核融合の研究についての質問に答えます。

核融合の今、これから

 核融合研究はどこまで進んでいるの?

A:プラズマを作る実験では、高い温度のプラズマを作ること、原子核密度と閉じ込め時間のかけ算を大きくすることを目指しています。その最高記録を持っているのが、日本にあるトカマク型のJT-60という装置です。温度は2億度から5億度にもなります。閉じ込め時間も1秒を超えています。核融合発電ができるプラズマに非常に近いのですが、持続時間が1分程度とまだ短いのです。これに比べて、この研究所のヘリカル型のLHD装置は、1時間という長い持続時間を記録しています。ヘリカル型は長い時間プラズマを作ることが得意なんです。まだJT-60に比べて、温度が低く、閉じ込め時間も短いのでLHD装置を使って研究を進めています。

 重水素実験ってなあに?

A:重水素は水素より重いという性質を持っています。軽い水素を使ってプラズマを作るより、重い重水素を使うともっと高い温度になります。茨城県にあるトカマク装置(JT-60)では、重水素を使って高い温度の記録を作りました。ヘリカル装置のLHDでも、重水素を使ってより高い温度のプラズマを作る研究をしています。

まめ知識

核融合研究所の放射線対策:重水素実験

核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)では、高い温度と密度のプラズマを作るために、軽い水素(記号:H)の代わりに重い重水素(記号:D)でプラズマを作る研究をしています。核融合発電で使われるもっと重たい三重水素(記号:T)を使わないので、核融合は起こす研究はしません。ところが重水素(記号:D)だけでプラズマを作っても、ほんのわずかだけ核融合が起きることがあります。1億度だと、10万個の原子があると1秒毎に1回の核融合が起きます。その核融合で水素(記号:H)、三重水素(記号:T)、中性子、ヘリウム3(記号:3He)ができます。三重水素(記号:T)は、β線という放射線を出す放射能を持っています。研究所ではこの三重水素(記号:T)と酸素(記号:O)をくっつけて水にします。そして日本アイソトープ協会というところで安全に処理してもらいます。中性子は放射線ですね。これはコンクリートの壁で止めることができます。研究所の実験室は厚さが2メートルのコンクリートのかべでできているので、中性子は外には漏れることはありません。

 これからの核融合実験

A:世界中の国々が協力して国際熱核融合実験炉(ITER)をフランスに作っています。この実験炉では重水素(記号:D)と三重水素(記号:T)を使って実際に核融合反応(D-T反応)を起こします。そしてプラズマから長い時間、エネルギーが発生することを確かめます。ITERの次は、発生するエネルギーを電気の形で取り出すことができる実証炉を作ります。これが核融合発電所の第1号となります。30年後に完成するように研究や実験を行っています。ヘリカル装置のLHDでは、三重水素(記号:T)を使わないので、核融合反応は起こしませんが、将来の実証炉で使われるプラズマに近い高い温度と密度のプラズマを作る実験をして、さまざまなデータを集めています。

 将来の核融合発電炉

A:近い将来にできる核融合発電炉では、重水素と三重水素を燃料とした核融合反応を使います。この核融合反応で中性子という粒子ができて、ものすごいスピードでプラズマから外に飛び出してきます。プラズマの周りにブランケットという壁を置いておくと、そこに中性子がぶつかって熱に変わります。この熱で水を沸騰させて水蒸気に変え、タービン発電機を回すことで電気を作ることができます。水を沸騰させるところからは、火力発電所や原子力発電所と同じ仕組みです。

将来の核融合発電炉

 実現のために研究されていること:核融合炉設計

A:これまで作られた多くの装置のプラズマの性能を比べてみると、将来どのような大きさの装置を作ったら核融合発電炉になるかが予想することができます。また他にもたくさんの計算をして、核融合発電炉の大きさ、作る磁場の大きさなどを決めていきます。大きさが決まると今度は、色々な部品を設計します。そして発電所を作るためにかかるお金や作った電気の料金などを計算します。このような研究を「炉設計研究」といいます。将来のことを考えながら、今しなければならない研究や実験のことを考えています。

 実現のために研究されていること:材料

核融合を起こすプラズマからは、中性子という放射線が発生します。この中性子が金属やプラスチックに当たると、壊れやすくなります。だから中性子が当たっても壊れにくい材料を探しています。それから、中性子が当たった金属が放射線を出す性質に変わることがあります。だから放射線を出す性質に変わりにくい金属材料も探しています。

 プラズマの利用は核融合だけですか

A: いいえ。身近でプラズマは活躍しています。蛍光灯は水銀を含んだアルゴンガスのプラズマなんです。プラズマテレビではキセノンやネオンという物質のガスがプラズマになっています。他にもプラズマから発生したイオンでインフルエンザウィルスを退治する空気清浄機やエアコンがあります。

 -269度まで冷やしたコイルはひずみませんか

A: -269度にすると金属は0.3パーセントだけ長さが短くなります。例えば10メートルのものは3センチメートル短くなることになります。冷えたところと冷えていないところの境目で長さが変わるので、スライドさせるなど、色々な工夫をして壊れないようにしてあります。