核融合科学研究所

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2023.3.9

先進的核融合燃料を使った核融合反応の実証
- 中性子を生成しない軽水素ホウ素反応を利用した
クリーンな核融合炉への第一歩 -
TAE Technologies社との共同研究の成果

研究成果(プレスリリース)

概要

核融合科学研究所の小川国大准教授、大舘暁教授らと米国・TAE Technologies社*1のR. M. マギー博士、田島俊樹博士らの研究グループは、核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)において、磁場で閉じ込めたプラズマ中での軽水素とホウ素11*2の核融合反応を世界で初めて実証しました。軽水素とホウ素11の核融合反応*3は、核融合燃料の第1候補である水素同位体燃料と比べて極めて高い温度のプラズマが必要で難しいと考えられていますが、高エネルギーのビームを使うことで実現の可能性があります。高エネルギーヘリウムを生成する反応では放射線である中性子を生成しません。よりクリーンな核融合炉の構想が可能であることから、軽水素とホウ素11は先進的核融合燃料と呼ばれています。今回の成果は、先進的核融合燃料を使った核融合炉の実現に向けた大きな第一歩です。

この研究成果をまとめた論文が世界最高峰の科学雑誌であるNature Communications に2月21日に掲載されました。

研究の背景

核融合炉は、持続可能な社会において温室効果ガスを発生しない有望なエネルギー源として期待されています。その燃料は、水素の同位体である重水素と三重水素ですが、近年、さらにクリーンな核融合炉を目指す研究が、世界各国のベンチャー企業を中心に盛んに行われています。そこでは、水素同位体燃料に比べて核融合反応を起こすことは困難ですが、放射線である中性子が発生しない“先進的核融合燃料”が用いられます。核融合科学研究所は2021年9月1日に、米国の最も歴史のある核融合スタートアップ企業のTAE Technologies社と先進的核融合燃料である軽水素とホウ素11を用いた共同研究を開始する契約書を締結しました。

核融合炉では、磁場で高温のプラズマを閉じ込め、そのプラズマ中で核融合反応を起こしてエネルギーを発生させます。しかし、これまで、そのようなプラズマ中での、軽水素とホウ素11を使った核融合反応は実証されていませんでした。磁場で閉じ込めた高温プラズマに関する様々な研究を行っている本研究所の大型ヘリカル装置(LHD)で、その反応を実証できれば、先進的核融合燃料を使った核融合炉の実現に向けて、研究を大きく前進させることができます。

研究成果

図 図 時速1500万kmを超える速さの軽水素イオンと、粉末落下装置によってプラズマ中に落下させたホウ素11を使って、 核融合反応を起こし、その生成物の高エネルギーヘリウムイオンを検出する

小川国大准教授、大舘暁教授らの研究グループは、TAE Technologies社と共同し、LHDにおいて、軽水素とホウ素11の核融合反応の実証に取り組みました。

軽水素とホウ素11の核融合反応は、核融合燃料の第1候補である水素同位体燃料と比べて極めて高い温度のプラズマが必要で実現が難しい反応と考えられていますが、高エネルギーのビームを使うことで実現の可能性があります。その核融合反応を効率よく起こすためには、軽水素を時速1500万kmの速さでホウ素11に衝突させる必要があります。LHDでは、プラズマを加熱するために、時速1500万kmを超える速さの軽水素をプラズマに入射する装置を独自に開発してきました。また、高温プラズマを制御するために、プラズマにホウ素の粉末を振りかける装置を設置しています。これらを組み合わせることで、磁場閉じ込めプラズマ中で軽水素とホウ素11との核融合反応が実現できる可能性がありました。

軽水素とホウ素11の核融合反応では、高エネルギーのヘリウムが生成されます。反応の実証には、そのヘリウムを検出しなければなりません。そのために小川准教授らは、これまでのLHDにおける高度な実験研究により信頼性が確認されている、数値シミュレーションに基づいて、発生するヘリウムの数と磁場の影響によって複雑な動きをするヘリウムの軌道を予測しました。そして、高エネルギーのヘリウムが飛来する予定のプラズマの表面近くにTAE Technologies社が製作した検出器を設置しました(図)。ホウ素をふりかけたプラズマに高エネルギー軽水素ビームを入射する実験を行った結果、予測どおり、軽水素とホウ素11の核融合反応によって生成した高エネルギーヘリウムの検出に成功しました。これにより、世界で初めて、磁場で閉じ込めたプラズマ中での、軽水素とホウ素11の核融合反応を実証したのです。

研究成果の意義と今後の展開

軽水素とホウ素11から高エネルギーヘリウムを生成する核融合反応は、放射線である中性子を生成しないため、よりクリーンな核融合炉を将来的に実現できる可能性があります。本研究成果は、よりクリーンな磁場閉じ込め核融合炉実現のための大きな第一歩であるといえます。この点が高く評価され、本研究成果をまとめた論文が、2023年2月21日に世界最高峰の科学雑誌であるNature Communicationsへ掲載されました。今後、軽水素とホウ素11との核融合反応をより深く理解するための計測器開発、生成された高エネルギーのヘリウムの閉じ込め特性の研究などを推進していきます。

【用語解説】

※1  TAE Technologies :https://tae.com

※2  自然界では質量数が10と11のホウ素が存在し、ホウ素11は80%程度を占める

※3  軽水素とホウ素11との核融合反応
p(軽水素)+ 11B(ホウ素11)→ 3α(高エネルギーヘリウム) (Q=8.68 MeV)

※4  ホウ素粉末落下装置 https://www.nifs.ac.jp/news/researches/220117.html

【論文情報】

雑誌名:Nature Communications

題名:First measurements of p11B fusion in a magnetically confined plasma
(磁場によって閉じ込められたプラズマ中でのp11B核融合の初めての計測)

著者名:R. M. マギー1、小川国大2、田島俊樹1、3、I. アルフレイ1、郷田博司1、P. マキャロル1、大舘暁2、磯部光孝2、神尾修治1、3、V. クランパー1、3、奴賀秀男2、庄司主2、S. ジアエイ1、M. W, ビンデルバウワー1、長壁正樹2

R. M. Magee1, K. Ogawa2, T. Tajima1, 3, I. Allfrey1, H. Gota1, P. McCarroll1, S. Ohdachi2, M. Isobe2, S. Kamio1, 3, V. Klumper1, 3, H. Nuga2, M. Shoji2, S. Ziaei1, M. W. Binderbauer1 and M. Osakabe2

1 TAE Technologies、2 自然科学研究機構 核融合科学研究所、3 カリフォルニア大学アーバイン校

【研究サポート】

本研究は、下記の研究協力協定に基づき実施されました。

関連リンク

【本件のお問い合わせ先】
  • 研究内容について
    大学共同利用機関法人
    自然科学研究機構 核融合科学研究所 ヘリカル研究部
    • 高温プラズマ物理研究系
      准教授 小川 国大(おがわ くにひろ)
      電話: 0572-58-2229
    • プラズマ加熱物理研究系
      教授 長壁 正樹(おさかべ まさき)
      電話: 0572-58-2180
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