核融合科学研究所

おしらせ

超高温プラズマの「ミクロ集団現象」と核融合科学

  • 「超高温プラズマの「ミクロ集団現象」と核融合科学」計画は「ロードマップ2023」に掲載されました。
  • 文部科学省では、学術研究の大型プロジェクトについて、社会や国民の幅広い支持を得ながら長期的な展望を持って戦略的・計画的に推進していくため、「学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想(ロードマップ)」を策定しています。
  • 12計画を掲載した「ロードマップ2023」は、幅広い分野の専門家による学術的評価により令和5年12月に選定されたものです。
超⾼温プラズマの「ミクロ集団現象」と核融合科学

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/1423056_00026.htm

注:この計画では、重水素ガスを用いた実験(重水素実験)は行いません。したがって、新たな中性子やトリチウムの発生はありません。

LHD計画からの展開

「超高温プラズマの「ミクロ集団現象」と核融合科学」計画では、大型ヘリカル装置(LHD計画)で培われた研究成果を学術研究基盤とし、CHD/CHD-Uによる実験を中核として、社会的要請に応える幅広く、新しい展開を目指しています。

LHD計画からの展開

CHDの実験計画と整備状況

「ロードマップ2023」に掲載された「超高温プラズマの『ミクロ集団現象』と核融合科学」計画のフェーズ1実験として、CHDプラズマ実験を計画しています。CHDは、2006年まで実験を行っていたコンパクト ヘリカル システム(CHS)を、LHD計画で開発された計測技術やプラズマ加熱機器を導入することによりリノベーションし、幅広いプラズマ実験を展開するプラットフォームとして運用することを目指しています。ダウンサイジングとなりますが、プラズマ計測性能の大幅な向上や機動性を生かすことで、理論・シミュレーションやデータ駆動科学との連携がさらに進展すると考えています。核融合科学研究所の共同研究に幅広く活用される研究プラットフォームを目指します。また、ポストLHD計画の中核となるCHD-Uの準備研究及び研究開発も担います。(CHD実験計画リーダー 永岡賢一)

