核融合科学研究所

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用語解説

大学共同利用機関法人

大学共同利用機関を設置することを目的として、国立大学法人法に基づき設立される法人で、現在、大学共同利用機関法人人間文化研究機構、大学共同利用機関法人自然科学研究機構、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構及び大学共同利用機関法人情報・システム研究機構の四つの法人が設立されている。

大学共同利用機関

国立大学法人法に基づき、大学の共同利用に供することを目的として設置される研究機関。設置される大学共同利用機関は、国立大学法人法施行規則によって、大学共同利用機関法人の区分に応じ定められている。国内外の大学研究者が共同で利用でき、各種の高度で大型の研究施設・実験設備等を保有する、世界に誇る我が国独自の学術研究推進システムである。現在、全国に19の大学共同利用機関が設置されている。

自然科学研究機構

国立大学法人法に基づき設立された大学共同利用機関法人で、核融合科学研究所、国立天文台、基礎生物学研究所、生理学研究所、分子科学研究所の5研究機関から構成される。我が国の自然科学研究の拠点として、先端的・学術的研究を進めている。同時に、大学院教育等の人材育成も行っている。

核融合科学研究所

岐阜県土岐市にある自然科学研究機構を構成する大学共同利用機関。我が国独自のアイデアに基づくヘリオトロン磁場を用いた世界最大の超伝導大型ヘリカル装置(LHD)を有する核融合科学の中核研究拠点。安全で環境にやさしい次世代エネルギーの実現を目指す。大学共同利用機関として国内や海外の大学・研究機関との共同研究を推進するとともに、教育機関として将来の核融合科学を担う若手人材の育成にも努めている。

大型ヘリカル装置(LHD)

核融合科学研究所の主実験装置で、我が国独自のアイデアに基づくヘリオトロン磁場を用いた世界最大の超伝導ヘリカル装置。LHDとはLarge Helical Device の略。2本の超伝導ヘリカルコイルと3対の円環超伝導コイルから構成される。1998年3月から実験が開始された。ヘリカル方式は本質的に制御性が優れており、将来の発電炉に必要な定常運転に適しているといわれている。トカマク方式と磁場構造が異なっていることから、トカマク方式と相補的な研究を行うことができる。

総合研究大学院大学

大学共同利用機関等が保有する大型または特殊な実験・観測施設と国際的な研究拠点で活躍する研究者集団を活用して、トップクラスの研究者を養成する、世界でも類例のないコンセプトで設立された我が国最初の大学院大学。高度の専門教育と広い視野を養う総合教育を実施している。平成元年の設立以来、2,338人(2021年現在)をこえる博士学位授与者を輩出している。

核融合反応

2つの原子核が、原子核の間に働く反発力に打ち勝って融合し、新しい原子核が生まれること。軽元素同士の核融合反応の前後では質量がわずかに減少し、減少した質量がエネルギーに変わる。太陽をはじめとする恒星のエネルギーは、核融合反応により生成されている。

重水素

元素記号2H(略号としてDが用いられる)で表される水素の同位体で、水素の約2倍の重さを持つ。地球上での水素原子と重水素原子の存在割合は、水素が99.985%、重水素が0.015%で、自然界にも存在する安定な元素である。海水中にも存在し、事実上無限の埋蔵量をほこる。

三重水素(トリチウム)

元素記号3H(略号としてTが用いられる)で表される水素の同位体で、水素の約3倍の重さを持つ。弱いベータ線を出してヘリウム3に変わる放射性元素で、半減期は12.3年である。宇宙線の中性子が窒素や酸素と核反応することで生成し、自然界にも僅かに存在する。核融合発電では、リチウム(Li)から生産し循環して使用する。

リチウム

元素記号Liで表される原子番号3のアルカリ金属元素。常温常圧では銀白色の柔らかい金属。リチウムイオン電池の原料として近年注目を浴びている。地球上では塩湖の水、鉱石中に多く存在し、枯渇の心配はない。また海水中にも溶け込んでおり、事実上無限の埋蔵量をほこっている。

ヘリウム

元素記号Heで表される原子番号2の希ガス元素。無色、無臭、無害な空気より軽い気体である。そのため、風船のガスとして使われる。マイナス269度で液化し、液体ヘリウムは超伝導磁石の冷媒としても使用される。

