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プラズマ変化を高速で捉える温度計を開発 - 突発的なプラズマ物理現象の理解へ向けた強力なツール -

2022.10.3 研究成果(プレスリリース)

概要

核融合発電の実現には、高速に変化する高温プラズマを精密に計測して、物理現象を理解し制御する必要があります。核融合科学研究所(岐阜県土岐市)の安原亮准教授、 舟場久芳助教、上原日和助教らと米国・ウィスコンシン大学のダニエル J デン ハートッグ教授の研究グループは、高性能なレーザー装置を開発し、従来より600倍以上速い、1秒間に2万回という世界最高の速さで、プラズマの電子温度・密度を計測する手法の開発に成功しました。その結果、これまで困難だった、プラズマの突発的な変化を詳細に調べることが可能になりました。今後、本計測手法を用いて、プラズマの突発的な物理現象の理解が大きく進み、多くの成果が期待できます。

この研究成果の一部をまとめた論文が9月6日に英国ネイチャー・パブリッシング・グループの科学雑誌「サイエンティフィック・リポーツ」オンライン版に掲載されました。また、2022年12月11日から15日にスペイン、バルセロナで開催される、先端レーザー研究に関する国際会議「Laser Congress2022(Optica主催)」で口頭発表講演を行います。

研究の背景

ガリレオ・ガリレイは、16世紀後半からイタリアで活躍した科学者で、天体観測とそれに基づく科学的な分析によって地動説を主張しました。その彼の研究に大きく貢献した計測器が、当時の最先端技術である「望遠鏡」です。ガリレオは、この高性能な計測器を用いて、星の動きを詳細に観測、考察し、地動説を確信しました。また、自ら性能を向上させ、月にクレーターがあることや木星の衛星を発見しました。ガリレオの深い考察や天文学の新発見には、高性能な計測技術が不可欠だったと言えるのです。

核融合研究でも計測技術は非常に重要です。核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)では、核融合発電に必要である、高温のプラズマを磁場で閉じ込める研究を行っています。プラズマは電子とイオンがばらばらになって動き回っている状態であり、温度が高くなるほどそれらの動きは速くなります。この電子の温度を計測するために「トムソン散乱計測※1」という手法が用いられます(図1)。この手法は、強力なレーザー光をプラズマに入射し、その光が電子に衝突するときに発生する「散乱光」を測定します。散乱光はドップラー効果※2によって、入射したレーザー光とは違う色に変わります。この色の変化は電子の速さに対応しているため、散乱光の色を見ることで電子温度を知ることができるのです。また、この時、散乱光の明るさを見ることで電子密度も分かります。

このようにして計測するプラズマの電子温度・密度は、場所によって異なるとともに時間によって極めて速く変化するという性質があります。プラズマの状態を正確に知るため、トムソン散乱計測装置には、電子温度・密度の空間分布をどれだけ細く計測できるかという空間分解能と、時間変化をどれだけ速く計測できるかという時間分解能が求められます。LHDでは、プラズマ中の144地点の場所で電子温度・密度を同時に測って、それらの空間分布を計測しています。これは、世界トップレベルの空間分解能です。一方、時間変化については、レーザー光のパルスを何度も繰り返しプラズマに入射することで計測しますが、現在、LHDの時間分解能は1秒間に30回の速さしかありません。今まで見てきた物理現象の深い理解や新発見のためには、これを高速化して時間分解能を高めることが必要です。特に、高速化によりプラズマ中に様々な理由で生じる突発現象※3の詳細な計測が可能になれば、その理解と制御に向けた強力な手法になると期待されています。

トムソン散乱によるプラズマの電子温度・密度計測
図1 トムソン散乱によるプラズマの電子温度・密度計測

研究成果

LHDでは、数年間の基礎的な検討を経て、2017年からウィスコンシン大学マディソン校との国際共同研究プロジェクトとして、最大20キロヘルツ(1秒間に2万回の速さ)で計測可能なトムソン散乱計測装置の開発を行いました。新計測システムでは、従来の30ヘルツの計測を行いながら、20キロヘルツの計測が可能となりました。

新計測システムの肝は、強力な光を高速で何度も繰り返し発生することのできるレーザー装置です。このレーザー装置では、レーザー媒質(本研究の場合は固体媒質)に光エネルギー(励起光)を与えることで強力なレーザー光を発生させます。しかしながらレーザー光の発生効率が100%ではないために、レーザー光に変換されないエネルギーが熱となってしまいます。そのためレーザーの高繰り返し化では、固体媒質における発熱が問題となります。発熱によって媒質内に温度差が生じると、場所によって光の進み方が異なるという熱光学効果※4が現れます。例えば、暑い日のアスファルト上で見られる「陽炎(かげろう)」も熱光学効果によって現れます。熱光学効果は、レーザー光の出力低下や固体媒質の破損などの原因となります。そこで研究チームは、媒質内に温度差が発生する前の5ミリ秒という極めて短い時間に、媒質にエネルギーを与えてレーザーパルスを媒質から取り出す動作を複数回行うことで、熱光学効果の問題を回避しました(図2)。これにより、20キロヘルツという高速繰り返しが可能なレーザーの開発に成功しました。そして、この高性能レーザーと、新開発の高速データ収集系、これまで培ってきた高度な解析手法によって、これまでの600倍以上である20キロヘルツの世界最高の速さで計測可能なトムソン散乱計測装置を実現することができたのです(図3)。

