核融合科学研究所

News

2023.3.9

新開発異種金属接合法を用いた核融合炉用高熱負荷機器開発が
重要マイルストーンを通過
- 産学連携で生まれた新技術が核融合炉の実現に大きく貢献 -

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所

東邦金属株式会社

研究成果(プレスリリース)

概要

自然科学研究機構 核融合科学研究所(岐阜県土岐市 所長・吉田善章)と東邦金属株式会社(大阪市中央区 取締役社長・小樋誠二)の研究グループは、将来の核融合炉への実装を目指した、ダイバータ※1と呼ばれる高い熱負荷にさらされる炉内機器の開発を行っています。これまで、同グループはその機器の製作に必要不可欠である、異種金属の接合技術を新たに開発してきました。今回、その新接合技術を用いて製作した機器を核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)に取り付け、約3か月間の実験で、高温プラズマを8,000回以上照射する試験を実施しました。実験終了後に行った検査では、機器の接合部の異常や表面の損傷は認められず、照射後の健全性が確認されました。今回の実験結果は、本接合技術の高い信頼性を示しており、今後実用化に向けた研究の進展が期待されています。

この成果は、3/13-3/15に開催される日本原子力学会・春の年会で発表予定です。

研究の背景

「核融合炉」は、持続可能な社会におけるクリーンなエネルギー源として早期実現が期待されています。核融合科学研究所と東邦金属(株)は、核融合炉を構成する重要機器の一つである、ダイバータの開発を共同で推進しています。ダイバータには、高い耐熱性能と除熱性能の両立が求められており、高融点金属であるタングステンと、高熱伝導特性を有する銅合金を接合する技術の確立が不可欠です。研究グループは、従来のロウ付け等の接合法に替わる、新たな異種金属接合技術※2を開発し、ダイバータや産業機器への応用を目指してきました。

本共同研究で開発中のダイバータは、電子ビームをタングステン表面に照射して熱負荷を与える方法で、既に20MW/m2 ※3という高熱負荷環境下での健全性が確かめられています。しかし、電子とともにイオンも存在する高温プラズマに繰り返しさらされる等、核融合炉条件に近い過酷な環境下における健全性の確認が待たれていました。

研究成果

研究グループは、開発中のダイバータ試験体(図1)を、核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)に設置し、昨年9月末より約3か月間にわたって行われたプラズマ実験期間中、8,000回以上生成された高温プラズマに繰り返しさらしました。

実験中は、ダイバータの温度や、表面から放出される不純物の種類と放出量、プラズマの温度や密度、真空度といった各種の値を計測しましたが、機器自体の異常やプラズマへの悪影響は観測されませんでした。

さらに、実験終了後の本年2月末に、LHDの真空容器内に入ってダイバータ試験体を調査しました。高熱負荷にさらされたタングステン表面には、しばしば亀裂や接合面の異常が見られることがありますが、本試験体の目視による観察では、そのような亀裂や異常は発見されず、機器全体の健全性が確認されました。今後、電子顕微鏡をはじめとする各種装置を用いて微細な分析を行う予定です。

図1
図1 今回開発したダイバータ試験体。タングステンのプラズマ対向板と銅合金製の除熱体(水冷)からなる。半透明化した除熱体の中に見えるのは水冷配管。

研究成果の意義と今後の展開

今回、新開発の異種金属接合技術を用いて製作したダイバータが、高温プラズマ照射環境下での試験に成功したことから、本技術の高い信頼性が確認されました。今後、将来の核融合炉への実装を目指し、国内外の大型プラズマ実験装置における実験を計画しています。また、高温プラズマや高熱流束を対象とした「核融合研究」のスピンオフである本技術は、高熱を扱う場面において、産業機器への応用・展開も大いに期待できると考えています。

【用語解説】

※1  ダイバータ
高温のプラズマが直接接触し、余剰なプラズマ粒子を排気する機器

※2  新たな異種金属接合技術
研究グループが開発した、粉末固相接合法(Powder Solid Bonding, PSB)と命名された、プラズマを利用した異種金属接合法。(特許第6563581号)
https://www.nifs.ac.jp/news/press-o/200918.html

※3  20MW/m2
地上で観測される太陽熱の約20,000倍

【研究体制】

  • 自然科学研究機構 核融合科学研究所
    森﨑 友宏(ヘリカル研究部 高密度プラズマ研究系 教授)
    村瀬 尊則(技術部 実験応用技術係長)
  • 東邦金属株式会社
    坂田 浩章(技術開発部部長)
    北垣 慎二(技術開発部次長)
    高橋 雄太(技術開発部応用技術開発課課長)
    中島 擁平(技術開発部応用技術開発課)

【発表情報】

会議名:日本原子力学会 春の年会

講演タイトル:(SPS法を用いたタングステン-銅合金接合によるダイバータ受熱機器の開発)

著者名:村瀬 尊則、森﨑 友宏、林 祐貴、坂田 浩章、北垣 慎二、高橋 雄太、中島 擁平

【研究サポート】

本研究は核融合科学研究所と東邦金属株式会社との共同研究として行われました(平成29年9月29日締結)。また幅広い産業分野への更なる応用展開を支援する「自然科学研究機構の産学連携支援事業」(令和元年度~2年度)に採択されました。

【本件のお問い合わせ先】
  • 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
    管理部 総務企画課 対外協力係
    t
このページをシェアする