LHDにおける第26サイクルのプラズマ実験—LHDから新たな学術研究基盤事業へ—

坂本隆一


 核融合科学研究所では、2023年度から3年間の学術研究基盤事業として、文部科学省の支援を受けて大型ヘリカル装置(LHD)を運用してきました。この間、2024年3月13日から6月20日まで(第25サイクル)と、2025年9月25日から12月25日まで(第26サイクル)の2回のプラズマ実験期間を通して、世界中の共同研究者と共に合計12,888回のプラズマ実験を実施し、2025年12月25日の実験をもって、1998年3月31日の実験開始以来、世界初の大型の超伝導コイルを有したLHDによるプラズマ実験を完遂しました。

LHDの最終放電後の制御室での集合写真

 学術研究基盤事業としてのLHDでは、プラズマパラメータの達成などを目標として定めるのではなく、個々の研究者による多様な実験提案を実施する学際的な研究基盤として、広く実験テーマを募集し、プラズマ実験を実施してきました。特に、第26サイクル実験ではLHD実験の完了を迎えることから、次のような観点に基づく実験提案を募集しました。

  • 1. 今までの実験結果に結論を与え、明確な進歩を示す学術成果をもたらすもの
  • 2. post-LHD計画の実現に向けた説得力を増すようなもの
  • 3. 核融合科学の新しい発展や課題を明示するようなもの
  • 4. 際立って学際性の高いもの

 2025年度に実施した第26サイクル実験においては、これまで最多となる国内の大学等の共同研究者493人、海外からは22の研究機関から185人、合計678人の共同研究者が参画し、第25サイクル実験の参加者380人を大きく上回りました。9月25日から始まるプラズマ実験に向けて、6月に実験提案を募集し、国内の共同研究者から125件、海外からは58件、計183件の実験提案がありました。6月30日から4日間かけて、全ての実験提案を紹介してもらうLHD Research Forumという研究会をオンライン形式で開催しました。時差を考慮して、朝早い時間帯はアメリカの研究者、昼間の時間帯はアジア/日本の研究者、夕方の時間帯はヨーロッパの研究者に発表をしてもらうことで、LHDにおけるプラズマ実験の内容について実験提案者から直接説明してもらい、その議論をもとに3ヶ月の限られた実験期間内で、より多くの研究者が成果を出せるよう工夫してプラズマ実験のスケジュールを策定しました。実験の予定表や毎日の実験報告はLHDのホームページで公開しており、誰もが閲覧できるようになっています。

LHD実験への実験提案数.第26サイクル実験では,国内外からの実験提案が増加

 第26サイクル実験においては、多様な実験テーマを実施しましたが、ここでは科学的のみならず社会的にもインパクトがある実験テーマをふたつ紹介します。ひとつ目の研究テーマは、気象予報などで使われる『データ同化』という数理的手法を発展させて、プラズマの状態をより正確に予測するだけではなく、プラズマの最適な制御につなげる共同研究です。この研究の鍵は、制御されたプラズマの挙動を正確に予測するために必要となるシミュレーション計算を、条件を変えてたくさん並列して行い、あらゆる未来予測をしておくことです。そのために、スーパーコンピュータ『プラズマシミュレータ』とLHDを繋いで実験を行いました。その結果、プラズマの温度と密度を対象とした多変数予測制御をLHDプラズマ実験で実証しました。この共同研究は、LHDのプラズマ実験に合わせてプレスリリースを行い、実際の実験を中継しました。もう一つの研究テーマは、アメリカなどのスタートアップ企業が進めている『先進核融合燃料』の可能性に挑戦する共同研究です。先進核融合燃料は、ホウ素やリチウムと、軽水素の核融合反応を用いるもので、実現のためにはとても高いプラズマ温度が必要なためとても挑戦的な課題ですが、燃料にも核融合反応生成物にも放射性物質が関わらないという大きな魅力があります。LHDには高いエネルギーの軽水素ビームを使った加熱装置(NBI)とホウ素やリチウムの微粒子をプラズマに入射する装置が設置されており、LHDは先進核融合燃料の研究に必要な装置がすべてそろった、世界でただ一つの実験装置です。今年度の実験では、すでに行われている実証実験の成果を踏まえ、プラズマの加熱が反応に及ぼす影響など、より踏み込んだ詳細な実験を行いました。

 LHD実験は2025年度をもって完了しますが、核融合科学研究所では2026年度から新たな学術研究基盤事業『超高温プラズマの「ミクロ集団現象」を中核とした核融合科学の学術研究基盤計画』を立ち上げます。この計画では、フュージョンエネルギーの実現への中心課題である「閉じ込め劣化」と「崩壊現象」の原理を、集団現象を創発するミクロ階層に分け入ることで解明し、プラズマ物理と核融合科学のフロンティアを切り拓きます。このために、世界トップの精密な計測と制御の粋を駆使できるコンパクトなCHD/CHD-Uを整備するとともに、理論シミュレーション・データ科学を組み合わせた最先端研究プラットフォームを立ち上げて、共同利用や共同研究を実施します。現在、この研究プロジェクトで使用する装置の整備を進めているところです。

学術研究基盤事業として2026年度から立ち上がる学術研究基盤事業『超高温プラズマの「ミクロ集団現象」を中核とした核融合科学の学術研究基盤計画』の概要

(研究部長)