本研究計画や新しい実験装置について

なぜこの研究は重要なのですか?

これまでの世界中の実験装置を用いた研究によって、プラズマ中に発生する乱れ(乱流)や流れ(ゾーナルフロー)が閉じ込め特性に極めて強い影響を与え、さらに、それらの現象は閉じ込め磁場の3次元幾何構造に強く依存することが発見されました。これらの物理的理解や知見をさらに拡げ、磁場の曲がりや捻じれといった多様な3次元構造を探求することで、乱流を抑制するゾーナルフローの形成がより強く促進された新しい”乱流抑制プラズマ”を創成することが可能となります。この研究計画の進展によって、プラズマの「乱れ」や「流れ」といった非線形性や構造形成に関する特質を自在に制御するメカニズムを明らかにし、核融合炉実現の加速やより先進的な閉じ込め方式の開拓に繋がる新たなブレークスルーを引き起こすことを目指しています。

どのようなことを明らかにする研究なのですか?

この研究計画では、ゾーナルフローなどの構造形成によって極限まで乱流が抑制されたプラズマを実現するための3次元磁場構造はどのようなものか?また、その物理メカニズムはどのようにモデル化されるか?さらに、そのとき高エネルギー粒子やプラズマを覆う周辺磁場構造の振る舞いはどのように相互に影響を与え合うか?などを明らかにします。これらの現象の解明やその制御は、核融合炉実現の加速や革新的な閉じ込めを発見する鍵となり、新たな閉じ込めスケーリング則の構築に繋がります。 *科学目的

これまでの実験装置に比べて何が新しいのですか?

この研究計画で新たに提案する実験装置は、これまで明らかにされた物理的知見と数理計画手法の融合によって設計され、乱流やそれに伴う構造形成(ゾーナルフロー)を自在に抑制・促進・制御できる革新的な3次元プラズマ閉じ込めを探求・実証するものです。このような、プラズマに内在する非線形性や構造形成を組み入れて設計される実験装置の実現は世界初の取り組みです。

この装置で核融合発電が可能なのですか?

この研究計画において設計される実験装置は、それそのものによって核融合によるエネルギー生成を実証するものではなく、新たなプラズマ閉じ込めの探求とモデル化や多様な計測システムによる定量検証を目的とするものです。他方、それらの知見や予測モデルをベースにした炉設計の研究も併せて展開することで、現在設計活動が進められている核融合炉開発を加速し、さらに高効率な核融合炉の概念構築に向けたブレークスルーが得られると期待されます。

日本だけで行う研究なのですか?

ここで実現を目指す新たな実験装置は世界初の取り組みであるため、世界中の研究機関との国際共同研究の更なる促進が期待されます。

核融合科学研究所だけで行う研究なのですか?

国内外の大学・研究機関における関連研究プロジェクトと連携のもと、共同研究として多彩な研究展開が期待されます。

ITER計画とはどのように関連しているのですか?

ゾーナルフローの発見はITER計画の推進を強く後押しするものでした。この研究計画では、ゾーナルフローなどの乱流を抑制する作用を極限まで強めるためのメカニズムに関する知見を得ることを目指しており、実験データ・理論モデル・計測手法などを通じてITER計画への貢献が期待されます。

いつ頃実験を開始することを想定しているのですか?

2030年代前半の実験開始を目標に準備研究などを推進しています。 *スケジュール


他の研究との関連などについて

LHDからどのように発展しているのですか?

大型ヘリカル装置(LHD)を中核としたこれまでの研究で多くの成果が得られています。特に、LHDの特性を活かした多彩な実験によって、プラズマの閉じ込め特性に対して乱流・ゾーナルフロー・磁場構造が複雑に関連し合うことが明らかにされてきました。この研究計画は、LHDをはじめとする世界の研究成果・知見を基盤として、核融合炉実現を加速する新しいプラズマ閉じ込めを開拓するものです。

トカマク装置での研究との違いは何ですか?

ITERJT-60SAに代表されるようなトカマク装置においても、乱流などの非線形現象がプラズマの閉じ込めを支配しています。それらを抑制し、どのように制御するか?はトカマクのプラズマ研究においても主要課題であるため、本研究計画においても連携研究して取り組むことを想定しています。さらに、3次元磁場でプラズマの非線形性や構造形成を制御する手法の構築やモデル化はヘリカルプラズマ研究の特色が発揮される点であり、ここでの新たな実験装置によって得られる知見はトカマクのプラズマ研究にも大きな波及を与えると期待されます。

原型炉設計とはどのように関連しているのですか?