図2 開発した高繰り返しレーザー装置の動作原理。媒質内に温度差が生じると光がまっすぐに進まず媒質の破損等を引き起こす(上図)。本レーザー装置では、媒質内に温度差が発生する前に励起光を与えてレーザーパルスを取り出す動作(下図)を複数回繰り返す。
図2 開発した高繰り返しレーザー装置の動作原理。媒質内に温度差が生じると光がまっすぐに進まず媒質の破損等を引き起こす(上図)。本レーザー装置では、媒質内に温度差が発生する前に励起光を与えてレーザーパルスを取り出す動作(下図)を複数回繰り返す。
図3 従来の600倍以上に高速化したプラズマ電子温度計
図3 従来の600倍以上に高速化したプラズマ電子温度計

研究成果の意義と今後の展開

ガリレオが、高性能な望遠鏡を用いて天文学の重要な発見を成し遂げたように、核融合研究へ高速な電子温度・密度分布の計測装置を導入することで研究の更なる発展と、プラズマへの燃料供給や乱流が引き起こす突発現象など、これまで観測することが難しかった物理現象の精密理解が進むと期待されます。

今後の展開として、本研究結果を発展させた装置の開発をウィスコンシン大学と共同で進める計画です。精密なプラズマ計測技術を用いて、国際協力で進められている核融合研究でイニシアチブを取り、加えて、本研究で実現した高繰り返しの大出力レーザー技術を、レーザー加工を始めとする産業応用に発展させていく予定です。

【用語解説】

※1  トムソン散乱計測
プラズマ中の電子にレーザー光を照射することによって発生する「トムソン散乱光」を観測することで電子温度と電子密度を評価する手法。温度はそれぞれの電子がどのような速度をもっているかによって評価する。散乱光を分光計測することで非接触的にプラズマの電子温度・密度が評価可能で、高温プラズマ実験で一般的に用いられる計測手法。

※2  ドップラー効果
波の発生源や観測者が移動することによって、観測される波の周波数が変化する現象。本研究では、波(光)が高速で移動する電子から発生することによって周波数(光の色)が変化する。

※3  突発現象
地震や太陽フレアのように目立った前駆的な現象が観測されないにも関わらず、突如として非常に大きな変化が生じる現象の総称。核融合発電の実現には、高温プラズマ中の様々な不安定性によって生じる突発現象を制御し、その影響を低減することが課題。

※4  熱光学効果
物質の屈折率が温度によって変化する現象。均一な物質でも、物質内に温度分布が生じること屈折率分布が生じる。そのような物質を透過する光は、その屈折率分布によって歪み直進できない。

【論文情報】

雑誌名:Scientific Reports

題名:Electron temperature and density measurement by Thomson scattering with a high repetition rate laser of 20 kHz on LHD
(LHD における 20 kHz の高繰返しレーザーを用いたトムソン散乱による電子温度・密度計測)

著者名:舟場久芳1、安原亮1、上原日和1、山田一博1、坂本隆一1、長壁正樹1、ダニエル J デン ハートッグ2

1 自然科学研究機構 核融合科学研究所、2 ウィスコンシン大学マディソン校

DOI : https://doi.org/10.1038/s41598-022-19328-9

【講演情報】

学会名:Laser Congress 2022 11 - 15 December 2022 at the Barcelona International Convention Center in Barcelona, Spain, Optica (Formerly the Optical Society).

発表番号: LsM6C.4

題名: A 20 kHz, 1.2 J, 20 ns pulse-burst laser for electron temperature and density measurement in a magnetically confined high-temperature plasma
(磁場閉じ込め高温プラズマの電子温度・密度計測用、20kHz, 1.2J, 20nsパルスバーストレーザー)

著者名:安原亮1、舟場久芳1、上原日和1、ダニエル J デン ハートッグ2
1 自然科学研究機構 核融合科学研究所、2 ウィスコンシン大学マディソン校

【研究サポート】

  1. 本研究は、核融合科学研究所のLHD実験グループ及びLABCOMグループの支援を受けました。また、本研究は、ウィスコンシン大学と核融合科学研究所の学術交流協定に基づいて行われました。本研究で用いた主要構成装置の一部は、米国エネルギー省の支援を受けたウィスコンシン大学からの提供で、費用負担も含めて国際協力によるものです。
  2. 本研究は、文部科学省の科学研究費補助金事業(15KK0245)による支援を受けました。
【本件のお問い合わせ先】
  • 研究内容について
    大学共同利用機関法人
    自然科学研究機構 核融合科学研究所 ヘリカル研究部
    • 高温プラズマ物理研究系
      准教授 安原亮(やすはら りょう)
      電話: 0572-58-2241