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重水素を用いてプラズマ断熱層の高性能化に成功 - 金イオンの高速ビームで流れの影響を明らかに -
英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に論文掲載

2022.4.27 研究成果(プレスリリース)

概要

核融合科学研究所(岐阜県土岐市)の大型ヘリカル装置※1(LHD)では、磁場で高温のプラズマを閉じ込める実験を行っています。そのプラズマ中には断熱層が形成されてプラズマの温度が上昇することが、しばしば観測されています。同研究所の小林達哉助教、清水昭博助教らの研究グループは、LHDの重水素プラズマと軽水素プラズマの比較実験において、重水素プラズマの方がより高性能な断熱層が形成されることを発見しました。また、金イオンの高速ビームをプラズマに入射する手法を用いて、プラズマ内部の流れを計測しました。その結果、重水素プラズマには強い流れが発生しており、この強い流れが原因で高性能な断熱層が形成されていることを明らかにしました。本研究成果は、核融合発電の実現に必須である、高温プラズマの生成に大きく貢献するものです。

この研究成果をまとめた論文が英国ネイチャー・パブリッシング・グループの科学雑誌「サイエンティフィック・リポーツ」オンライン版に掲載されました。

研究の背景

核融合発電の実現を目指し、磁場で高温のプラズマを閉じ込める実験が世界中で行われています。それらの実験装置では、軽水素ガスで生成したプラズマよりも、質量の大きい重水素ガスで生成したプラズマの方が、温度が上がりやすいことが観測されています。これは、重水素と質量のより大きい三重水素を用いる将来の核融合発電では、より高温のプラズマを生成できることを示唆しています。ところが、なぜこのようなプラズマ質量の違いによる影響が現れるのか、その理由は未だ分かっていません。

核融合発電は、プラズマの中心部を1億度以上の高温にする必要があります。世界各国の実験装置では、プラズマの中心部を取り囲むような「断熱層」がプラズマ中に自発的に形成されることが、しばしば観測されています。断熱層ができるとプラズマの中心部から外へと伝わる熱が少なくなるため、中心部の温度が上昇します。これは核融合発電にとって非常に好ましい状態です。これまでの研究によって、断熱層は、プラズマ中の強い流れによって形成されることが知られていましたが、プラズマ質量の違いが断熱層の形成や性能に、どのような影響を及ぼすのかは明らかにされていませんでした。

研究成果

核融合科学研究所の小林達哉助教、清水昭博助教らの研究グループは、研究所の大型ヘリカル装置(LHD)の重水素プラズマと軽水素プラズマの比較実験において、重水素プラズマの方がより高性能な断熱層ができることを発見しました。そして、金イオンの高速ビームを用いてプラズマ内部を計測した結果、重水素プラズマの方がより強いプラズマの流れが生じていることが、断熱層の高性能化の原因であることを明らかにしました(図1、図2)。

小林助教らは、加熱パワーが共通という条件で、プラズマ密度を様々に変えて実験を行いました。プラズマ密度が高くなると断熱層が形成されにくくなりますが、重水素プラズマでは軽水素プラズマに比べ、1.5倍程度高い密度でも断熱層が形成されることを発見しました。これは、重水素プラズマの方が断熱層が形成されやすいことを意味しています。また、重水素プラズマと軽水素プラズマで密度が等しい場合は、重水素プラズマの方が断熱層の性能が高いことも明らかになりました。

このような断熱層の違いがなぜ現れるのか、その理由を調べるため、重イオンビームプローブ ※2 と呼ばれる先進的プラズマ計測機器を用いて、プラズマ内部の流れを計測しました。この計測機器は、金イオンを時速 800 万キロメートルまで加速してプラズマ中に入射し、プラズマの内部情報を得るものです。これまでプラズマ中心付近の計測は、非常に困難でしたが、今回、実験条件と計測条件を調整することで、プラズマ中心付近の流れを高精度で計測することが可能になりました。その結果、重水素プラズマ中では、軽水素プラズマに比べてより強い流れが生じていることが分かりました。この強い流れが生じたことで、重水素プラズマにおいて、より高性能な断熱層が形成されたと考えられます。

図1:重イオンビームプローブを用いたプラズマ計測。金イオンの高速ビームをプラズマに入射し、その内部で生じている流れを計測する。
図2:(左)軽水素プラズマは流れが弱く断熱層が形成されていない。(右)重水素プラズマは流れが強く高性能な断熱層が形成されている。

研究成果の意義と今後の展開

LHDにおける重水素プラズマと軽水素プラズマの比較実験、並びに金イオンの高速ビームを用いた計測によって、プラズマ中に形成される断熱層の理解が大きく進みました。プラズマの強い流れと高性能な断熱層の形成は、核融合発電において非常に重要です。今後は、なぜ重水素プラズマで強い流れが形成されやすいのかを、理論・シミュレーション研究とも協力して解明していきます。

【用語解説】

※1  大型ヘリカル装置(LHD)
 核融合科学研究所の実験装置で、超伝導コイルを用いた世界最大級のヘリカル装置。我が国独自のアイデアに基づくヘリオトロン配位と呼ばれる磁場配位を採用し、二重らせん状のコイルを用いて、プラズマの閉じ込めに必要である、ねじれた磁場構造を形成する。1998年から実験を開始し、2017年には核融合炉で必要とされるイオン温度1億2千万度のプラズマの生成に成功した。LHDはLarge Helical Device の略。

※2  重イオンビームプローブ
 核融合プラズマは1億度近い超高温状態になるため、プラズマの状態を計測することが一般的に困難である。断熱層が形成されるプラズマ中心付近の流れの計測は特に難しく、これまであまり行われてこなかった。重イオンビームプローブはプラズマ外部から金イオンを超高速に加速してプラズマに入射する。プラズマ中を通過して出てきたビームのエネルギー変化を計測することで、プラズマ中の電位のデータを得ることができる。磁場で閉じ込めたプラズマでは、電位の変化はプラズマ粒子の集団運動を引き起こすため、重イオンビームプローブによって得られた電位のデータから、プラズマの流れを測ることができる。

【論文情報】

雑誌名:Scientific Reports

題名:Hydrogen isotope effect on self-organized electron internal transport barrier criticality and role of radial electric field in toroidal plasmas

(トロイダルプラズマにおける自己組織電子内部輸送障壁に見られる水素同位体効果と、径電場の果たす役割)

著者名:小林達哉1,2、清水昭博1,2、西浦正樹1、井戸毅3、佐竹真介1,2、徳澤季彦1,2、辻村亨1、永岡賢一1、居田克巳1,2

1 自然科学研究機構 核融合科学研究所、2 総合研究大学院大学、3 九州大学 応用力学研究所

出版日:2022年4月1日(オンライン)

DOI: doi.org/10.1038/s41598-022-09526-w

【研究サポート】

本研究は、日本学術振興会研究拠点形成事業(磁場の多様性が拓く超高温プラズマダイナミクスと構造形成の国際研究拠点形成、PLADyS)並びに、文部科学省の科学研究費補助金事業(17K14898、18K03589、21K13902)による支援を受けました。

【本件のお問い合わせ先】
  • 研究内容について
    大学共同利用機関法人
    自然科学研究機構 核融合科学研究所 ヘリカル研究部
    • 高温プラズマ物理研究系
      助教 小林 達哉(こばやし たつや)
      電話: 0572-58-2231
    • 高温プラズマ物理研究系
      助教 清水 昭博(しみず あきひろ)
      電話: 0572-58-2454