プラズマ閉じ込めの高性能化に関する研究知見は、原型炉における磁場の強さやプラズマに循環させる電流、対向機器への熱負荷といった、核融合発電炉における工学的な制約条件の緩和やさらなる高効率化に寄与することが可能です。原型炉開発に向けたアクションプランにおいて挙げられている課題との共通点も多く、さらなる連携が期待されます。

核融合発電はいつ頃実現されるのですか?

現在、日本の原型炉開発ロードマップでは21世紀中葉に原型炉(DEMO)による発電実証を行うことを目指して研究・開発が進められています。また、欧州の核融合炉実現に向けたロードマップでも日本とほぼ同様な内容になっています。新たな実験装置を用いた研究で得られる知見によって、核融合炉開発を加速し、さらに高効率な核融合炉の概念構築に向けたブレークスルーが得られると期待されます。

核融合エネルギーの実現以外にも役立つ研究なのですか?

 磁場を伴うプラズマ乱流は、材料プロセッシングや宇宙推進技術、さらには、宇宙天気予報や恒星・ 惑星の進化にも深く関わる現象であることから、精密なプラズマ実験や理論研究から得られる多彩な科学知見・膨大なデータを通し て、他の科学領域や産業・医療分野との連携研究も推進します。


物理・工学的な研究課題について

プラズマの乱流はなぜ重要なのですか?

プラズマ中に発達する「乱れ」すなわち乱流は、径方向の熱の伝達を促進してしまい、プラズマの閉じ込め性能の向上を阻害する現象です。この乱流のメカニズムを解明し、磁場構造によって抑制あるいは制御することができれば、これまでとは質的に異なった革新的なプラズマ閉じ込めの可能性が拓かれます。

ゾーナルフローはなぜ重要なのですか?

乱流が自発的に形成する大域的な「流れ」はゾーナルフローと呼ばれます。ゾーナルフローは径方向の熱の伝達を抑えて、プラズマの閉じ込め特性を向上することが知られており、乱流輸送の抑制において鍵となる現象です。どのようなメカニズムで発現し、どのような条件で強く形成され、どれほど乱流を抑制するかを解明することで、ゾーナルフローの持つ機能が最大限に引き出されたプラズマ閉じ込めの開拓に繋がります。

高エネルギー粒子の振る舞いはなぜ重要なのですか?

核融合プラズマにおいて、α粒子などの高エネルギー粒子はプラズマを加熱する役割を担うため、プラズマ内部に閉じ込めて共存させる必要があります。高エネルギー粒子の閉じ込めや、その振る舞いがプラズマに与える影響の解明によって、高効率のプラズマ加熱やさらなる安定化が可能になると期待されます。

プラズマを覆う周辺磁場構造はなぜ重要なのですか?

核融合炉の性能は、炉心プラズマの性質に加え、その周りを覆う周辺領域の磁場構造にも強く影響を受けることが知られています。ダイバータと呼ばれる粒子の排気機構といった、炉心とは異なる磁場構造が持つ多様な機能やその制御方法の解明によって、性能向上や新たな機能の発見に繋がると期待されます。

どのようにして「乱れ」や「流れ」といった構造を操るのですか?

この研究では3次元の磁場構造やプラズマの幾何形状を変化させることで、乱流やゾーナルフローの性質を最大限に引き出すような新しいプラズマ閉じ込めを創成することを目指しています。そのような機能を備えた磁場構造は、数理計画の手法を援用することで広く探索され、そして、実際の実験装置を用いた定量的な検証とともに、さらなる探求が展開されます。

なぜ高温超伝導導体の開発研究を行っているのですか?

高温超伝導材料は優れた特性を持っていますが、とても脆いために機械的特性の点から制約があり、プラズマ閉じ込め磁場を生成するコイルに適用できる高温超伝導導体がありません。このようなことから、将来の核融合炉を見据えて、機械的特性に優れた高温超伝導導体の開発研究を進めています。

高温超伝導体のメリットは?

臨界温度が高いため、これまで液体ヘリウム温度(4 K)近傍で運転していた超伝導マグネットが、20 Kを超える温度で運転できます。そのため、まず冷却に必要な電力が低減されます。さらに温度上昇によるクエンチ現象のリスクが減るなどマグネットの安定性が増します。臨界磁場が高いため、これまで最大15 Tで運転していたマグネットが、20 Tを超える磁場でも運転が可能になります。


その他

NINS NINS NIFS NIFS SOKENDAI SOKENDAI

次期計画検討チーム/ Task force for next research project/post-LHD(at)nifs.ac.jp

National Institutes of Natural Sciences, National Institute for Fusion Science
322-6 Oroshi, Toki, Gifu 509-5292, Japan