中性子

原子核を構成する要素(核子)のひとつ。通常の水素1Hを除くすべての原子の原子核は陽子と中性子から成る。原子核の中では安定であるが、原子核の外では不安定で陽子と電子に崩壊する。平均寿命は15分。中性子を用いた粒子線は、物質の構造解析やガン治療への応用が期待されている。

核融合エネルギー

核融合反応によって発生するエネルギー。1gの重水素(D)と三重水素(T)燃料の核融合反応から発生するエネルギーは、タンクローリー1台分の石油(約8トン)を燃やしたときの熱量に相当する。反応に伴う燃えかすは安全なヘリウムガスであり、温室効果ガスである二酸化炭素を発生しないため、環境負荷の小さいエネルギーとして期待される。

プラズマ

温度の上昇とともに物質の状態は、固体から、液体、気体へと変化する。さらに高温になると、原子核のまわりにある電子がはぎとられて原子は正の電荷を持つイオンと負の電荷を持つ電子に分かれて(イオン化)、両者が高速で不規則に運動している状態になる。この状態をプラズマ(物質の第4の状態)という。核融合では、温度が数億度に及ぶ超高温プラズマが対象となる。プラズマは雷やオーロラなど自然界に広く存在するが、身近な例としては蛍光灯などの希薄な気体中の放電によって作られるプラズマがある。

ヘリカル方式

ドーナツ状のプラズマを磁場により閉じ込めるのはトカマク方式と同様である。しかし、プラズマ閉じ込めに必要な捩れた磁場構造を、トカマク方式ではプラズマ自身に電流を流して作るが、ヘリカル方式では外部コイルのみにより形成する。外部コイルの作る磁場のみによりプラズマを閉じ込めることができるため、プラズマ中に電流を流す必要のあるトカマク方式に比べて定常運転に適している。外部コイルとしては、螺旋状のねじれたコイル(ヘリカルコイル)あるいは複雑な形状をしたモジュラーコイル等が用いられている。

ヘリオトロン方式

京都大学において、我が国独自の方式として開発されたプラズマ閉じ込め方式。ヘリカル方式のひとつであり、大型ヘリカル装置(LHD)がこの方式に属する。1対のヘリカルコイルと数本の円環コイルで構成され、磁場の捻れを大きくとれる特徴を持つ。

トカマク方式

コイルで作られるドーナツ状の主磁場に加え、プラズマ自身に電流を流し、その電流が作る磁場で、プラズマ閉じ込めに必要な捻れた磁場構造を作る方式。捻れた外部コイルが必要ないため、ヘリカル方式に比べ、コイルの構造が単純となる。旧ソビエトのクルチャトフ研究所で考案され、その優れた閉じ込め性能のために世界各国の研究所で、この形式のプラズマ実験装置が建設され、研究されている。現在最も高いプラズマ性能を達成しているのはこの方式である。

国際熱核融合実験炉(ITER)

制御された核燃焼プラズマの維持と長時間燃焼によって核融合エネルギーの科学的・技術的実現性を実証することを目指したトカマク方式の核融合実験炉。1992年から日本・米国・欧州・ロシアの国際協力としてスタートし、9年間の工学設計及び主要機器の技術開発が行われた。2005年に建設サイトが南フランスのカダラッシュに決定し、2007年に日本・欧州・ロシア・米・中・韓・インドの7極によるITER(イーター)機構が設立され、本格的な建設が開始された。2025年から実験開始の予定。

核融合の条件

核融合反応が起こるためには、2個の原子核(イオン)が電荷による反発力に打ち勝つ速度(運動エネルギー)で衝突する必要がある。そのような環境は、加速器や超高温プラズマで実現される。超高温プラズマの中では、すべてのイオンが高速で熱運動し、お互いに衝突しあっている。衝突したイオンはある確率で核融合反応を起こす。より多くの衝突を起こすためには、高い温度、密度と長い閉じ込め時間が必要である。重水素と三重水素の熱核融合の場合は、1億度以上のイオン温度が必要となる。さらに、この反応で生じるエネルギーで高温を維持するためには、ある程度の密度(100兆個/cm3)とエネルギー閉じ込め時間(1秒以上)が必要である。

イオン・電子

原子は正の電荷を持った原子核の周りを負の電荷を持つ電子が特定な軌道を描いて存在する。その原子に外部からエネルギーを注入すると外側の軌道の電子が原子から飛び出す。この現象を電離(イオン化)と呼び、原子はイオンと電子に分かれる。このようにして生まれた電離気体をプラズマと呼ぶ。なお、水素の場合は、電子が1個であるため、イオンと原子核は同一である。

