核融合科学研究所

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2024.2.16

宇宙プラズマの波「コーラス放射」の自発励起と発生条件の解明を実験室で実現
- 人工磁気圏RT-1による実験室と宇宙をつなぐプラズマ現象の理解 -

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所

国立大学法人 東京大学

研究成果(プレスリリース)

概要

惑星周辺の宇宙空間で観測される「ホイッスラーモード・コーラス放射※1」は、オーロラや「宇宙天気」現象とも関わる重要な波です。コーラス放射の発生機構や関連した現象は、探査機等を用いた活発な研究対象となっています。今回、核融合科学研究所と東京大学の研究グループは、「人工磁気圏」RT-1装置※2を使った実験研究を行い、ダイポール磁場※3中のプラズマがコーラス放射を自発的に作り出すことを発見しました。また、コーラス放射が発生するために必要な条件を明らかにしました。コーラス放射は、木星など地球以外の惑星の磁気圏でも観測される一般的な現象であり、さらには核融合プラズマの持つ波とも共通性が見られます。今後、宇宙と実験室のプラズマに共通した物理機構の解明に役立つことが期待されます。

図1:自然から学び先進核融合を目指す「人工磁気圏」RT-1において、本研究では逆に自然を理解するための実験を行い、宇宙プラズマの「コーラス放射」が出現する条件を解明した。
図1:自然から学び先進核融合を目指す「人工磁気圏」RT-1において、本研究では逆に自然を理解するための実験を行い、宇宙プラズマの「コーラス放射」が出現する条件を解明した。

研究背景

リング電流が作り出す「ダイポール磁場」は、実験室や宇宙に見られる最も基本的な形の磁場です。木星などの惑星磁気圏は、プラズマをとても効率良く閉じ込めることができます。「人工磁気圏」RT-1プロジェクト(図1)は、自然に学び、磁気圏型の高性能プラズマを実験室に作り出し、先進的な核融合エネルギーの実現を目指しています。一方、複雑な自然界の性質を抽出し、人間の手で制御が可能な人工磁気圏は、自然現象のメカニズムを理解するために使うこともできます。

地球周辺の宇宙空間「ジオスペース※4」で観測される「ホイッスラーモード・コーラス放射」は、オーロラや宇宙天気とも関わる重要な波です。コーラス放射は、これまで主に宇宙探査機による観測や、理論・シミュレーションにより活発に研究されてきました。探査機は、実際の宇宙環境を調べる強力な手段です。しかし惑星磁気圏は、全体を理解することが難しい巨大なシステムであり、また、その状態を人間が自由に操作することはできません。一方、実験室では、複雑な自然界の性質を単純化して抜き出し、人間の手で制御が可能な環境を作り出すことができます。このため実験研究には、コーラス放射を理解する上で観測や理論とは相補的な役割が期待されますが、実験室に磁気圏の環境を作り出すことは容易ではありません。制御された環境で研究が可能な実験室において、ダイポール磁場の中でコーラス放射を作り出して詳しく調べることは、これまで実現されていませんでした。

研究成果

核融合科学研究所(岐阜県土岐市)と東京大学大学院新領域創成科学研究科(千葉県柏市)の研究グループは、RT-1装置を用いて、ホイッスラーモード・コーラス放射の実験室研究を可能にしました。RT-1は、超伝導コイル(図2のドーナツ状の構造物)を磁気浮上させ、惑星磁気圏型のダイポール磁場を実験室に作り出す「人工磁気圏」です。高温超伝導技術の活用により、重量110kgのコイルを真空容器の中で磁気浮上させ、その磁場によりプラズマを閉じ込めます。これにより、コイルを支えるための支持構造の無い運転が実現され、地上にありながら惑星磁気圏に近い環境でプラズマを生成することが可能です。今回の研究ではRT-1の真空容器に水素ガスを封入してマイクロ波を入射し、主に電子を加熱することで高性能の水素プラズマを生成しました。

図2:RT-1のダイポール磁場に閉じ込めたプラズマが多数の高温電子を持つ場合、鳥のさえずりのように周波数(音の高さ)が変化するコーラス放射が自発的に形成される。
図2:RT-1のダイポール磁場に閉じ込めたプラズマが多数の高温電子を持つ場合、鳥のさえずりのように周波数(音の高さ)が変化するコーラス放射が自発的に形成される。

