科学目的

 核融合エネルギーの実現に向けて、超高温プラズマの閉じ込めに関する物理研究・工学研究が進展しています。核融合プラズマでは乱流ゾーナルフロー高エネルギー粒子プラズマを覆う周辺磁場構造といった多彩な現象が複雑に絡み合っており、閉じ込めを支配するこれらの現象のメカニズム解明やその制御は、核融合炉実現の加速や革新的な閉じ込めを発見する鍵となります。

本研究活動で目指すもの・主な科学目的

  1. 「乱れと流れを磁場で操る、新しい磁場閉じ込めプラズマ」の創成と実験による実証・探求
    • 乱流やゾーナルフロー、高エネルギー粒子が織り成す構造形成ダイナミクスの解明と
      磁場による自在制御
    • 多様な磁場構造下におけるプラズマ-物質相互作用の解明

  2. プラズマ閉じ込めの高性能化などを通した核融合炉実現の加速
    • 新たなスケーリング則や理論モデルの構築と核融合炉成立のための工学的制約の緩和
    • 原型炉以降の先進核融合炉設計に対する新たな指針(自己点火、先進燃料)

  3. プラズマ科学・総合工学における幅広い学術研究の国際共同研究プラットフォームの提供
    • 核融合大型プロジェクト(JT-60SA、ITER、原型炉など)へ資する人材の育成
    • 他の科学領域(材料・宇宙技術・天文学・データ科学・産業応用)との連携・融合

Zonalflow
ゾーナルフロー形成の促進によって乱流が抑制された3次元プラズマ
図中の色はプラズマの乱れや流れの強さを示しており、矢印の方向に強いゾーナルフローが形成されている
(数理計画手法による理論計算の一例)


 上記を見据え、本研究活動ではプラズマの非線形性やゾーナルフローなどの構造形成を組み入れた新概念に基づくプラズマ閉じ込め実験装置の設計を進め、世界初の乱流が抑制された革新的な3次元磁場配位の創成と実証を目指します。これらの研究を通して、核融合プラズマの学理のさらなる深化と体系化を推進します。

 この研究計画は核融合プラズマの新しいサイエンスを拡げるとともに、次世代の自己点火核融合炉を想定し得る炉心プラズマを探求します。磁場を伴うプラズマ乱流は、材料プロセッシングや宇宙推進技術、さらには、宇宙天気予報や恒星・惑星の進化にも深く関わる現象であることから、精密なプラズマ実験や理論研究から得られる多彩な科学知見・膨大なデータを通して、他の科学領域や産業・医療分野との連携研究も推進します。

準備研究

 研究計画を着実に推進するためのフロントローディングとして、主に3つの準備研究を推進しています。

  1. 閉じ込め磁場配位創成研究
    • 非線形性や構造形成を組み入れた最適化因子やモデル・数値探索手法などの構築により、新たな3次元磁場配位の
      創成研究を推進
    • 磁場配位創成研究の体系化やその有効性の実験実証を目的に、閉じ込めプラズマ実験装置の配位を決定

  2. 高温超伝導導体開発研究
    • 強磁場化による閉じ込め特性の向上や高電流密度による装置のコンパクト化の可能性を目指して、大型の高磁場
      マグネットに適用可能な高温超伝導導体の開発研究を推進
    • 上記の成果を基に、将来の実験装置などへの適用可能性を評価

  3. 大型ヘリカル装置(LHD)計画による検証研究
    • 磁場配位創成に用いる理論モデルの予備検証をLHD実験において推進するともに、LHDプラズマの性能向上に寄与
    • プラズマ-壁相互作用過程等がプラズマ閉じ込め特性に及ぼす影響を装置設計へと反映
    • 乱流や構造形成の理解を可能とする高解像度・精密計測装置を開発

スケジュール

 この研究計画は、LHD計画が終了した後に行う、新しい装置を用いた核融合科学研究所のプロジェクトの一つと位置付けられます。2030年代前半の実験開始を目標としています。研究計画の科学的意義を広く認めてもらうため、日本学術会議のマスタープラン2023に申請する予定です。

他分野との連携研究

 この研究計画に代表されるような閉じ込めプラズマ研究は、核融合炉の実現に向けた研究・開発のみならず、他の様々な科学研究や技術開発とも繋がりつつ広がっています。「自然科学研究機構 若手研究者による分野間連携研究プロジェクト」などの活動を通じて、物理・医療・生物・産業などの分野との連携研究が精力的に推進されており、新たな研究展開や相互発展に貢献しています。

  • 高次相関解析とインフォマティクスが拓く実験室・天体プラズマにおける加熱・輸送・乱流ダイナミクスの研究
    研究代表者:仲田資季,連携機関:核融合科学研究所、国立天文台、名古屋大学宇宙地球環境研究所、他
  • DNA二重鎖切断直接観察によるホウ素中性子捕捉療法の治療効果の定量評価
    研究代表者:小林真,連携機関:核融合科学研究所、基礎生物学研究所、藤田医科大学、他
  • 高エネルギー電子が放射する光渦のヘリカル波面計測
    研究代表者:辻村亨,連携機関:核融合科学研究所、国立天文台、産業技術総合研究所、他
  • 高精度波面計測によるプラズマ揺動計測と分子生物学的揺らぎ研究への展開
    研究代表者:秋山毅志,連携機関:核融合科学研究所、基礎生物学研究所、国立天文台、他
  • 非平衡を制御する科学:プラズマ応用ナノサイエンスの理論シミュレーション展開
    研究代表者:伊藤篤史,連携機関:核融合科学研究所、分子科学研究所、国立天文台
  • 半導体微細加工のための分子シミュレーション技術の研究
    研究代表者:伊藤篤史,連携機関:核融合科学研究所、KIOXIA株式会社
  • その他

関連研究プロジェクト

お問い合わせ

次期計画検討チーム

自然科学研究機構 核融合科学研究所
岐阜県土岐市下石町322-6
Phone: 0572-58-2148
E-mail: post-LHD(at)nifs.ac.jp

コアメンバー: 坂本隆一仲田資季高畑一也永岡賢一増﨑貴後藤拓也

NINS NINS NIFS NIFS SOKENDAI SOKENDAI

次期計画検討チーム/ Task force for next research project/post-LHD(at)nifs.ac.jp

National Institutes of Natural Sciences, National Institute for Fusion Science
322-6 Oroshi, Toki, Gifu 509-5292, Japan