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平成27年10月27日
電子サイクロトロン共鳴加熱の高効率化
―電磁波の曲がり具合を計算する―
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 

 核融合発電を実現するためには、プラズマの温度を1億度以上にしなければなりません。大型ヘリカル装置(LHD)では、電磁石で作った目に見えない磁力線で編んだ入れ子状のカゴの中に高温プラズマを閉じ込める研究をしています。プラズマの温度を上げるために、プラズマ中の電子、またはイオンにエネルギーを与えて加熱します。この内、電子を高い周波数の電磁波を吸収させて加熱するのが、電子サイクロトロン共鳴加熱(ECH)と呼ばれる方法です。この方法では、強力な電磁波をいかに無駄なくプラズマに吸収させるかが重要な課題です。今回はこのECHの高効率化についての研究を紹介します。
入れ子状の磁力線のカゴの中のプラズマは、カゴの中心部では温度が高く保たれて、外側の温度は低くなっています。強力な電磁波を使って効率よくカゴの中心部のプラズマを加熱するためには、その電磁波をプラズマに対してどのように入射させれば良いかを予め知っておく必要があります。この入射方向を求めるため、プラズマ中を電磁波がどのように伝わり、どこで吸収されるのかを計算します。ここで重要なのは屈折率です。空気から水へと進む光は、空気と水の屈折率の違いにより、その境界面で曲がります。プラズマにも屈折率があり、電子密度の空間分布により変化します。そのため、プラズマの電子密度分布が変わると、それに応じて電磁波の曲がり具合が変わります。プラズマの中心をしっかり加熱できるように、電磁波の最適な入射方向を求めるためには、電子密度の空間分布データが必要となるわけです。電子密度の空間分布を知るためには、プラズマが閉じ込められている磁力線のカゴの状態を計算により求める必要があるのですが、計算時間がかかるため、リアルタイムで正確なカゴの状態を知るのは厳しいのが現状です。
そこで「高速プラズマ解析システム」(バックナンバー261を参照)を実験に役立てています。高速プラズマ解析システムは、プラズマ実験中に得られた膨大なデータを使って、プラズマ実験終了後直ちにプラズマがどういう状態だったかを調べるシステムです。このシステムで得られたデータを用いて、一つ前のプラズマ実験における屈折率の変化を計算して電磁波の伝わる様子や吸収位置を求めることにより、次のプラズマ実験での電磁波の最適な入射方向を予め決めることができるようになりました。これにより中心加熱の効率を大幅に高めることができ、平成26年度のLHD実験では、高いイオン温度7,000万度と高い電子温度8,800万度の同時達成に寄与しました。
今後は計算精度を更に高め、入射方向だけでなく偏波(電磁波の振動の向き)の最適化にも努め、更なるECHの高効率化を目指します。

以上