2024.6.24
高エネルギーイオンによる高温プラズマの自発的な流出入状態を発見 -フュージョンエネルギーによるゼロエミッション社会の実現を目指して
研究成果(プレスリリース)概要
脱炭素社会の実現とエネルギー問題の解決の切り札としてフュージョンエネルギーが期待されています。このフュージョンエネルギーを成功させるには、1億度以上の超高温プラズマを磁場で容器内に閉じ込める必要があります。核融合科学研究所(岐阜県土岐市)の西浦正樹准教授らと九州大学応用力学研究所(福岡県春日市)の井戸毅教授、デンマーク工科大学のSalewski教授らの国際研究チームは、大型ヘリカル装置LHD※1において、高エネルギーイオン※2の状態を独自に工夫することで、高温プラズマの流出入の量が自発的に決定されることを初めて明らかにしました。この発見は、高性能プラズマの生成に加え、核融合炉の小型化、核融合出力の向上、及びプラズマ燃焼状態の制御に役立つことが期待できます。
この研究成果をまとめた論文が米国の科学雑誌フィジックスオブプラズマズに、6月5日にオンラインで公開されました。さらに、注目すべき成果としてエディターズピック論文に選出されました。
研究背景
核融合研究において、磁場で閉じ込められたプラズマの性能は、密度や温度やプラズマの加熱により大きく変わります。高性能な核融合炉を実現するためには、プラズマの粒子や熱の閉じ込めを良くし、核融合反応が生じるプラズマの中心の密度と温度を高く保つことが求められます。しかし、LHDでは、電子密度の分布が平坦もしくは中心が窪んだ形状となることが多く、中心の密度を高く保持できないことが課題となっていました。
研究成果
LHDでは、プラズマを加熱するための中性粒子ビーム入射加熱装置※3が5台設置されています。各装置から磁場に対し接線方向に入射する中性粒子ビームNB#1~#3と、垂直方向に入射するNB#4とNB#5があり(図1)、高エネルギーイオンがプラズマ中で生成され、プラズマを加熱します。これらの高エネルギービームを用いて、接線入射のビーム電力と垂直入射のビーム電力の比率を変化させたところ、イオン温度分布は変わりませんでした。しかし、図2のように電子にはピークした密度分布(赤と緑)と平坦な密度分布(青)の状態の存在が明らかになりました。
高エネルギーイオンの接線と垂直の比率を変えることは、速度分布※4を等方的な分布から非等方な分布に変化させることになります。この高エネルギーイオンの状態※5を、NB#1~#5の入射ビーム電力から生じる垂直・平行成分の蓄積エネルギーの比 En⊥/En|| として、密度分布形状の依存性を調べました(図3)。En⊥/En|| = 0.3 - 0.8 の範囲で非等方性を変化させたところ、En⊥/En|| < 0.4 では平坦な電子密度分布、 En⊥/En|| > 0.4 では中心でピークした電子密度分布になることが明らかになりました。その時、外部から炭素の小さな固まりを入射し、その炭素イオンの動きを観測することで炭素イオンの分布を調べました。すると、従来の実験領域 En⊥/En|| < 0.4 では、中心が窪んだ分布でしたが、今回の実験領域 En⊥/En|| > 0.4 で、ピークした分布となることが分かりました。
これらの結果は、高エネルギーイオンの状態によってプラズマの流出入量が自発的に変化することを意味しています。この要因を明らかにするために、高エネルギーイオンによる効果をシミュレーション計算で評価しました。最初に、プラズマ中心の半径方向の電場を調べたところ、その値は-5 kV/mで、重イオンビームプローブ※6(図1のHIBP)による計測結果とも矛盾の無いものでした。しかし、この程度の電場では粒子の流出入の量を大きく変えるとは考えられません。次に、乱流※7による粒子の流出入量について、シミュレーション計算を用いて解析を行いました。その結果、ピークした密度分布と平坦な密度分布の場合のいずれも、乱流が関係する現象である可能性が示唆されました。
研究成果の意義と今後の展開
今回の新しい発見によって、高エネルギーイオンの非等方性を応用することで、核融合プラズマの閉じ込め領域からの粒子の流出入の方向や量を制御し、プラズマを最適な状態に保持できる可能性が示されました。今後は、その背景にある新しい物理機構を明らかにする必要があります。そして、研究を更に発展させ、核融合炉プラズマの高性能化、核融合炉の小型化、エネルギー出力向上、及びプラズマ燃焼状態の制御に貢献していきます。
【用語解説】
※1 大型ヘリカル装置(LHD)
岐阜県土岐市の核融合科学研究所にある世界最大級のヘリカル型超伝導プラズマ実験装置。
※2 高エネルギーイオン
高エネルギーイオンは加熱ビームから生成される。プラズマの温度が1億度とすると、そのエネルギーは約10~20倍になる。
※3 中性粒子ビーム入射加熱装置
電子とイオンで構成されるプラズマを高温に加熱するための装置。プラズマ中に高エネルギーの電気的に中性な高エネルギー水素ビームを入射し、プラズマと衝突・加熱する。
※4 速度分布
磁場で閉じ込めたプラズマの粒子は磁力線に巻き付いて動く性質があるため、平行方向と垂直方向の動き方が異なる。ある空間位置で、磁力線に平行方向と垂直方向の速度に対し、プラズマの粒子分布が等しい場合、等方と呼ぶ。一方、平行方向と垂直方向の速度に対する粒子分布が異なる場合、非等方と呼ぶ。下図(a)の等方的なプラズマに、接線方向のNB#1~#3を入れると、図(b)のように磁力線に平行方向に速い速度を持つ粒子の集団が生成される。他方、NB#4~#5を入れると、図(c)のように磁力線に垂直方向に速い速度を持つ粒子の集団が生成される。NB#1~#5の入射数やパワーを変えることで、プラズマの非等方な速度分布の度合いを変えることができる。
※5 高エネルギーイオンの状態
磁力線に垂直方向と平行方向の速度を持つ粒子分布の比率を変えることで高エネルギーイオンは非等方性や等方性を持つようになる。本実験ではこの非等方性状態を変化させている。
※6 重イオンビームプローブ(HIBP)
金のイオンビームを用いて、プラズマ中の電位を計測する装置。Heavy Ion Beam Probe(HIBP)とも呼ぶ。
※7 乱流
プラズマの密度や温度に不均一性がある場合、それが駆動力となってプラズマ中の波が成長し、やがて流れや渦が作り出され、高温状態ではしばしばそれらが不規則に乱れた状態となる。この状態を乱流と呼ぶ。
【論文情報】
雑誌名:Physics of Plasmas
題名:Core density profile control by energetic ion anisotropy in LHD
著者名:M. Nishiura、 A. Shimizu、 T. Ido、 S. Satake、 M. Yoshinuma、 R. Yanai、 M. Nunami、 H. Yamaguchi、 H. Nuga、 R. Seki、 K. Fujita、 M. Salewski
この成果は、以下の国際会議で招待講演として発表しました。
65th Annual Meeting of the APS Division of Plasma Physics、2023年10月30日から11月3日
発表題目:Core density profile control by energetic ion anisotropy in LHD
発表者:西浦正樹
【研究サポート】
本研究は、科研費「基盤研究(B)(課題番号:23H01160、23K25857令和5~令和7年度)」、「国際共同強化(B)(課題番号:KA19KK0073、令和元年~令和5年度)」の支援により実施されました。
【本件のお問い合わせ先】
- 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
管理部 総務企画課 対外協力係