核融合科学研究所

NIFSについて

所長あいさつGreetings from the Director General

2025.4.1

所長 山田 弘司

この度、核融合科学研究所NIFSの所長を吉田善章先生から引継ぎ、就任しました山田弘司です。私はNIFS創設時より長年勤めた後、この5年余りは東京大学へ出ておりましたので、里帰りとなります。「核融合・フュージョンエネルギー」に対する社会的認知が劇的に拡大している新しい時代にあって、日本を代表する学術研究機関であるNIFSを信頼に足る研究所としてしっかりと進歩させるべく、所長として全力を尽くす所存です。

もとより、所長にできることは言ってみれば限られており、この歩みは仲間、すなわち所員及び共同研究者によるものです。その実力を遺憾なく発揮し、それぞれに研究成果をあげる。そして、人と人との関係性の中でこれらの成果の体系化を育むことが大事です。このようにpiece(部品)ではなくbody(統一体)として組織が獲得した知識は核融合エネルギーの実現とともに自然の理解へと迫る世界観を築くことにつながります。大学共同利用機関である自然科学研究機構の一員ならではの核融合科学の醍醐味と申せましょう。

NIFSは主計画としてきた大型ヘリカル装置(LHD)計画の完遂を迎え、核融合科学の未来に取り組むユニット体制を組織し、核融合科学の「学際化」を方向性に据えました。吉田前所長のイニシアティブによるこれらの理念と戦略は、私も主査として起草に携わった3つの「在り方についての提言」にも定義されており、継承してまいります。領分を踏み出し、他の分野と相互に尊重し合って協業することは、より信頼のおける科学的基盤を構築することに適い、グローバル化する核融合研究開発に関わる未来設計の礎にもなるものと考えます。領域を超えて活動範囲を広げるためには、踏み出す勇気とともに自らの足腰の鍛え、すなわち他分野から尊重されうる方法論を磨き、知識を蓄える必要があります。「国際化」は境界を超えて、より広い交流・批判により進化を促すという観点で「学際化」と強い類似性があります。そこでは英語という国際言語を操ってコミュニケーションをはかると同時に、相手から国際的水準で尊重されうる素養を示すことが求められることを思えば、学際化に何が必要とされるかは自ずと明らかになると思います。

学際化 interdisciplinary という言葉は100年ほど前の米国イェール大学での試みに遡るそうです。この先駆者の回顧録には、上手くいったことばかりでないことや留意すべき要点が述べられています。その中で、印象的なことは「学際的協力にはフラストレーションを伴うこと」への喝破であります。これが落とし穴とならないようにするには、批判を率直に受け止めて一緒に活かすことが大切です。ここが言うは易く行うは難しであり、無謬主義からの脱却、頑迷であってはならないと自戒する次第です。

核融合エネルギーの実証が国家戦略として取り上げられ、様々な政策的制度の整備が進み、また多くのスタートアップ企業が参画するようになったことはこの分野に携わる立場からは喜ばしいかぎりです。一方、実用化への道のりはまだまだ長く、多くの課題が横たわっていることを専門家として十分承知しています。実用化となりますと、基礎的な学術研究は迂遠なように思われるかもしれませんが、実際には課題の解決や開発の加速をはかる根本となるものであり、欠くべからざる役割を担っています。さらには、計画はできませんが、思いもかけぬ価値ある発見を見逃さず、つかまえる原動力となります。これらが科学の発展、技術の革新、そして社会から信頼を得ることにつながります。

NIFSは大学共同利用機関として学術的な共同研究を推進することはもとより、新たに核融合に関わろうとする産業界やリカレントを含む学生の期待にも応えてまいります。このため、これまで培ってきた知識基盤及び研究施設基盤を最大限に活かして拡充をはかり、新たなポストLHD計画だけではなくフュージョン・ナノ・プラットフォームや超伝導・低温技術をはじめとする工学施設群、プラズマシミュレータなどの核融合科学においては世界を見渡しても他にはないプラットフォーマーを目指していきます。多くの研究者・技術者が行き交い、その交流を通じてNIFS所員だけでなく関係する人々が知的好奇心からの満足感とやりがいを感じることができる研究所でありたいと思います。最後になりますが、地元の皆様との信頼関係を大切にし、この東濃の地において豊かな文化を育むことに貢献してまいります。ぜひ所外の皆様からも関心を寄せていただき、積極的な関与と変わらぬご支援をお願いいたします。

令和7年4月