核融合科学研究所

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2025.11.6

世界初、ハイパースペクトルカメラで青いオーロラの高度分布を精密観測 - 高高度200kmにおける明るいオーロラの発生メカニズム解明へ -

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所

国立大学法人 京都大学

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学

研究成果(プレスリリース)

概要

自然科学研究機構核融合科学研究所は2023年5月にスウェーデン・キルナ「オーロラ観測用ハイパースペクトルカメラ※1(HySCAI: Hyperspectral Camera for Auroral Imaging)」を設置し、同年9月より本格的な観測を開始しました。このたび、核融合科学研究所の居田克巳特任教授、吉沼幹朗助教、京都大学生存圏研究所の海老原祐輔教授、名古屋大学宇宙地球環境研究所の塩川和夫教授の研究グループは、HySCAIを用いて天文薄明※2時に青い光を放つ窒素イオン(N2+)オーロラの高度分布を観測することに成功しました。本研究では、太陽光がオーロラを照らす高度が薄明の進行とともに変化する現象を利用するという、これまでにない全く新しい手法を開発し、これにより、窒素イオンの発光強度の高度分布の精密観測に成功しました。本成果は、発光のピークが高度約200kmに位置し、その強度が極めて強いことを見出しました。

この研究成果をまとめた論文がGeophysical Research Lettersに11月5日に掲載されます。

研究背景

オーロラとその光:オーロラは、宇宙からやってくる電子が地球の空気(酸素や窒素)にぶつかって光る自然の現象です。赤や緑、紫など、さまざまな色は「どんな原子や分子が光ったか」「どのようにエネルギーが変化したか」によって決まります。この光の中には、「どんな粒子が降ってきたのか」「大気がどんな状態か」といった情報が隠されています。

どれくらいの高さで光っているのか?:オーロラは地上から見ると空に広がって見えますが、実際にはどの高さで光っているのかを知るのは難しい問題でした。従来は、何台ものカメラを離れた場所に設置して立体的に撮影(ステレオ撮影)し、高さを推定していました。1台のカメラだけでは高さを知ることはできないと考えられていたのです。

新しいアイデア:研究者たちは、実験室でのプラズマ研究からヒントを得ました。そこでは「粒子ビーム」を打ち込み、そのビームで励起された光と観測する視線の交わりから奥行きを知る手法が昔から使われていました。今回オーロラに応用されたのは、ビームの代わりに太陽の光で励起されたオーロラの発光(共鳴散乱光)です。この光とカメラの視線の交点を利用することで、1台のカメラでも高さを推定できるようになりました。

ハイパースペクトルカメラの強み:普通のカメラやフィルター付きの観測では、夜明けや夕暮れ(天文薄明)の時間になると、太陽光の反射と共鳴散乱光が混ざってしまい、区別が難しくなります。しかし、ハイパースペクトルカメラは「光の色(波長)の情報を非常に細かく分けて観測」できるため、両者を正確に分けて捉えることができました。

研究成果

2023年10月21日早朝にスウェーデン・キルナで観測された青いオーロラについて、私たちの研究チームは核融合科学研究所が設置したハイパースペクトルカメラを用いて解析を行い、オーロラを発光させている窒素イオン(N2+)の高度分布を精密に推定することに成功しました。

夜間のオーロラ発光では、窒素イオンの発光は高度約130kmで最も強いことがよく知られています。しかし今回の夜明け(天文薄明時)観測では、発光強度の増加率が高度200kmで最大となることが明らかになり、少なくとも薄明時には高高度200kmの発光が非常に強く、窒素イオンが高い高度にまで存在している可能性が直接示されました。

図 朝方で太陽が上がるにつれて、オーロラの太陽に照らされている部分が高高度から始まり、時間と共に、下に広がってくる様子
図 朝方で太陽が上がるにつれて、オーロラの太陽に照らされている部分が高高度から始まり、時間と共に、下に広がってくる様子

この成果は、過去に報告されてきた「高高度の窒素イオンの密度が従来考えられていたよりも高い可能性」という観測結果を裏付けるとともに、オーロラ発生の物理過程に関する理論モデルの検証を可能にします。ハイパースペクトルカメラによる高精度観測は、オーロラ研究に新たな道を開くものです。

研究成果の意義と今後の展開

ハイパースペクトルカメラによるオーロラ観測は、従来定量的な観測が困難であった天文薄明の共鳴散乱光の時間変化を正確に捉えることができました。干渉フィルタを用いた従来のカメラに比べ、観測の領域を広げるとともに、新しい高度推定の手法をもたらしました。 ハイパースペクトルカメラでは、従来定量的な観測が困難であった天文薄明の共鳴散乱光の時間・高度変化を正確に捉えることができ、長年にわたって未解決の電離圏イオンの生成・流出問題の解決につながると考えられます。

今後、国内外の大学・研究所と協力してこの学際研究を進展させ、世界のオーロラ研究の発展に寄与することが期待されます。

【用語解説】

※1 ハイパースペクトルカメラ
光を細かく分光できるカメラ。通常のカメラは赤、緑、青の3色の3分割であるのに対し、ハイパースペクトルカメラでは、光を数百の細かさで分割できる。市販のハイパースペクトルカメラは日中の撮影を対象としており、暗いオーロラを対象とした観測はできない。オーロラの観測のためには、高感度のカメラが必要。

※2 天文薄明
日の出前や日の入りの後に太陽が地平線下にある状態でも、空の明るさが完全に暗くならず、地球の大気で太陽光が散乱されることで薄明るい時間帯を指します。具体的には、太陽の中心の伏角(地平線と太陽の中心とのなす角度)が12度から18度の間の時間帯

【論文情報】

雑誌名:Geophysical Research Letters 52 (2025) e2025GL118375(ジオフィジカル・リサーチ・レターズ)

題名:Estimate of N2+ altitude profile using blue auroral resonant-scattering 427.8nm emission observed with HySCAI during astronomical twilight
天文薄明中にHySCAIで観測した青色オーロラ共鳴散乱427.8nm放射を用いたN2+高度分布の推定

著者名:K.Ida, M. Yoshinuma, Y. Ebihara, K.Shiokawa 居田克巳1、吉沼幹朗1、海老原祐輔2、塩川和夫3

1 自然科学研究機構 核融合科学研究所 位相空間乱流ユニット
2 京都大学 生存圏研究所 生存圏開発創成研究系 生存科学計算機実験分野
3 名古屋大学 宇宙地球環境研究所

DOI: 10.1029/2025GL118375

【研究サポート】

核融合プラズマの位相空間揺らぎがもたらす新しい輸送パラダイムの探求」(課題番号JP21H04973)、「国際地上観測網と人工衛星観測・モデリングに基づくジオスペース変動の国際共同研究」(課題番号JP22K21345) のサポートで研究がおこなわれました。

【ご参考】

本件のお問い合わせ先
  • 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
    管理部 総務企画課 対外協力係
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