2026.2.27
世界初 水素の液化から高温超伝導線材の通電までを統合した試験に成功
研究成果(プレスリリース)概要
脱炭素で持続可能な発電技術の実用化を目指し、自然科学研究機構核融合科学研究所では液化水素を冷媒に用いた磁場閉じ込め型核融合炉向けの高温超伝導コイル*1(以下、核融合炉用高温超伝導コイルという。)の研究を行っています。関西学院大学では液化水素の冷熱を利用した水素発電向け高温超伝導発電機*2の研究を行っています。これまで、液化水素浸漬状態での高温超伝導線材への通電実績は世界的に少なく、高温超伝導線材の通電特性は十分に解明されていません。今回、核融合科学研究所の平野直樹教授、仲村直子特任准教授、関西学院大学の大屋正義准教授の共同研究グループは、液化水素中で高温超伝導線材に1,000 A以上の電流を通電させることができる装置を核融合科学研究所内に立ち上げ、水素の液化から高温超伝導線材の通電試験までを統合した試験に世界で初めて成功しました。今後、本装置を用いて実験を重ねることで、液化水素中での高温超伝導線材の通電特性の解明が加速し、核融合炉用高温超伝導コイルおよび水素発電向け高温超伝導発電機の研究が大きく進展すると期待されます。
研究背景
核融合科学研究所では将来の核融合炉を見据えた先行研究として、液化水素を冷媒に用いた核融合炉用高温超伝導コイルの研究に取り組んでいます。これにより、冷媒の安定入手や冷却設備の消費電力削減につながることが期待できます。また、核融合炉の高温熱を利用してCO2を排出せずに水素を製造し、核融合炉用高温超伝導コイルの冷媒に使用するだけでなく、製造した水素をサプライチェーンに供給することで、水素社会の実現やカーボンニュートラル達成に貢献すると考えています。
関西学院大学では発電時にCO2を排出しない水素発電向け高温超伝導発電機の研究を進めています。発電機の界磁コイルを超伝導化することによって発電機の効率が向上します。さらに、高温超伝導発電機の冷却に液化水素の冷熱を利用することで、極低温状態を維持するための冷凍機が不要になり、冷却コストを削減することができます。これらのメリットにより、水素を海上輸送する際に必要となる液化コストを発電時に回収することが可能となり、水素発電の発電コストを下げることができます。
しかしながら、可燃性である水素の取り扱いは難しいため、液化水素浸漬状態での高温超伝線材への通電実績は世界的に少なく、液化水素中での高温超伝導線材の通電特性については十分に解明されていません。液化水素冷却による高温超伝導機器を実用化するためには、その通電特性の解明に寄与する基礎研究を加速させる必要があります。
研究成果
核融合科学研究所では、高温超伝導線材の通電特性の解明研究を行うために液化水素中で高温超伝導線材に電流を流し、その通電状態を確認する実験装置を立ち上げました。今回、研究グループは、本装置を用いて装置内で独自に液化した水素に高温超伝導線材を浸漬させて行う通電試験に世界で初めて成功しました。
本試験では、小型冷凍機を用いて所定量の水素を液化し、高温超伝導線材を設置したサンプル室に液化水素を溜めました。液化水素の貯蔵状態や通電時の高温超伝導線材の冷却状態、液化水素の挙動は写真1のようにサンプル室に設けた光学窓から観察することができます。これまで行われていた実験では、液化水素を装置外部から供給していたため、実験で使用した液化水素は排気されていました。加えて、液化水素の入手タイミングに合わせて実験を行う必要がありました。本実験装置は自前で水素を液化でき、使用した液化水素をガス状態で装置内に貯蔵し、再液化することで繰り返し水素を利用できるため、計画に基づいた実験が可能となり、実験効率の向上につながりました。
高温超伝導線材への電流の通電は、電源容量を抑えるため誘導通電方式*3を採用しました。本方式により、狭い空間で高温超伝導線材に比較的大きな電流を流すことが可能となり、さらに使用する液化水素を少量に抑えることができます。誘導通電方式では、外部電源から一次コイルに電流を流し、磁気的に繋がっている二次コイル側の高温超伝導線材サンプルに電流を誘導し、ロゴスキーコイル*4で電流を測定しました。サンプル線材と一次コイルには同じ仕様の線幅4 mmのREBCO系高温超伝導線材*5を使用しました。今回の実験では、REBCO系高温超伝導線材の温度20 K(液化水素温度)における推定臨界電流値1,100 A以上の通電状態を観測しました。これにより、臨界電流*6を1,000 A程度とする高温超伝導線材に、臨界電流またはそれ以上の電流を流した時の液化水素中における高温超伝導線材の冷却状態を確認することができました。


研究成果の意義と今後の展開
このたびの研究成果により、通電特性評価の基盤ができたため、研究グループは液化水素中における高温超伝導線材の通電特性の解明に向けて実験を積み重ねていく予定です。具体的には、液化水素の温度-圧力状態を変化させて通電時の高温超伝導線材の冷却状態や液化水素の挙動を観察して基礎的なデータを取得していきます。さらに、得られた結果を核融合炉用高温超伝導コイルおよび高温超伝導発電機の研究開発に使用します。取り組みを発展させることで、脱炭素で持続可能な発電技術の実用化を目指します。
【用語解説】
※1 磁場閉じ込め型核融合炉向けの高温超伝導コイル
核融合炉のプラズマを閉じ込めるための磁場を発生させる、直径が1mを超える大型で通電電流も数万Aとなる大容量なコイルで、高温超伝導線材を用いたもの。
※2 高温超伝導発電機
高温超伝導線材を用いて界磁コイルを巻いた発電機で、水素を燃料とする水素ガスタービンと連結して発電するシステムに用いられるもの。
※3 誘導通電方式
試験対象となる線材や導体に対して電源から直接電流を流す代わりに、短絡処理した線材や導体のループに外部磁場の変化(電磁誘導)を利用して大きな電流を誘導する通電手法。
※4 ロゴスキーコイル
電流を計測するセンサーの一種。測定対象の導体を空芯コイルで囲み、導体に交流電流を流した時の磁界の変化を検出して導体に流れる電流を測定する。
※5 REBCO系高温超伝導線材
希土類元素(Rare Earth)を含む酸化物系の高温超伝導線材のこと。
※6 臨界電流
超伝導状態から常伝導状態に変化する電流値のこと。
【研究サポート】
本研究は、核融合科学研究所と関西学院大学との一般共同研究により行われたものです。また、ミッション実現戦略事業「核融合先端技術の汎用化によるSDGsへの貢献」および科学研究費(24K01987)の助成を受けて実施されました。
本件のお問い合わせ先
- 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
管理部 総務企画課 対外協力係

