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令和3年6月23日
銅合金の新しい接合法を開発
- 核融合炉の除熱性能向上に貢献・産業応用も期待 -
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 銅は熱や電気を伝えやすいため、フライパン、冷蔵庫、コンピュータ等の日用機器に広く利用されています。このような銅に、高温でも丈夫で摩耗にも強い性質を持たせたものが、「アルミナ分散強化銅」という銅合金です。この銅合金を使えば、様々な産業機器の高性能化が期待できますが、溶接ができないため、接合が極めて困難だという課題があります。核融合科学研究所では、この銅合金と熱に強い金属であるタングステンを接合するために、「先進ろう付接合法」という技術を開発しました(バックナンバー276をご参照ください)。これにより、銅合金とタングステンの強固な接合が可能になりました。
将来の核融合炉では、銅合金とタングステンは、最も高い除熱性能が要求される機器に用いられます。この除熱機器は、高温プラズマからの熱をタングステンで受けとめ、その熱を銅合金で作った冷却板の内部に冷却水を流して取り除きます。従来、この冷却水の流路は銅合金に穴を空けた円筒状のものが検討されてきましたが、最近、除熱性能を高めるための新たな構造が注目されています。新構造の除熱機器の冷却水流路は、断面が長方形で、その上壁に冷却を促進するための突起(フィン)があります。この構造は、最初に銅合金の板を切削加工し、その後、銅合金やステンレス鋼でできた蓋を接合して作ります。この接合は冷却水や空気が一切漏れないようにする必要があります。そのため、銅合金同士あるいは銅合金とステンレス鋼という、新たな組み合わせについて強固な接合を実現しなければなりません。さらに、この接合を行った後に、銅合金とタングステンを接合するため、多段階の接合を可能にすることが求められます。
核融合科学研究所では、この新構造の除熱機器の製作のために必要な接合技術を、「先進ろう付接合法」を発展させることで実現しました。「ろう付」は、二つの金属の間に接着剤の役割を担う「ろう材」を挟み、高温で溶かして接着する方法です。先進ろう付接合法はこれを高度化したもので、ろう材にBNiー6と呼ばれるNi(ニッケル)とP(リン)が含まれた素材を使用します。そして、接合する二つの金属を押し付けながら、熱を加えて900度以上の高温にし、ろう材を溶かして接合します。研究所では、熱処理の温度や時間、押し付ける力を様々に変えて試験を行った結果、これらの組み合わせを最適なものにすることで、次の特徴を兼ね備えた接合を実現しました。その特徴は、①銅合金とステンレス鋼、銅合金と銅合金などの組み合わせでも接合可能。②気体や液体の漏れが一切ない接合。③点や線ではなく、面での接合。④接合部の強度は元の金属素材と同程度。⑤繰り返し熱処理を行っても接合強度が高い状態で維持されるため、多段階の接合が可能。これにより、除熱性を高めた新構造の除熱機器の製作を可能にする「先進多段階ろう付接合法」が完成しました。
この技術を用いて新構造の除熱機器の試験体を製作し、電子ビームを照射して熱を与える試験を行いました。その結果、この新構造の試験体により、将来の核融合炉で予想される熱(30 MW/m2)を十分に除去できることが分かりました。これは、現時点では世界最高の除熱性能です。さらに、大型ヘリカル装置(LHD)の中にこの試験体を設置して、プラズマからの熱を与える試験を行いました。今回開発した試験体は、LHDに設置されている除熱機器の約80倍の除熱速度を示し、大規模なプラズマ実験においても、高効率な除熱性能を実証することができました。
このように先進多段階ろう付接合法により、銅合金同士、銅合金とステンレス鋼、銅合金とタングステンの強固で、しかも多段階の接合が可能になりました。本方法は、これらの組み合わせだけでなく、「アルミナ分散強化銅」と様々な金属との接合にも応用できます。今後は、将来の核融合炉のために開発した本方法を、様々な産業分野に応用するための研究も展開していく予定です。

以上

図 核融合炉用除熱機器の試験体の模式図

図 核融合炉用除熱機器の試験体の模式図。上段は従来型で、冷却水の流路は単純な円筒形状です。中断は、除熱性能の向上が期待される新構造の除熱機器の試験体です。冷却水流路の断面は矩形で流路の上壁に冷却を促進するための突起(フィン)があります。この新構造の試験体を作るには2回の接合が必要です。1回目にアルミナ分散強化銅(ODS-Cu)とステンレス鋼(SUS)を接合し、矩形の冷却流路に蓋をします。2回目にアルミナ分散強化銅(ODS-Cu)とタングステン(W)を接合します。なおステンレス鋼は、外から冷却水を引き込むパイプの材料です。下段は、その鳥瞰図です。