磁力線

磁場の方向を表す仮想線。

プラズマ閉じ込め

高温のプラズマを低温の金属の容器に入れたとすると、プラズマが容器壁に衝突して熱を奪われ、プラズマは瞬く間に冷えてしまう。そこで、荷電粒子(電気を持った粒子)が磁力線に巻き付いて運動する性質を利用した磁気容器が考え出された。磁気容器によるプラズマの閉じ込めを総称して磁場(磁気)閉じ込め方式と呼ぶ。現在は、環状(ドーナツ状)の磁気容器(トーラス型磁気容器)が主流で、ヘリカル方式、トカマク方式がこれを使っている。

エネルギー閉じ込め時間

磁気容器などに閉じ込められたプラズマは、エネルギーの連続的な供給がなければ輻射(光)やプラズマ中の熱伝導によってやがて熱(プラズマの運動エネルギー)を外に放出して温度が下がる。その時間をエネルギー閉じ込め時間と呼ぶ。

超伝導電磁石(コイル)

プラズマを閉じ込めるために、電流を流して磁場を発生させる電磁石(コイル)が使われる。コイルの形状とそのコイル群の配置によって、プラズマ閉じ込めに最適な磁場配位を作り出すことができる。核融合発電実現のためには、強力な磁場をコンパクトなコイルで発生できる超伝導コイルが必須である。また超伝導コイルは、定常運転で電力を消費しないため、高い発電効率を得ることができる。大型ヘリカル装置(LHD)は、全てのコイルが超伝導である世界最大のプラズマ閉じ込め装置である。

イオン温度・電子温度

プラズマの中では、イオンと電子の双方の粒子が熱運動をしている。熱運動の運動エネルギーは温度に比例しており、温度が高いほど粒子は速い速度で熱運動をしている。従って、粒子の平均速度は温度に換算することができ、イオン、電子のそれぞれの粒子について換算された温度を、イオン温度、電子温度と呼ぶ。イオンと電子の間では互いに熱平衡状態になりにくく、イオン温度と電子温度が異なる場合も多い。

核融合発電

核融合エネルギーを利用した発電のこと。核融合反応で発生した高速の中性子はブランケットと呼ばれるプラズマを覆う内壁で受け止められ、その運動エネルギーを熱エネルギーに変換する。発生した高速のイオンはプラズマの一部となり、その運動エネルギーはプラズマの加熱に利用され、最終的には輻射(光)などにより壁を加熱する。取り出した熱エネルギーによって蒸気タービンを回し発電するしくみは、従来の発電方式と同じである。燃料枯渇の心配がない、温室効果ガスの排出がないため環境適合性に優れる、安全性が高いといった優位性がある。

定常運転

長時間、安定して稼働している運転状態のこと。核融合発電の定常運転を実現するために、壁からの不純物混入を抑制しながら、高温プラズマを長時間維持・制御することが重要な研究課題となっている。繰り返し運転を行うパルス運転と対比して使われる。

原型炉

ITER(イーター)の次に建設される核融合炉で、発電設備を有し、出力が入力を上回る実質的な発電を行う。定常運転による発電実証が目的となる。DEMO(デモ)とも呼ばれる。2050年ごろの実現を目指して研究開発が進められている。

商用炉

実用化された核融合発電炉。開発段階を終え、多数の同型のプラントが建設される。

シミュレーション

理論や実験と並ぶ第3の研究手段であり、コンピュータ上で現象を再現し、解析や将来予測を行う手法のこと。近年のコンピューター技術の急速な進歩を背景に生まれた。現象が複雑なために解明されていなかった自然科学の様々な問題にシミュレーションの適用が始まっている。核融合プラズマは、振る舞いが非常に複雑で、予測が難しく、シミュレーション科学の重要な対象となっており、核融合科学研究所は、その世界的研究拠点でもある。

磁気リコネクション(再結合)

互いに向きの異なる2本の磁力線がつなぎ変わる現象。再結合の際には、磁場に蓄えられたエネルギーが解放され、プラズマの運動や熱のエネルギーに変換される。太陽表面でみられる太陽フレアはその一例で、地上の核融合プラズマ実験装置でも観測される。非常に規模の大きな(マクロ)現象であるが、磁気リコネクションを引き起こすきっかけは、1つ1つのプラズマ粒子の非常に小さな(ミクロ)振る舞いが基となっており、現象の統一的な理解には、計算機シミュレーションによる方法が有効である。