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平成27年8月3日
プラズマ中の波のデータ分析
-基礎実験と力を合わせて-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 核融合発電の実現のため、大型ヘリカル装置(LHD)をはじめ、世界中のプラズマ実験装置では、高温のプラズマを作り保持する研究が行われています。これまでの研究で、プラズマの温度を下げてしまう原因の一つは、プラズマ中に発生する「ゆらぎ」や「波」であることが明らかになってきました。今回は、この波の発生を抑えることを目指して、基礎実験と力を合わせて進められている研究を紹介します。
自然界には、水面に立つ波や地震振動、太陽の光など、いろいろな波が存在します。さらに一口に水の波といっても、海の大波、また小池のさざなみなど、いろいろな大きさのものがあります。高温のプラズマの中にもいろいろな種類・大きさの波がたくさん立つことが知られています。これらの波が立つと、プラズマ全体がかき回されてしまい、せっかく温めておいたプラズマが冷めていってしまいます。
この波の発生を抑えるためには、まず立っているそれぞれの波の特徴を詳しく調べ、原因を突き止めなければなりません。そのためにLHDには様々な種類の測定器が取り付けられています(詳しくはバックナンバー156213248などをご覧ください)。測定された信号には、いろいろな波の情報が含まれていますから、とても複雑です。そこで計測したデータを、コンピュータを使って分析します。しかし、データ分析は複雑で、LHDのような大型の装置のためのシステムを作り上げるのは至難の業です。そこで、もう少し規模の小さい、構造が単純な基礎実験装置を使って、手法の検討など様々な基礎研究が行われます。例えば、まっすぐな磁力線を使ってプラズマを閉じ込める、「直線型装置」を用いた基礎研究は、核融合科学研究所を始めとして、東北大学、名古屋大学、九州大学などで進められています。
この直線型装置を用いた基礎実験で、プラズマ中に立っているたくさんの波を含む複雑なデータを分析する手法が確立されました。現在、この手法を活用して、LHDの高温プラズマ中の波について、コンピュータを使ったデータ分析を行っています。計測で得られた複雑な実験データからまずノイズを取り除いた後、それぞれの波の情報を抽出します。ここから波の規則性や法則性を見つけ出します。このデータ分析によって、プラズマの温度を下げてしまうやっかいな波の正体を突き止めることができるようになりつつあります。例えば、LHDのプラズマ中で、新種の大振幅・大波長の波が世界で初めて観測されました。大波長の波は温度の高いプラズマ中心部と温度の低いプラズマ周辺部を直接結んでしまうことでプラズマ中心部の温度を下げてしまうことも分かりました。このように、複雑な実験データを分析することで、限られた情報から波の全体像を導き出し、波がプラズマの温度に与える影響を明らかにすることができました。今後は観測された波の物理機構を解明し、その波を発生させないような運転方法を模索していくことで核融合発電の実現に役立てていきます。

以上