  1. 計画の概要
    超高温プラズマのダイナミクスを決定づける「ミクロ集団現象」を研究し、核融合炉から宇宙・天体に共通するプラズマに独特な揺らぎの発生機構とその効果(非平衡プラズマ中の物質・エネルギー輸送)の解明に挑戦します。大型ヘリカル装置(LHD)計画で培った先進的なプラズマ計測をさらに発展させて、世界最高性能のプラズマ実験をシステムを構築します。精密な計測と、理論・シミュレーションとが連携し「ミクロな物理に深化したプラズマの総合的理解」を提示し、核融合研究の積年の難問を解決する科学的基盤を形成します。
  2. 先進計測
    科学の進展は、計測技術の進化により牽引されます。本研究計画では、高精度計測機器群を整備します。
    重イオンビームプロープ計画
    • 超高強度レーザートムソン散乱計測
      トムソン散乱計測では世界最高強度となる100 Jレーザーを用いることで、高い信号強度を得ることができるようになります。これにより、詳細な速度分布関数形状の観測を実現します。
    • 高時間分解トムソン散乱計測
      核融合研とウィスコンシン大学(米国)で共同開発した高繰り返しレーザーによる100 kHzの世界最高の時間分解能を有します。
    • 重イオンプローブ計測
      計測困難な物理量「プラズマポテンシャル」を計測可能な数少ない計測器。我が国独自のノウハウにより、高精度多点同時計測を行います。
    • 位相差イメージング
      ミクロスケール乱流の2次元画像をイメージング計測します。LHDで培った計測技術は乱流の常時モニターに活用されます。
    • マイクロ波計測
      異なる帯域のマイクロ波を組み合わせ、プラズマ中の様々なスケールの乱流特性を計測します。プラズマ流れ場の計測にも応用されます。
    • 荷電交換分光
      ビーム-プラズマ相互作用による発光を分光計測することにより、イオンの速度分布関数を計測します。近年の開発によりプラズマ衝突周波数を超える計測が可能になり、速度分布関数の歪みを世界に先駆けてダイレクトに捉えることができるようになりました。
    • その他
      多数の視点からX線を同時計測し内部を推定するX線トモグラフィ、プラズマからの発光スペクトルをくまなく計測する可視・紫外分光計測、高エネルギー電子の運動を計測するための硬X線スペクトル計測などを導入します。
  3. 先端計測をサポートするデータ駆動科学
    計測によって得られるデータはプラズマパラメータを反映しますが、両者は同一量ではありません。従来のプラズマパラメータ推定は、計測モデルの単純化や近似・仮定が多く用いられており、推定誤差を定量化しにくいのが課題でした。近年よく用いられるようになったデータ科学的アプローチはこの点の改善に役立ちます。例えば、ベイズ的アプローチを用いれば、パラメータ推定を確率分布として行うことができるようになり、誤差の評価も定量的に行えます。MCPoPではデータ駆動科学を駆使したデータ解析を実施し、これまで得られなかった定量的なプラズマ乱流データを獲得します。さらに、取 得したデータは研究コミュニティにオープンし、多様な研究視点からプラズマ現象を理解することを目指します。
  4. デジタルツインCHDを用いた先端計測器の連携運転とシミュレーション連携研究
    単一の計測器を運転することで得られる情報は限られます。また、1つの計測量が複数のパラメータに感度をもつ場合、精度の良い計測を行うことは困難です。これらの問題は、複数計測器を高度に連携させて運転し、得られたデータを統一的に解釈することで解決可能です。データの統一解析には、デジタル空間上で計測原理を模擬し、得られるデータを推定する枠組みが必要です。現実のCHD装置と計測器をデジタル空間上で高精度に模擬し、データ科学を駆使してパラメータ推定を行う、デジタルツインCHDを構築します。このデジタルツインCHDは、これまでにない精度でシミュレーション研究と連携を実現します。さらに、LHDで培ったデータ同化制御技術の高度化にも寄与します。大規模乱流データと先進アクチュエータを用いて、核融合炉のオペレーションに必要な高精度プラズマ制御を実証します。
  5. 装置の仕様
    2006年にプラズマ実験を停止したコンパクトヘリカルシステムを改造し、CHD(仮)としてプラズマ実験を再稼働します。
    • 大半径/小半径:1.0 m / 0.2 m
    • トロイダル周期:8
    • ポロイダル周期:2
    • 磁場:1.5T
    • 放電時間:1 s
    • ECH加熱:1 MW(77GHz) + 1 MW (77+50GHz)
    • NBI加熱:1 MW + 1 MW
  6. CHDの (a)コイルと (b)真空容器のCAD図、および (c)真空容器内の写真
    CHDの (a)コイルと (b)真空容器のCAD図、および (c)真空容器内の写真
  7. 整備計画概要
    2024年からプラズマ実験再開に向けた整備を開始しました。フュージョンエネルギーの実現に向けた研究開発の推進のための補正予算の支援を得て、再稼働に向けた装置本体やプラズマ加熱機器の整備が飛躍的に進んでいます。特に、本計画の鍵となる先進計測装置群の新規導入については、全国の大学の研究者の協力を得て鋭意進めています。
    現在(2025年6月)は、更新する機器の撤去が70-80%の進捗状況です。2026年度内のプラズマ再点火を目指しています。
サテライト装置室内の状況。
(a)本体北側、(b)本体南側、(c)加熱電源エリア(南側中2階)、(d)ジャイロトロンエリア(サテライト装置室南側)

研究計画への参加について

「超高温プラズマの『ミクロ集団現象』と核融合科学」計画実施のための準備室を設置し、週例の会議を開催し、研究計画の検討や装置の準備状況の情報共有を行っています。本計画への参加や、本計画に関するお問い合わせは、MCPoP準備室事務(mcpop-jimu(at)nifs.ac.jp)もしくは、核融合科学研究所の共同研究者へご連絡ください。

なお、核融合科学研究所の共同研究ネットワークのアカウントで、MCPoP準備室のWebページにアクセスできます。