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― 核融合研の職人技と様々な通信手段を駆使した、プラズマへの不純物入射実験 ―
核融合科学研究所
新型コロナウイルス感染症は私たちの生活に様々な影響を及ぼしていますが、核融合科学研究所でもオンラインを活用した共同研究が活発になる等の変化がありました。今回は、そのようなウィズコロナ時代における国際共同研究を紹介します。
核融合発電の実現に向けた重要な研究課題の一つに、高温プラズマ中に混入した不純物の制御があります。高温プラズマに混入した不純物は、プラズマのエネルギーを吸収して光として放出し、プラズマの温度を下げてしまいます。そのため、高温プラズマ中の不純物の量を少なくするように制御する必要があります。この制御法の確立のためには、高温プラズマ中で、不純物がどのように振る舞うのかを明らかにする必要があります。核融合科学研究所では、この目的のために、不純物を高温プラズマ中の調べたい場所にピンポイントで入射するための技術、トレーサー内蔵固体ペレット(以下、TESPEL)を開発してきました(TESPELの詳細、TESPELで得られた成果の一部については、バックナンバー227, 289をご参照ください)。
このTESPELは、研究所の大型ヘリカル装置(LHD)だけでなく、スペインの国立エネルギー環境技術研究センター(CIEMAT)の中型ヘリカル装置TJ-IIや、LHDと同規模のヘリカル型プラズマ実験装置である、ドイツのマックス・プランク・プラズマ物理研究所(IPP)のWendelstein 7-X(W7-X)などでも使われています(バックナンバー330をご参照下さい)。令和元年度には、以上の日独西の3研究機関において、TESPELを用いた研究に限らず、その製作も協力して進めるための三者協定が締結されました。
本協定に基づき、TESPELの製作に必要なノウハウが、スペイン・CIEMATの研究者に伝えられました。TESPELは、振る舞いを追跡するための不純物を中に入れた小さな塊であり、直径1ミリ以下のプラスチックの球に直径0.2ミリメートルほどの穴を開けて、そこに0.1ミリメートルほどの不純物の微粒子をいくつか詰めて作ります。この緻密な作業は全て手作業で行われ、核融合科学研究所で担当できる研究者は1名のみです。この「職人技」を伝えるために、研究所にCIEMATの研究者が来所して作り方を教わったり、研究所の研究者がCIEMATを訪問し、現地の器具を使って、どう作ればいいのかを教えたりしました。こうした「修行」の甲斐あって、令和2年12月頃にはCIEMATの研究者がTESPELを製作できるようになりました。次に、製作したTESPELを使ってプラズマの中に不純物を注入できるかの試験が必要です。ところが、CIEMATのTJ-IIが新型コロナウイルス感染症の拡大のため、運転を停止していました。そこで、LHDでこの試験を実施することになりました。本来ならば、CIEMATの研究者が、製作したTESPELとともに来所し、試験に立ち会うはずでしたが、コロナ禍のため、それはかないませんでした。CIEMATで製作されたTESPELは、核融合科学研究所まで郵送され(コロナ禍のために遅延はありましたが)、CIEMATの研究者は、Web会議システムを通じて、LHDでの試験に立ち会いました。その結果、CIEMATで製作されたTESPELは、研究所の担当者が製作するTESPELと比べても遜色なく、プラズマに不純物を注入する性能があることを確認できました。
今回の成果は、コロナ禍にあり人の往来が制限されている中でも、国際共同研究を進展させた成果として、スペインやドイツの研究機関でもニュース(詳細については、下記のリンクをご参照ください)として報じられました。今後、核融合科学研究所で開発されたTESPELが、CIEMATでも製作され、様々な実験装置で使われるようになると期待されます。引き続き、高温プラズマ中の不純物の制御法の確立に向けて、ウィズコロナ時代の国際共同研究を推進していきます。
以上
図 スペインのエネルギー環境技術研究センターで製作されたトレーサー内蔵固体ペレット(TESPEL)の写真
※スペインのエネルギー環境技術研究センターにおけるニュースのリンク
https://www.ciemat.es/cargarAplicacionNoticias.do?identificador=2178&idArea=-1
※ドイツのマックス・プランク・プラズマ物理研究所におけるニュースのリンク
https://www.ipp.mpg.de/5029547/tespel