実験では様々な状態のプラズマを作り、磁場や電場の波がどのように発生するかを調べました。その結果、プラズマの中に高いエネルギーを持つ高温電子が存在する時、プラズマが自発的にコーラス放射状のホイッスラー波を作り出すことが明らかになりました。また、コーラス放射の発生とプラズマの密度及び高温電子の状態に注目して、プラズマが作るコーラス放射の波の強さと発生頻度を計測しました。その結果、放射の発生はプラズマの圧力を担う高温電子の増大により駆動され、さらに、プラズマ全体の密度を向上させることでコーラス放射の発生を抑制する効果があることが分かりました。本研究を通して、コーラス放射が、シンプルなダイポール磁場と高温電子を持つプラズマが作り出す普遍的な現象であることが明らかになりました。実験で明らかになった出現条件や波の伝わり方などの性質は、ジオスペースで観測されるコーラス放射の理解に寄与する可能性があります。

研究成果の意義と今後の展開

コーラス放射の電磁場の波は、高温電子を更に高いエネルギーの状態にまで加速して、オーロラの発生や人工衛星の故障を引き起こすことがあります。このような電磁場の波や高エネルギー粒子は、宇宙天気現象に深く関わっています。ジオスペースでは、太陽表面での爆発現象(フレア)が起こると磁気嵐が発生して、電磁場が大きく変動し大量の高エネルギー粒子が作られます。これにより人工衛星の故障やオゾン層が影響を受けるだけでなく、地上でも電力や通信網に障害が発生することが知られています。人類の活動領域が拡大する中で、宇宙天気現象の理解は重要さを増していますが、未解明の機構や現象が多いのが現状です。今回の研究成果は、宇宙天気の諸現象の機構を解明する上で役立つことが期待されます。

また、エネルギー問題の解決を目指す核融合プラズマの分野では、波との相互作用による粒子の損失や構造形成は、中心的な研究課題の一つです。自発励起される波動とプラズマの複雑な相互作用を正確に理解することは、核融合を実現するために必要不可欠です。周波数の変化を伴う波動現象は核融合を目指す高温プラズマでも広く観測され、コーラス放射と共通した物理機構の存在が示されています。本研究によって得られた成果は、核融合プラズマと宇宙プラズマに共通する物理現象の理解に向けた一歩であり、今後、両分野が協力を深めながら研究が進展することが期待されます。

【用語解説】

※1 ホイッスラーモード・コーラス放射
ホイッスラー波はプラズマ中を伝わる基本的な波の一つ。ジオスペースや木星周辺のコーラス放射では、鳥のさえずりのような周波数変化を伴う揺動イベントが繰り返し発生する。高エネルギー電子の生成や輸送など、オーロラや宇宙天気現象と密接な関わりがあると考えられている。

※2 Ring Trap 1装置(RT-1)
東京大学柏キャンパスに設置された磁気圏型プラズマ実験装置。高温超伝導技術によりダイポール磁場コイルを磁気浮上させ、惑星磁気圏に近い環境でプラズマ実験を行うことができる。

※3 ダイポール磁場
リング電流が作り出す磁場の形であり、地球や木星などの惑星磁気圏の形はダイポール磁場に近い。磁場の強さが非常に非一様(離れると急激に弱くなる)という特徴があり、高性能のプラズマを安定に閉じ込めることができる。

※4 ジオスペース
地球周辺の、特に人類の活動と関わりが深い宇宙空間のこと。ジオスペースでは地球の磁場に補足されたプラズマが存在し、多様な現象が発生する。人類の活動領域が宇宙に拡大するに従って、オーロラ現象や電力・通信障害の原因ともなる磁気圏の乱れの研究が活性化しており、「宇宙天気」と呼ばれる研究分野となっている。

【論文情報】

雑誌名:Nature Communications

題名:Experimental study on chorus emission in an artificial magnetosphere(人工磁気圏におけるコーラス放射の実験研究)

著者名:齋藤晴彦1, 2、西浦正樹1, 2、釼持尚輝2, 3、吉田善章1, 2
1 東京大学 大学院新領域創成科学研究科
2 自然科学研究機構 核融合科学研究所
3 総合研究大学院大学

DOI: 10.1038/s41467-024-44977-x

【研究サポート】

本研究は、文部科学省の科学研究費補助金事業(17H01177, 22H04936, 22H00115)、及び核融合科学研究所の一般共同研究(NIFS19KBAR026,NIFS22KIPR008)による支援を受けました。

【ご参考】

本件のお問い合わせ先
  • 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
    管理部 総務企画課 対外協力係
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