2026.4.24
地球型ダイポール磁場の南北2つの磁極の安定解を発見─ 地球磁場反転の物理機構解明への大きな手がかり ─
研究成果(プレスリリース)概要
よく知られているように、地球は「大きな磁石」となっており(ダイポール磁場※1が存在しており)、その磁力は、地球内部の外核にある液体状の鉄が熱対流することにより起きるダイナモ過程※2によって生み出されていると考えられています。そして、この地球の磁場は、数十万~千万年程度の不規則な間隔で、その極性が反転していることが、これまでの地質学的な研究で明らかになっています。しかし、その物理機構は未だ解明されていません。特に、磁場の極性(北向き・南向き)がどのように決定されるのかについても、十分には理解されていない状況にあります。
自然科学研究機構核融合科学研究所/総合研究大学院大学の長谷川裕記助教、大谷寛明准教授、佐藤哲也名誉教授の研究チームは、この極性決定機構に着目し、地球の外核と同じ球殻状のプラズマで生じる対流ダイナモに対して、3次元電磁流体シミュレーション※3を用いた詳細な研究を行いました。その結果、地球型ダイナモでは、磁場の極性(北向き・南向き)は対流の向きではなく、初期に存在するごく微小な磁気擾乱によってランダムに決定されることを初めて明らかにしました。しかも、与える磁気擾乱の微妙な違いによって、その極性が北向きの状態か南向きの状態のいずれかの状態に落ち着き、その状態が続くことが明らかになりました(磁極の双安定性)。したがって、地球磁場についても、その極性は40億年前の磁場発生時に存在していた微小な揺らぎによって偶然に選択された可能性があります。そして、その地球磁場の極性は、そのまま維持されるはずですが、現実には度々反転が起きています。このことから、地球磁場の反転は、今回の計算モデルでは考慮していない物理効果によって引き起こされている可能性が示唆されます。
この研究成果をまとめた論文がScientific Reports に2026年3月3日に掲載されました。
研究背景
うっそうとした森を歩くとき、進むべき方向を知るために欠かせないコンパスは、地球に磁場が存在することを利用しています。方位磁針が北を指し示すことは2世紀頃までには知られており、17世紀には「地球は一つの巨大な磁石である」と考えられるようになりました。地球磁場の起源は、アインシュタインも重大な未解決問題であると考えていましたが、この地球のダイポール磁場(図1左上)は地球内部の外核にある液体状の鉄の熱対流運動にともなう電磁流体相互作用(ダイナモ過程)により発生していることを、核融合科学研究所のシミュレーショングループ(注)とカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のグループが、ほぼ同時期に、電磁流体シミュレーションによって証明しました。一方、これまでの地質学的な研究(古地磁気学)により、地球磁場は、数十万~千万年に一度程度の不規則な頻度で、その方向(極性)が逆転(反転)すること (図1左下)、さらに、その極性の反転には千年のオーダーの時間を要することが示されています。このようなダイポール磁場の生成や周期的反転に関しては、電磁流体シミュレーションの研究は数多くなされています。そして、地球型磁場の極性が不規則(非周期的)に何度も反転する現象については、核融合科学研究所のグループが、四半世紀前にその再現に成功しています[Li, Sato & Kageyama, Science (2002)](図1右)。ただ、残念なことに、磁極がどのような原因で不規則に反転を繰り返すのか、そのトリガー機構は全く不明で、前人未到の難題となっています。そこで、本研究では、反転現象の解明に近づくため、磁場極性がどのように決定されるのかという点に着目し、地球のような複雑さを取り除いた、単純な対流が存在する状況について、電磁流体シミュレーションを行いました。

研究成果
