核融合科学研究所

NIFSについて

所長あいさつGreetings from the Director General

2023.4.1

所長 吉田 善章

核融合科学研究所 NIFS は新しい時代を迎えました。新生NIFSが、学術の潮流の中で核融合科学の新たな方向を照らす灯台となるように、所員の力を結集して取り組む所存です。

核融合エネルギー実現への道程は研究の出発点(20世紀中葉)では予想できなかった苦難の連続でした。しかし、予期せぬ難問に遭遇するということは、必ずしも不幸なことではありません。多くの偉大な研究者が「失敗から発見が生まれた」と証言しているように、人知を超えた真理は予想外のところにあるからです。核融合は、開発研究者にとって険しい峰であると同時に、学術研究者にとっては宝の山だということができます。核融合エネルギー開発という大型プロジェクトは、様々な分野の研究者を巻き込む頭脳循環を起こし、多くの新しい現象の発見を生み、非平衡・非線形の科学技術の発展にとって極めて多産な研究の場となってきました。

難問をインプットとして、全く新しい知をアウトプットすることこそ学術研究の役割です。そのためには、まず「難問」を「良い問題」として定式化する必要があります。「良い問題」とは、それを研究することから大きな一般性をもつ真理が導かれるような研究課題という意味です。これまでの核融合研究では、プラズマのパラメタ(温度や密度)を核燃焼条件に近づけるという「数値目標」を課題とし、文字通り人類未踏の「フロンティア」を開拓する大規模事業を推進してきました。その挑戦を通じて、数値という「結果」の背景にある「原因」を構成する問題群がみえてきました。核融合科学がより広いテーマに展開され、学術的な意味が読み取れる段階へ進んだといえます。NIFSは世界に先駆けて、核融合科学を「良い問題」の集合として展開し、それらを具体的なテーマとして掲げて共同研究を実施するためにユニット体制をとります。

ユニットは、NIFS所員と所外の学際的なメンバーがそれぞれほぼ同数で構成する共同研究チームです。それぞれのユニットが掲げる「ユニットテーマ」は、今後10年の未来を見据えて、私たちが自ら定義する核融合科学のテーマを表現するものです。ユニットテーマの策定にあたっては、広く学術界に呼びかけ、計40回のオンライン会議(毎回100~200人が参加)を公聴会の形式で開催し、11個の案にまとめられました。それに基づき、2023年度は10個のユニットを組織し、新しい時代のスタートを切ります。

共同利用研究機関であるNIFSは、世界トップレベルの共同研究を実施するために、研究基盤=プラットフォームを整備し運用します。NIFSの中核的研究基盤であるLHDは、世界最高性能の計測器群を有する高精度の実験装置であり、これを用いて初めて発見された多くの現象があります。それを「装置」の特殊性(特長)に還元してしまうのではなく、複雑現象の諸相において普遍的に成り立つ原理として一般化することこそが学術研究の目標です。一般化とは、様々な対象において実現できる「遺伝情報」にするという意味です。将来の核融合炉(さらには様々な未来の科学技術)の設計図=DNAを構成する「遺伝子」として拡散させなくてはなりません。核融合科学を学際的に発展させるという新しいミッションのもとで、LHDは学術研究基盤として3年間運用し、post LHDの時代へ引き継ぐべき「遺伝情報」の生成に取り組みます。

核融合エネルギーは、カーボンニュートラルの鍵を握る革新的技術として、その早期実用化への期待が世界的に高まっています。核融合技術の社会実装という目標設定は、核融合技術を学際化することによって、様々な科学技術分野にイノベーションを起こす駆動力になります。 NIFSは、多様な分野の研究者が交流する大きな街道となり、学術の広い地平の中で「核融合科学」のスコープを拡大してゆくことを目指します。ぜひNIFSに関心の目を向け、積極的に関与していただくことをお願いします。

令和5年4月

年頭所感