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-ハイブリッド・シミュレーションと実験の比較研究-
核融合科学研究所
核融合発電を実現するためには、核融合反応が持続するよう、プラズマを1億度以上の高温に加熱し、高温状態のまま保持することが必要です。大型ヘリカル装置(LHD)では、プラズマの粒子よりも高いエネルギーを持った高速のイオンによってプラズマを加熱しています。高速イオンは、高い電圧で加速した水素や重水素のビームをプラズマ中に入射して生成します。そして、生成した高速イオンが持っているエネルギーを、プラズマに与えて加熱します。また、将来の核融合炉では、核融合反応によって生成される高速のヘリウムイオンがプラズマを加熱して、核融合反応を持続させるために必要な高温状態を維持します。プラズマの効率良い加熱方法を確立するためには、重要な役割を担う高速イオンの振る舞いを高精度で予測することが必要です。今回は、その予測を目指した、計算機シミュレーションとLHD実験との比較研究を紹介します。
高速イオンは磁場で閉じ込められたドーナツ形のプラズマの中を周回しながら、プラズマを加熱します。この高速イオンの振る舞いに重要な影響を与えるのが、プラズマの振動です。プラズマは電気を帯びた多数の粒子の集まりであり、多数の分子の集まりである空気が振動して音を伝えるように、プラズマにも様々な振動が起こります。このようなプラズマの振動の周期と、高速イオンがプラズマ内部を周回する周期が一致すると、共鳴が起こって、振動が大きくなることがあります。そして、大きくなった振動の影響を受けて、高速イオンがプラズマの外へ飛び出してしまうと、プラズマの加熱効率が低下してしまいます。つまり、高速イオンの振る舞いを予測してプラズマの効率良い加熱方法を確立するためには、プラズマの振動と高速イオンの相互作用を明らかにすることが必要なのです。
核融合科学研究所では、このようなプラズマの振動と高速イオンの相互作用を明らかにするため、プラズマの様子と高速イオンの動きを連結して計算するプログラム「ハイブリッド・シミュレーション」の開発を行ってきました(詳しくは、バックナンバー282をご参照ください)。シミュレーションの信頼性を確かめるためには、シミュレーションが実験結果を再現できるかどうか検証することが必要であり、ハイブリッド・シミュレーションは、これまでに、LHDや米国の実験装置等で観測された、高速イオンが引き起こしたプラズマの振動を再現することに成功しています。
そこで、今回は、プラズマの振動の影響を受けて、高速イオンがプラズマの外へ飛び出して損失してしまうというLHDの実験結果を、ハイブリッド・シミュレーションで再現できるかに取り組みました。LHDでは、損失高速イオンプローブと呼ばれる計測器を設置し、プラズマから損失してくる高速イオンのエネルギーや量を計測しています。また、このエネルギーと、磁力線に巻き付いて運動するイオンの特性を考慮に入れることで、損失した高速イオンの速度の成分(旋回の速さと磁力線方向の速さ)を算出することができます。LHDでの計測結果と比較するため、プラズマの温度や密度、高速イオンの速度や分布等について実験と同じ条件を設定してシミュレーションを行い、プラズマの振動を再現しました。そして、この振動と高速イオンの関係を詳しく解析したこところ、振動が大きくなると高速イオンが損失すること、そして、損失する高速イオンの量は振動の大きさの2乗に比例することを示すことができました。これらは、実験と同様の結果です。さらに、損失した高速イオンのエネルギーや速度の成分についても、LHD実験での計測結果をほぼ再現することに成功し、ハイブリッド・シミュレーションの信頼性を、より一層高めることができました。
今後は、ハイブリッド・シミュレーションとLHD実験との比較研究を更に推進することで、将来の核融合炉における高速イオンの振る舞いの予測精度を、更に向上させていきます。
以上
図 プラズマから損失した高速水素イオンについてのハイブリッド・シミュレーションとLHD実験との比較。縦軸は、高速水素イオンのエネルギーで、100keVはおよそ秒速4,000kmの速さに相当します。横軸は、旋回の速さと磁場方向の速さの比を表すピッチ角を、図の色は、損失した高速イオンの量(赤⇒黄⇒青と少なくなる)を表しています。損失が多いことを示す赤の部分に注目すると、シミュレーションと実験で概ね一致していることが分かります。