核融合科学研究所/総合研究大学院大学の長谷川裕記助教、大谷寛明准教授、佐藤哲也名誉教授の研究チームは、地球の外核と同じ球殻状のプラズマで生じる対流ダイナモにおける磁場極性の決定機構を調べるため、インヤン格子※4を適用した3次元電磁流体シミュレーションコードを用いた詳細な研究を、核融合科学研究所のスーパーコンピュータ“プラズマシミュレータ「雷神」・「双星」”※5を使用して行いました。シミュレーションでは、図2に示したような、ほぼ定常なねじれた対流を与え、初期の磁場として50種類のランダムかつ微小な磁気擾乱を用いました。その結果、すべての計算で、ダイポール磁場が支配的な状態に到達し、その極性は、北向きと南向きの2つの状態がほぼ同確率で出現することが明らかになりました。対流の方向を反転させてもこの確率は変化せず、極性は背景の対流ではなく初期の微小な磁気擾乱によって決定されることが示されました。また、磁場の成長過程が、磁気拡散時間※6のタイムスケールで周期的に極性反転が繰り返される初期の時間帯と、それ以降の極性が定まり磁場が安定な状態に至る時間帯の2つに分けられることを見出しました。さらに、安定な状態に達したあと、再度、微小な磁気擾乱を加える計算を行ったところ、形成されたダイポール磁場に顕著な変化は見られませんでした。このことは、このダイポール磁場の安定状態は非常に強固で、小さな磁気擾乱では極性の反転は起きないことを示しています(図3)。
本研究は、球殻ダイナモにおいてダイポール磁場が2つの安定な平衡状態として存在することを示すとともに、地球磁場の極性が初期の微小揺らぎによって偶然に選択され、その後は強固に維持される可能性があることを示唆するものです。このことから、磁場の反転を引き起こすためには、通常の電磁流体理論の範疇には入っていないトリガー(例えば、ミクロなプラズマ不安定性などによる異常な磁気拡散率※6や粘性)によってこの安定状態が破られる必要があると、研究チームでは考えています。
研究成果の意義と今後の展開
これまでのシミュレーション研究では、磁場の反転は主に磁気拡散時間のタイムスケールで起こる周期的な現象として理解されてきました。一方で、実際の地球磁場の反転は、それよりもはるかに長い時間スケールで不規則に起こることが知られており、その物理機構は未解明のままです。核融合科学研究所のグループは、2000年代初頭に、このような長時間スケールの不規則な磁場反転の再現に成功しています(図1右)。本研究で明らかになった磁場の双安定性は、このような反転現象と一見矛盾するように見えますが、研究チームでは、この関係にこそ反転のトリガー機構を理解するための重要な手がかりがあると考えています。
今後は、この安定状態を破る要因を明らかにすることで、地球磁場反転の物理機構の解明につながることが期待されます。
電磁流体シミュレーションには、避けることができない差分(数値)誤差が存在します。流体のシミュレーションでは、連続的な空間を多くの格子点で分割して表現します(離散化と呼びます)が、この差分化(離散化)は局所的に数値的な磁場の散逸をともないます。研究チームでは、過去の不規則な反転現象のシミュレーション結果は、この差分誤差がもたらした結果ではないかと考えています。流体のシミュレーションにおいて、エネルギーなどが集中する場所(よどみ点)ではこの差分誤差が増大します。一方、現実のプラズマは連続体ではなく粒子から構成されており、“よどみ点”のような領域では、粒子集団が平衡状態からずれることにより、プラズマ不安定性が発生する可能性があります。研究チームでは、このようなミクロな効果が磁場反転のトリガーとなる可能性があると考えています。今後は、まず、高精度な電磁流体シミュレーションにより、従来モデルの範囲でどこまで再現できるかを精査するとともに、その限界を明らかにした上で、ミクロな物理過程を取り入れた新たなモデルの構築へと発展させていく予定です。
