NIFS

核融合科学研究所の新しい体制について

所⻑ 吉⽥善章

 核融合科学研究所(NIFS)は新しい時代に向かっています。「集中から展開へ」をスローガンに、「ユニット」と「プラットフォーム」という⼆つのコンセプトを軸として改⾰を進めようとしています。⼤学共同利⽤機関であるNIFSの新しい在り⽅について、広い学術界からの積極的な議論参加をお願いします。

【ユニット】

 核融合科学は極めて多くの難題を束にした総合的な研究分野です。学術研究機関であるNIFSは、様々な科学と技術を束ねる役割よりも、むしろ束を開いて、核融合エネルギーというチャレンジを幾つものテーマに分節化し、それぞれの問題を⼀般化することで他分野と通じ合う街道を幾筋も通してゆく、このような役割を担おうと考えています。街道を切り開く仕事を担うのが「ユニット」という研究者集団です。
 ユニットは10年の年限を定めたプロジェクトの実施主体です。それぞれのユニットが掲げる旗印「ユニットテーマ」は、今後10年の未来を⾒据えて、⾃ら定義する学術的テーマを表現するものです。それらが、広い学術の地平に新しい展開をもたらすこと、これこそがNIFSの⽬指すところです。
 ユニットは⾊々な個性をもつ専⾨家によって構成される⾼度な機能体 Gesellschaft です。分業するのではなく協⼒して研究を⾏う組織、互いを理解し学びあうことで能⼒を⾼めてゆくチーム、そのような集団の⼤きさはおよそ10⼈のオーダーであると考えられます(もちろん5⼈でも20⼈でもかまいません)。NIFSの規模を考えると、概ね10のユニットを編成することができます。
 ユニットには様々な編成原理があり得ます。ある現象をユニットテーマに掲げて、それに取り組む様々な技法(実験、理論、シミュレーションなど)をもつ者たちで集団をつくるというやり⽅、あるいは⼀つの⽅法論を確⽴することをユニットテーマに掲げて、それを様々な現象に係わる問題意識から開発しようという者たちで集団をつくるというやり⽅もあるでしょう。場合によっては同じテーマに対して異なるアプローチでせまる⼆つのユニットが競争的に切磋琢磨するということも歓迎すべき状況です。
 ユニットは⼀つのプロジェクトの下部組織ではありません。それぞれが独⾃の⽬標をもつ研究チームです。したがって、「加熱部⾨」「閉じ込め部⾨」「計測部⾨」というような分業単位ではありません。ユニットテーマは、教科書の⽬次タイトルのような、分野の裡だけで通⽤するような、いわば「聞き慣れたキーワード」であってはなりません。10年で何を探求するのか、何を作りあげるのかを表現するチームの旗印であり、未来志向の⾔葉でなくてはなりません。それを練り上げることこそがユニット編成の知恵の出しどころです。
 ユニットはNIFSを組織するメゾ階層の単位ですが、「ユニット ∈ NIFS」の構造と「研究者 ∈ ユニット」の構造は次のような相似性をもちます。学術研究という場で個々の研究者・技術者がどのように個性を発揮すべきかを考えるとき、「楕円 ellipse」というモチーフが参考になります(図1)。楕円とは、⼆つの焦点に対して等距離にある平⾯曲線のことです。これを惑星軌道にあてはめると、⼀つの焦点に太陽があります(実焦点)。もう⼀つの焦点には具体的な「物」は置かれていないのですが、これを架空の拠り所(虚焦点)として軌道は引き延ばされます。このモデルをユニットにあてはめるなら、⼀つの焦点は「ユニットテーマ」、もう⼀つの焦点は個々の研究者・技術者の⼼にある「個々のテーマ」という拠り所です。これが多⽅⾯に広がっていることでユニットの内容は豊かになります。この関係をNIFS全体に相似的にあてはめると、⼀つの焦点が「核融合科学」というNIFSの看板であり、その内容を表現するのが多⽅⾯に展開する「ユニットテーマ」です。核融合科学が展開してゆく⽅向を指し⽰すユニットテーマの集合がこれからのNIFSのアイデンティーになります。研究のダイナミズムをアイデンティティーにしようという考えです。実験の道具でアイデンティーを主張する時代は終わりにします。
 ユニットは学術界に開かれた組織です。ユニットテーマは、学術の⼤きな潮流に⽬配りしながら、オープンな議論を通じて策定していきます。NIFSのアイデンティーを複数のユニットテーマに分節化して表現することによって、これまで以上に広い分野を巻き込んだ共同利⽤・共同研究の可能性が⽣まれると考えています。⼤学等の研究者や学⽣は、ユニットの活動に様々な形で参画することが期待されます。そのためには、ユニットの設計段階から、NIFS外の広い学術界からの積極的な議論参加をお願いします。

図1 学術の楕円的な展開:共通性と個別性の統合

図1 学術の楕円的な展開:共通性と個別性の統合

【プラットフォーム】

 プラットフォームはハード⾯の学術基盤です。核融合科学分野の⼤学共同利⽤機関としてNIFSが備えるべき学術基盤とは何か、LHDの資産を最⼤限に未来に活かす⽅法は何か、そしてNIFSの次世代⼤型プロジェクトはいかにあるべきか、これらの戦略を多⾓的に検討しています。
 これまでNIFSの看板であったLHDプロジェクト(⼤規模学術フロンティア促進事業として推進)は2022年度で終了することが決まっています。NIFSにとって重⼤な課題は、LHDプロジェクトで蓄積されたハード⾯での資産を、核融合科学の未来に向けたポートフォリオとして引き継いでゆくことです。そのためには、これまでの枠にとらわれない斬新なユニットテーマを提案し、LHDの資産を多様な⽬的で活⽤してゆくプランが必要です。
 実⾏可能なことは使える道具という境界条件によって制限されます。しかし論理的には、先ず⽬的があって、その実現のために必要な道具の算段をするというように考える必要があります。論理的にはテーマ → 道具だといっても、テーマは使える道具に制限されます。したがって、ユニットの構築とプラットフォーム(研究を⽀える道具たち)の構築を並⾏して議論してゆく必要があります。
 NIFSが準備するプラットフォームには、スーパーコンピューターや⼯学研究設備なども幅広く含まれます。さらに、双⽅向型共同研究の拠点⼤学にある研究設備も、プラズマ科学の研究基盤としてクラスターを成しています。幅広くかつ盤⽯なプラットフォームをもつことは核融合科学の⼤きな展開を⽀える必須の条件です。具体的にどのようなハードが必要になるのかについて、時間軸も意識した計画策定のために積極的な議論参加をお願いします。

hr

 NIFSは、できるだけ多くの研究者が共同研究を⾏う⼤きな街道となり、学術の広い地平のなかで「核融合科学」のスコープを拡⼤してゆくことを⽬指します。ぜひNIFSの改⾰に関⼼の⽬を向け、積極的に関与していただくことをお願いします。