科学イベント Fusion フェス

SDGs

追加質問へのご回答

チャット

ITERは後からの構造の改良や部品の差し替えを可能な構造になっているでしょうか?
ITERだけではなく核融合発電装置(実験装置)では、交換できる部品と、できない部品を、設計段階から決めています。交換できない(もしくは製作に時間がかかるので現実的ではない)部品はこの装置の運用が終わるまで同じ部品を使い続けます(注:ここで部品とは、数十m規模の部品も含んでいます)。世界中で、30年以上もの長期に渡る実験を繰り返してきた装置では、その間に、プラズマの形状や構造を変えるような改造を行った例があります。ITERの運転期間中にプラズマの形状や構造を変えるような改造は予定されていませんが、メンテナンスや燃料循環に関わる機能を追加するための改造は予定されています。
実用炉における発電でもD-T反応を利用し続けるのでしょうか。現在の技術ではトリチウム(T)を生産するのにリチウムが必要であり、日本のようにリチウム資源に乏しい国では例えば海水から燃料を採取可能なD-D反応に移行すべきではないかと考えます。いかがでしょうか?
核融合発電炉としての可能性としては、D-T、D-D、D-Heがあります(グループ1、予習資料その3を参照)。ただし、この三つの中で反応の確率が最も高いのがD-Tなので、第一世代ではD-Tを第一候補としています。将来的には、トリチウムを使用せず、月に埋蔵されているHeを使ったD-Heを推奨する研究者もいます。D-Dではより高いエネルギーが必要になるため、現在のところ核融合発電としては検討されていません。
リチウムについては、新たな回収方法(海水からの回収も含む)が積極的に開発されています。その一例が下記のサイトで紹介されています。
https://www.qst.go.jp/site/press/20210616.html
核融合反応時のプラズマと隔壁の温度勾配は極端なものであり、それゆえに乱流が発生することが予想されると思います。この時発生する乱流は大気中で発生するそれに対して、性質の違いはどのようになると予想できますか?
核融合プラズマ中と、大気中での乱流の特性の一番の大きな違いは、電磁場の有無です。磁場は空気中の乱流では等価的に強い重力が働いている場合に相当します。核融合プラズマには億度/メートルというとてつもない温度勾配が存在しますので、その中の乱流状態も複雑極まりないものがあります。とても挑戦的な研究課題で、世界最先端の計測機器やスーパーコンピュータを使った研究が精力的に行われています。
液体ヘリウムに変わる寒剤として液体水素が検討されているとのことですが、磁場強度的に液体窒素では難しいのでしょうか?
最近研究開発が進んでいる高温超伝導線材は、液体窒素温度(-196℃)で超伝導状態になるのですが、この温度では強い磁場の中ではあまり電流を流せない特性となっています。超伝導コイルとして磁場を作る用途では、高温超伝導線を少なくとも-240℃以下には冷やしてあげないと使うことが難しい状況です。液体水素は-253℃ですので、液体ヘリウム(-269℃)に代わる寒剤として期待されています。

事後アンケート

日本において核融合炉実装にあたっての地理的条件・インフラ的条件があればお伺いしたい。また、実装にあたっての地方自治体・住民との合意形成のネックに産業廃棄物処理が挙げられると感じるが、核融合炉の産業廃棄物処理はどのようなリスクが挙げられるかをお伺いしたい。
最初のご質問(地理的条件・インフラ的条件)はなかなか難しい内容です。運転という意味では冷却水、初期稼働電力、設置できる土地が重要になりますが、これまでの各種発電所や実験装置(海外を含む)を見ると、政治的な側面も強く影響します。例えば発電所を誘致して労働者人口を増やすといった側面です。後者の部分については研究者は関与していないのが実情です。例えば、ITERがフランスに決まった経緯も、政治的な判断です。
産業廃棄物処理については、イベント中に大前さん(ITER)から具体的な例を紹介いただきました。核融合発電炉の特徴の一つは低レベル放射性廃棄物であり、ITERではプラズマ運転(実験)停止後、放射性廃棄物として約100年の管理の後、一般のごみとして処分できる材料の選択などの設計が行われました。核融合発電炉の段階でも、基本的には同じ発想です。放射性廃棄物の取り扱いは、世界的に基本的なルールが定められており、日本でもそのルールの下に方法を定めることになります。このルール(数値)は科学的に示された結果に基づくルールですが、それを納得するか、しないかは個人によって大きな違いがあります。これをリスク(不確かなこと)と思う人もいます。研究者にできることは、正しい情報を正しく提供し、不確かな情報を減らすことで不安を減らすことと思っています。
具体的な企業や研究については今回は伏せられていましたが、それらについてお聞きする機会はありますでしょうか?
ベンチャー企業の一例として、プラズマ・核融合学会誌に記事がありますので、それを紹介いたします。(企業による核融合研究の最近の動向、2017年1月号)
http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2017_01/9301SPall.pdf
ITERに関係する日本企業は、ITER(日本語サイト)に紹介があります。
https://www.fusion.qst.go.jp/ITER/iter/page1_40.html
グループ3で話題に挙がりました、Fusion Industry associationのリンク先も加筆いたします。
https://www.fusionindustryassociation.org/
入力に対し出力が10倍になる証明が欲しい。
入力に対する出力比を高くするためには、核融合反応で生じるヘリウム原子核による自己加熱の割合を増やす必要があります。自己加熱の割合を増やすために重要なパラメータは、グループ1の予習資料その3で紹介している密度と温度と閉じ込め時間の積(核融合三重積)になります。核融合三重積を大きくするための手法が現在研究されており、ITERで実証するという計画です。
各国の物納で協力体制ができているのは、それぞれの国が国益を得るためにでしょうか。逆に言えば、一番欲しいものが入手できないのではないかと思ったのですがどうでしょう。
ITERへのご質問として回答いたします。ご指摘のとおり、物納および人材(スタッフ)の提供を各極(ヨーロッパが1つのグループとして参加しているので、各国ではなく各極と言っています)から行っています。各極のバランスが考慮されていますので、必ずしも該当する極が実施したい部分を物納、にはなっていません。ただ、ITER計画は、この計画を先に進めるために国際協力で運用する、というのを第一優先として考えいます。ITERという装置の運転ができなければ、次につながる核融合発電は困難になります。よって、多くの関係者は一時的に「ここを担当できなかった」と思っても、結果的には長期的な視野に立ってITERを稼働するという利点を優先していると思います。ITERという大型のプロジェクト以外でも、グループ制で共同研究を実施する場合には少なからずこういった場面はありますので、研究者は類似の経験をしているのではないでしょうか?
核融合と核分裂の違いすら理解していないのですが、分かりやすく教えてください。
本イベントで準備しましたグループ1の予習資料その3で紹介がありますので、ぜひご参照ください。
https://www.nifs.ac.jp/welcome/fusionfesta/
核融合発電所地球上のどの位置にいくつあれば、全需要をまかなえるか。日本全体ではどうか。火力発電にとって代わることは間違いないが、現在の原発廃棄計画とどのように連動すればスムーズに移行できるか。行政と民の意識バランスを前向きに加速させる方法論として、どういう戦略をもつのか。既存電力会社との連携はどうなっているのか?
核融合発電炉1基の電力は、原子力発電炉1基と同等です(100~200万kW)。現在数は決まっていませんが、日本の原子力発電所数を考えれば50-100基でしょうか。現在、日本の原子力発電所・廃炉計画とは福島の原子力発電所の解体作業が主となっており長い時間が必要になっています(他の原子力発電所の措置まで手が回っていません)。よって核融合発電炉の促進と、原子力発電所の停止は独立に進められています。むしろ、火力発電所の長期計画をどうするか(高性能でCOガス排出量が少ないタイプを新たに建設するのか、現状維持でゆっくりと減らすのか)と、核融合発電炉に向けた計画がリンクしていると考えます。現段階では、核融合発電は研究段階なので大手の電力会社との直接的な議論はありません。しかし一部で情報共有の場はあります。電力は必ず予測調整が必要なので、原子力発電もしくは将来の核融合発電のようなベースロード電力だけ、というのは現実的ではなく、必ず時間毎の調整が可能な発電方法と組み合わせる必要があります。ご指摘いただいた「行政と民の意識バランス」がとても重要で、特に民(社会)に核融合発電について知ってもらう、その上で将来の必要性の判断について考えてもらう、ということが重要になっています。本イベントが、少しでも社会の方々への情報提供の場になればと思っています。

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