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平成28年9月14日
高温プラズマの閉じ込め改善現象の原理を解明
-30年来の謎に迫る成果-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 核融合発電を実現するためには高温のプラズマを閉じ込める必要があります。ところが、プラズマを加熱していくと、プラズマ中に小さな渦状の流れが発生し、プラズマの閉じ込めが悪化して温度の上昇が妨げられるという問題があります。渦状の流れは向きも大きさも様々で乱れているため「乱流」と呼ばれています。乱流が存在すると、中心部分の温度が高いプラズマが外に吐き出されてしまいます。この問題を解決する鍵として、プラズマの閉じ込めが改善する「Hモード」と呼ばれる現象があります。
Hモードは、1982年にドイツの実験装置で偶然発見されました。そこでは、ある条件でプラズマを生成すると、プラズマの端の部分で乱流が抑制されることによって閉じ込めが改善し、プラズマ全体の温度が“かさ上げ”された状態が実現されることが分かりました(これに対し、乱流が多く、温度の低いプラズマは「Lモード」のプラズマと呼ばれます)。その後、Hモードのプラズマは世界中の装置で再現されました。2020年に運転開始予定の「国際熱核融合実験炉(ITER)」では、Hモードをプラズマの標準状態とすることが決まっています。
Hモードプラズマの正体を解明する試みは、これまで多くの研究者によってなされてきました。1987年に、Hモードではプラズマの端の部分でとても強い電場が発生し、乱流を抑制していることが理論的に予測されました。そして、この強い電場が実際に存在していることが、当時最先端の計測装置を用いて示されました。残された謎は、どのようにしてこの電場が発生するかということです。この謎は、Hモードの発見当初から研究が進められていますが、現在まで30年以上にわたって解明されていませんでした。今回、この謎に迫る成果を得ることができました。
電場の発生メカニズムを解明するためには、プラズマ中の電場と乱流の詳細な計測データが必要です。核融合科学研究所では電場を計測する「重イオンビームプローブ法 (Heavy Ion Beam Probe, HIBP)」を独自に開発してきました (詳細はバックナンバー208258を参照)。HIBPは、大型ヘリカル装置(LHD)だけでなく、量子科学技術研究開発機構の中規模トカマク装置JFT-2M等でも用いられてきました。特にJFT-2Mは既に役割を終えた装置ですが、Hモードプラズマにおける電場構造がHIBPによって詳細に計測され、質の高いデータが得られていました。一方、プラズマ乱流についての理論とデータ解析の手法は、近年、著しい進展がありました。そこで、今回、最新の解析手法を用いて、1999年に得られていたJFT-2Mの実験データの解析を行い、電場の発生メカニズムを突き止めました。
高温のプラズマ中では、プラスの電荷を持つイオンと、マイナスの電荷を持つ電子がばらばらになって運動しています。イオンと電子は電気的に引き合う性質を持っているため、お互いがつかず離れずの状態を繰り返します。このような状態では、プラズマ中には強い電場はできません(この状態がLモードのプラズマに対応します)。プラズマがHモードになると、イオンと電子の分布にほんの少しだけ偏りが生じることで、電場が形成されます。この「偏り」を生じさせるメカニズムは複数提案されていましたが、これまでどの効果が特に重要かは明らかにされていませんでした。今回の解析で、電子とイオンの閉じ込め軌道の違いから生まれる効果が、特に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。
今回の研究結果は中規模トカマク実験装置において得られたものですが、この結果がLHDの様な大規模装置でも成り立つかどうかを、今後調べていく必要があります。大規模装置では、電場と乱流の計測は更に難しいものとなりますが、そこでのHモードプラズマの物理機構を解明できれば、核融合発電の実現がぐっと近づくことになります。

以上