2025.1.17
負イオンビームの高周波振動現象の観測- ITERや負イオンビーム応用の開拓に貢献 -
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学
国立大学法人 鳴門教育大学
国立大学法人 東北大学
研究成果(プレスリリース)概要
磁場閉じ込め核融合研究の国際協力プロジェクトであるITER※1では、マイナス(負)イオンを用いたビーム入射加熱装置の開発が行われています。ところが、負イオンビーム※2はビームが広がってしまいパワーを損失するという問題があり、その原因究明と解決策の開発が急務の課題となっています。核融合科学研究所の永岡賢一教授(兼、名古屋大学大学院理学研究科客員教授)、中野治久准教授(兼、名古屋大学大学院工学研究科客員准教授)、名古屋大学大学院理学研究科の濱嶋大河さん(当時、現、株式会社DENSO)、長岡技術科学大学電気電子情報工学専攻の中本崚也さん(当時、現、株式会社 IHI)、鳴門教育大学大学院学校教育研究科の宮本賢治教授、東北大学大学院工学研究科の高橋和貴准教授、ドイツマックスプランク研究所のUrsel Fantz博士らのグループは、負イオンビームの挙動を詳細に調べる実験を行い、負イオンビームの高周波振動現象を観測しました。そして、この振動現象が、ビームを広げてしまう原因となることを明らかにしました。さらに、この振動現象を抑える方法の発見にも成功しました。この成果は、ITERプロジェクトの重要課題解決に大きな貢献を果たす可能性があるだけでなく、負イオンビームの幅広い応用を可能とする波及効果が期待されます(特許も出願しています)。
この研究成果をまとめた論文がScientific Reports誌に1月16日に掲載されました。
研究背景
大型加速器実験、大型磁場閉じ込め核融合プラズマ加熱、医療用小型加速器等には、負イオンビームが用いられています。磁場閉じ込め核融合プラズマ実験で、負イオンビーム入射によるプラズマ加熱/電流駆動の実現に成功しているのは、世界でも核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)と量子科学技術研究開発機構那珂フュージョン科学技術研究所で稼働していたJT60-U装置だけであり、日本は世界最先端の負イオンビーム技術を有していると言えます。現在、フランスに建設中のITERプロジェクトでは、負イオンビーム入射装置の導入が決定され、ドイツとイタリアで負イオンビーム入射装置の開発研究が進められています。近年、ITER用の負イオンビームは、設計値の2倍程度ビームが広がり、ポートの外にビームパワーが損失することが懸念され、その原因究明と解決策の開発が急務の課題となっています。
研究成果
核融合科学研究所の永岡賢一教授(兼、名古屋大学大学院理学研究科客員教授)、中野治久准教授(兼、名古屋大学大学院工学研究科客員准教授)、名古屋大学大学院理学研究科の濱嶋大河さん(当時、現、株式会社DENSO)、長岡技術科学大学電気電子情報工学専攻の中本崚也さん(当時、現、株式会社 IHI)、鳴門教育大学の宮本賢治教授、東北大学大学院工学研究科の高橋和貴准教授、ドイツマックスプランク研究所のUrsel Fantz教授らのグループは、核融合科学研究所の開発用負イオン源※3(NIFS-RNIS)を用いて、負イオンビームの挙動を詳細に調べる実験を行いました。ITER用の高周波放電※4負イオン源の環境を模擬するために、静かな放電を実現できる「直流」放電型負イオン源に弱い高周波摂動を加えて、負イオンビームの計測を行い、負イオンビームの高周波振動現象を観測しました。このビームの振動現象は、ビームを集束させる静電レンズ※5が高周波の影響を受けて振動するために起こる現象と理解されますが、プラス(正)イオンビームでは観測されないものでした。この振動現象は、負イオンビームに特有の現象であり、ビームを広げる効果があることから、ITER用負イオンビームが広がる原因となっている可能性があります。そこで、さらに詳細に負イオンビームの振動現象の特性を調べました結果、高周波の周波数を下げること、及び、パービアンス※6と呼ばれるパラメータの最適条件を満たす運転領域でビームを生成することにより、この負イオンビームの振動現象を抑えることができることを示しました。


研究成果の意義と今後の展開
ITER用の負イオンビームの広がりの原因の可能性の一つを明らかにし、その解決策を示すことができました。今後は、ITER用の負イオン源を使った検証実験を行う必要があります。現在、核融合科学研究所とITERとマックスプランク研究所の共同研究が実施されており、今回の成果をさらに発展していきたいと考えています。
また、負イオンビームは、正イオンビームより作りにくいことから、その実用化は限られており、産業応用への発展が正イオンビームに比べて大きく遅れています。今回の研究成果は、負イオンビームの広がりを自在に制御する技術にも発展させることができるため、負イオン制御技術の高度化が可能であることを示しました。この技術は、特許出願しています。負イオンビームの幅広い応用研究にも展開したいと考えています。
【用語解説】
※1 ITER
フランスに建設中の磁場閉じ込め核融合装置を用いた核融合燃焼プラズマの実験プロジェクト。核融合反応を利用して自己加熱するプラズマを実現する計画。
※2 負イオンビーム
負の電荷をもった粒子の集団が一方向に高速に飛行するビーム。
※3 イオン源
荷電粒子の集合体であるプラズマからイオンを引き出し、加速しイオンビームを生成する装置。
※4 高周波放電
高周波を印加してプラズマを生成する放電方式。
※5 静電レンズ
荷電粒子ビームの軌道を修正する電位構造。光を集束させるためにはガラスレンズなどが用いられるが、イオンビームは電位構造でレンズを作ることができる。
※6 パービアンス
ビームの電流とビームのエネルギーから決まる指標の一つ。ビームの集束性を決める指標としてよく用いられる。
【論文情報】
雑誌名:Scientific Reports
題名:Response of negative ion beamlet width and axis deflection to RF field in beam extraction region
著者名:K. Nagaoka, H. Nakano, T. