|
![]() |
研究背景
核融合発電を実現するためには、1億度以上のプラズマを磁場で安定に閉じ込めて長時間維持することが必要です。ところが、磁場で閉じ込めた高温のプラズマ中には、大小様々な大きさの渦を伴った流れである「乱流※」が発生します。そして、この乱流によってプラズマがかき乱されて、閉じ込めていたプラズマの熱が外へと流れ出し、プラズマの温度が下がってしまうことが問題になっています。この問題解決のためには、プラズマ中の熱と乱流の特性を理解する必要があります。
熱と乱流の関係を詳しく理解するために、実験ならびに計算機シミュレーションを用いた研究が数多く進められています。しかし、プラズマの乱流は非常に複雑なため、未だその全容解明には至っていません。特に、発生した乱流がプラズマ中をどのように移動するのかについては、微細な乱流の時間変化を高い感度で極めて詳細に計測する機器が必要であるため、十分には理解されていません。
研究成果
私たちの研究グループは、研究所の大型ヘリカル装置(LHD)において、独自に開発してきた計測機器や米国・ウィスコンシン大学のダニエル J デン ハートッグ教授の協力を得て開発した計測機器(図1)を用いて、熱と乱流を観測した結果、プラズマ中で熱よりも速く移動する乱流を世界で初めて発見しました。
磁場で閉じ込めたプラズマ中には、中心から外へと向かう熱の流れを止める働きをする「堰(せき)」が形成されることがあります。これにより、プラズマの中に強い圧力勾配が形成され、乱流が発生します。私たちは、磁場構造を工夫して、この堰を壊す手法を開発しました。この手法により、堰が壊れることで勢いよく流れ出す熱と乱流に注目して、それらの関係を詳しく調べることができるようになりました(図2)。


熱と乱流の関係を調べるためには、それらがどれくらいの速さでプラズマ中を移動していくかを計測する高度な機器が必要です。LHDでは、プラズマの乱流と電子の温度と熱の流れを様々な波長の電磁波を用いて計測する機器を開発してきました。乱流はミリ波を用いた後方散乱計測、電子の温度と熱の流れは電子サイクロトロン放射計測ならびに高時間分解能(1秒間に2万回の速さ)のトムソン散乱計測で計測します。これらは世界最高レベルの性能で、ミリメートルサイズの細かな乱流が変化する様子をマイクロ秒の間隔で計測できます。私たちの研究グループは、これらの機器を駆使して、熱と乱流の移動を計測しました。これまでは熱と乱流は飛行機程度の速度である時速5千キロメートルで、ほぼ一緒に移動することが知られていましたが、今回の実験と計測により、時速4万キロメートルで熱より先に移動していく乱流を世界で初めて発見しました(図3)。この乱流の速度はロケットの速度に近いです(図4)。


研究成果の意義と今後の展開
プラズマ中で乱流が熱よりも極めて速く移動するという、乱流の新たな特性を世界で初めて発見し、核融合プラズマの乱流の理解が飛躍的に進展しました。本成果は、予兆となる乱流を観測することで、プラズマの温度変化を予知できる可能性があることを示しています。今後、これを基に、プラズマの温度をリアルタイムで制御する手法の開発が期待されます。
乱流と熱は自然界においても深い関係があります。LHDは様々な条件でのプラズマ実験が可能であり、プラズマ中の乱流と熱の状態を詳細に計測することが可能です。このようなLHD実験の利点を活かし、自然界の乱流現象の理解にも貢献していきます。
(釼持尚輝 プラズマ加熱物理研究系 助教)
- ※乱流:プラズマの密度や温度に不均一性がある場合、それが駆動力となってプラズマ中の波が成長し、やがて流れや渦が作り出され、高温状態ではしばしばそれらが不規則に乱れた状態となる。この状態を乱流と呼ぶ。
- 雑誌名:Scientific Reports
- 題名:Preceding propagation of turbulence pulses at avalanche events in a magnetically confined plasma
- 著者名:釼持尚輝1、居田克巳1,2、徳澤季彦1,2、安原亮1、舟場久芳1、上原日和1,2、ダニエル J デン ハートッグ3、山田一博1、吉沼幹朗1,2、武村勇輝1,2、伊神弘恵1
- 1自然科学研究機構 核融合科学研究所、2総合研究大学院大学、3ウィスコンシン大学マディソン校
- DOI:10.1038/s41598-022-10499-z