本研究は、日本シミュレーション学会と核融合科学研究所によって進められている「遠非平衡科学の確立に向けたシミュレーション研究プロジェクト~マクロ・ミクロ連結階層シミュレーションによる『未来を見る望遠鏡』構想~」の一部として実施しています。本プロジェクトは、災害をもたらす地震などの自然現象の予測や、それらの現象による被害の最小化なども目標のひとつとしています。一旦、地球磁場の反転が起き始めると、完全に反転が終了するまでの千年程度の間、地球磁場は非常に弱くなり、宇宙から飛来する高エネルギー宇宙線を防ぐことができなくなり、生態系や人類に多大な影響をおよぼす可能性がありますが、地球磁場反転機構の解明は、そのような悪影響を予測、最小化するためにも大変重要となります。


(注)中日新聞(1996年9月8日朝刊)の第1面に掲載。
【用語解説】
※1 ダイポール磁場
棒磁石やコイルなどが作るN極、S極を対に持つ最も基本的な磁場形状のこと。双極子磁場とも言います。地球の磁場は、ダイポール磁場成分が支配的ですが、単純なダイポール磁場ではなく、クアドラポール(四重極)、オクタポール(八重極)など多くの成分が重ね合わさったものとなっています。
※2 ダイナモ過程
液体金属やプラズマなどの電気を通す流体が運動することにより、磁場を生成、維持する過程のこと。
※3 電磁流体シミュレーション
プラズマなどの電気を通す流体の運動と電磁場との相互作用を記述する方程式(電磁流体(MHD)方程式)に基づいて、コンピュータ上でその挙動を再現するシミュレーション。
※4 インヤン格子
一般的な極座標系の計算格子では、極の近くの格子間隔がとても狭くなり、計算の取り扱いが非常に難しくなりますが、それを防ぐために、神戸大学の陰山教授らによって開発されたのがインヤン格子です。極のまわりを除いた極座標系格子(イン:陰)に、90度傾けたもう一つの極座標系格子(ヤン:陽)を、野球ボールのように重ねたかたちとなっています。
※5 プラズマシミュレータ「雷神」・「双星」
「雷神」は、2020年7月から2025年6月まで運用されたベクトル型のスーパーコンピュータ(ベクトルエンジンと呼ばれる高速演算装置4,320台で構成、理論演算性能は10.5ペタフロップス)で、本研究のような流体計算では特に実力を発揮します。スカラプロセッサとの異種混合した使用(ヘテロ計算)も可能です。
「双星」は、核融合科学研究所と量子科学技術研究開発機構(QST)で共同調達し、2025年7月より稼働を開始した最新鋭のスーパーコンピュータです。ハードウェアの異なる3つのサブシステム(A, B, C)で構成され、総理論演算性能は40.4ペタフロップスを誇ります。
(詳細は、https://nsrp.nifs.ac.jp/ をご覧ください。)
※6 磁気拡散時間、磁気拡散率
電気を通す流体において、有限の電気抵抗があると、磁場は流体とともに運動せずに拡散、消滅していきます。その拡散に要する時間が磁気拡散時間、また、拡散の速さを示すものが磁気拡散率です。電気抵抗がなければ、磁場は流体とともに運動し、拡散しません(磁場の凍り付きと呼ばれています)。
【論文情報】
雑誌名:Scientific Reports
題名:Bi-stable dipole polarity in spherical shell dynamo with quadruple convection(四重対流の球殻ダイナモにおける2つの安定なダイポール極性)
著者名:Hiroki Hasegawa, Hiroaki Ohtani, Tetsuya Sato
DOI: 10.1038/s41598-026-42280-x
【研究サポート】
本研究は、大学共同利用機関法人自然科学研究機構「ネットワーク型研究加速事業」(01422301)の助成を受けたものです。また、本研究の数値計算は、核融合科学研究所の一般共同研究(プラズマシミュレータ共同研究)(NIFS24KISM005)の支援を受けて、プラズマシミュレータ「雷神」(NEC SX-Aurora TSUBASA)、並びに、同「双星」(NEC LXシリーズ)において行いました。
本件のお問い合わせ先
- 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
管理部 総務企画課 対外協力係

