核融合科学研究所

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2023.9.25

受賞

居田克巳特任教授のチャンドラセカール賞受賞が決定
- プラズマ物理の進歩への貢献が評価 -受賞

概要

核融合科学研究所の居田克巳(いだ かつみ)特任教授が、プラズマ物理の顕著な進歩に貢献した研究者に贈られるチャンドラセカール賞※1(Subrahmanyan Chandrasekhar Prize of Plasma Physics 2023)を受賞することが決定しました。本賞は、一般社団法人アジア太平洋物理学会連合プラズマ物理分科会 (AAPPS-DPP)※2 が2014年に創設したもので、ノーベル物理学賞を受賞しプラズマ物理にも貢献した、スブラマニアン・チャンドラセカール※3氏の名を冠したものです。今回の居田特任教授の受賞は、磁場で閉じ込めた高温プラズマ中の様々な乱流状態の実験的発見に対する先駆的な貢献が評価されました。授賞式と受賞講演は、2023年11月12日-17日にポートメッセ名古屋にて開催される第7回アジア太平洋プラズマ物理学国際会議の中で行われます。

研究背景

核融合発電の実現を目指して、高温のプラズマを磁場で閉じ込める研究が世界中で行われています。最も重要なのは、高温のプラズマを長時間にわたって安定維持させることで、それには多くの課題があります。磁場で閉じ込めたプラズマは、核融合反応を起こす中心部は1億度以上の高温ですが、周辺部は数十万度程度で、低温の周辺部から高温の中心部にかけて温度勾配がついています。この温度勾配は一様ではなく、その場所も様々です。これはプラズマ中に発生する渦状の流れ(乱流)が強いと勾配は小さく、弱くなると大きくなることに起因しています。この発見以降、乱流のメカニズムの解明や制御が、核融合発電の実現を目指したプラズマ物理の中心テーマになりました。

受賞理由

今回の居田特任教授の受賞は、磁場で閉じ込めたプラズマ中の様々な乱流状態の実験的発見に対する先駆的な貢献に与えられたものです。研究対象は、乱流駆動流、Hモード状態における電場シアー、磁気トポロジーと非局所性の輸送への影響等です。

居田特任教授らは、乱流の性質を明らかにするため、プラズマの温度勾配が強くなった部分に注目して、プラズマの流れを詳細に計測しました。そこでは、自発的に発生した一方向の流れ(トロイダル流とポロイダル流)が観測されました。しかも、その流れには空間的に強弱があることが発見されました。この強弱のある流れを「シアー流」と呼んでいます。このシアー流は外部から与えたものでなく、プラズマ自身が作り出したものであること、乱流を弱めて温度勾配を強くする働きがあることを1990年に見出しました。すなわち、プラズマ中では、乱流とシアー流(とそれによる電場勾配)がせめぎ合いをしており、そのバランスによって多様な温度勾配、そして温度分布が実現しているのです。その後、この乱流とシアー流との分布、さらに温度分布にも様々な場合(状態)があることを実験的に明らかにしました(図1)。例えば、乱流に駆動されたシアー流と電場勾配がプラズマの周辺部に発生すると、それが今度は乱流を抑えて、Hモードという周辺部近傍で温度が高い状態のプラズマになります。この現象はプラズマの内部で起こることもあり、プラズマ中心部近傍で温度が高い状態のプラズマとなり、内部輸送障壁が形成された状態になります。三日月型の閉じた磁気面(磁気島)を持つトポロジーにプラズマが変化した時は、磁気島では温度勾配がなくなり乱流もなくなります。また、乱流の非局所性がこの状態間の遷移(ある状態から別の状態への変化)を引き起こしている原因であることも明らかにしてきました。

図1 プラズマ内部に発生したトロイダル流(ピンク色の線)、ポロイダル流(黒線)、乱流(白線)、温度分布(青〜赤)の様々な状態。温度の高い部分が赤、低い部分が青で示されている。温度が低いLモード(右上)、周辺部で温度が急上昇するHモード(左下)、中心部で温度が急上昇する内部輸送障壁モード(中央下)、三日月の部分で温度の上昇が妨げられている磁気島状態(右下)がある。
図1 プラズマ内部に発生したトロイダル流(ピンク色の線)、ポロイダル流(黒線)、乱流(白線)、温度分布(青〜赤)の様々な状態。温度の高い部分が赤、低い部分が青で示されている。温度が低いLモード(右上)、周辺部で温度が急上昇するHモード(左下)、中心部で温度が急上昇する内部輸送障壁モード(中央下)、三日月の部分で温度の上昇が妨げられている磁気島状態(右下)がある。

受賞コメント

居田特任教授は「受賞対象となった研究成果は、プラズマの乱流制御と温度分布制御に関する物理の進歩をもたらし、トロイダル・プラズマにおける乱流輸送の実験的研究において新たなフロンティアを開拓するものです。磁場閉じ込めプラズマの乱流輸送における多くの本質的プロセスの発見は、現代物理学としてのプラズマ物理学の価値を高め、核融合発電の実現に大きく貢献すると期待しています。」と述べています。

【用語解説】

※1  チャンドラセカール賞
ノーベル物理学賞を受賞したインド生まれのアメリカの天体物理学者であるスブラマニアン・チャンドラセカールの名を冠したプラズマ物理の顕著な進歩に貢献した研究者に贈る賞として、2014 年に創設された。3000人を超えるアジア太平洋物理学会連合プラズマ物理分科会の会員の中から選出。日本の研究機関に所属する研究者としては、2014年の一丸節夫氏(受賞当時 東京大学名誉教授)、2019年の柴田一成氏(受賞当時 京都大学教授)に続いて3人目の受賞。

※2  一般社団法人アジア太平洋物理学会連合プラズマ物理分科会 (AAPPS-DPP)
プラズマ原理、基礎プラズマ、プラズマ応用、レーザープラズマ、スペースプラズマ、太陽・天体プラズマ、磁場核融合プラズマなどの広範なプラズマ領域の研究者の相互交流と共通基盤としてのプラズマ物理学を振興することを目的として2014 年に発足。

※3  スブラマニアン・チャンドラセカール
インド生まれのアメリカの天体物理学者。1932年に白色矮星の質量に上限があることを理論的計算によって示し、恒星の終焉に関する「チャンドラセカール限界」を提唱、1983年にノーベル物理学賞を受賞。

受賞情報

受賞名:Subrahmanyan Chandrasekhar Prize of Plasma Physics 2023

2023年スブラマニアン・チャンドラセカール プラズマ物理学賞

アジア太平洋物理学会連合プラズマ物理分科会

受賞内容:Pioneering contributions to experimental discoveries of a variety of turbulent states of magnetic fusion plasma, including turbulence-driven flow, electric field shear in H-mode state, and the effects of magnetic topologies and non-locality on transport.
乱流駆動流、Hモード状態における電場シアー、磁気トポロジーと非局所性の輸送への影響等、磁場核融合プラズマのさまざまな乱流状態の実験的発見に対する先駆的な貢献

受賞者名:居田克巳

受賞者リスト:http://aappsdpp.org/AAPPSDPPF/prizetable.html

参考

https://aappsdpp.org/AAPPSDPPF/PDF/S.Chandrasekharprize_2023.pdf

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【本件のお問い合わせ先】
  • 研究内容について
    大学共同利用機関法人
    自然科学研究機構 核融合科学研究所 研究部
    位相空間乱流ユニット 特任教授
    居田 克巳(いだ かつみ)
    電話: 0572-58-2257,2182