラズマを長い時間閉じ込める必要があります。そのためには、まずプラズマの特性を知ることが大事です。大型ヘリカル装置(LHD)では、プラズマの閉じ込めに大きな影響を与える現象の情報、特に最近重要と考えられているプラズマの流れや乱れなどの詳細な情報を得るために、新しい計測手法の開発を行っています。今回は、その新しい計測手法であるドップラー反射計について紹介します。

 街中でも良く見かけるようになったハイブリッド自動車、これはガソリンエンジンと電気モーターの良いところを組み合わせて、低燃費で高性能な自動車を実現した素晴らしい技術です。これと同じように高温プラズマの計測においても、複数の技術を組み合わせることによって性能を大幅に改善した計測器を開発しています。
 核融合プラズマはとても温度が高いので、電磁波などを利用して、直接プラズマに触れることなくその性質を調べる必要があります。最近、プラズマの流れや乱れが、高温プラズマの閉じ込め性能に大きな影響を与えるものとして注目されてきており、それらの情報を計測する手法の開発が求められています。電磁波をプラズマ中に入射すると、プラズマ中の電子の集団と相互作用して、電磁波は散乱されるため、この散乱波を精度良く計測することにより、プラズマの流れの速さや方向を知ることができます。これまでは、プラズマ中の様々な場所を精度良く計測するために、電磁波を放射するアンテナと散乱波を受信するアンテナのそれぞれの方向が交差するように、二つのアンテナを配置する方法が採られていました。しかし、LHDのように直径1メートル以上もある大きなプラズマを計測しようとすると、これらのアンテナの構造がとても大きくなり、その実現が困難でした。
 そこで、この問題を解決するため、計測器のハイブリッド化を行いました。散乱波を計測する手法に、飛行機の運航や気象観測などに使われている反射レーダー技術を融合したのです。この反射レーダー技術は、対象とするものに向けて放射した電磁波の反射波を測定する技術で、車の速度違反の取り締まりなどにも利用されています。LHDでは、数ミリメートルになる適切な波長の電磁波を選ぶと、プラズマ中で必ず電磁波の反射が生じます。そのため、この技術の融合により、一つの小型アンテナのみで、電磁波の放射とともに、広い範囲のプラズマに対してとても高い位置精度で反射波を計測することが可能となりました。このレーダー技術は、電磁波を反射させたもののスピードに応じて反射波の波長が変化するという、ドップラーシフトという現象を利用しているため、この計測器をドップラー反射計と呼んでいます。入射した電磁波と反射波の波長の若干のズレを精度良く測ることによって、プラズマの流れの速さや方向、乱れの大きさなどを詳細に知ることができるようになりました。LHDでは、多くの位置で同時に計測できるように高精度化したものを設置しています。
 このドップラー反射計を利用して、プラズマ周辺部に外部から電圧を加えてプラズマの状態を変化させた時、プラズマの流れが加えた電圧に対応して徐々に変化し、ある条件で一気に乱れが抑制される、という様子を初めて詳細に知ることができました。今後も、計測器の性能をさらに高めて、プラズマの未知の性質を明らかにし、プラズマ閉じ込め研究の高度化を図っていきます。


 

以上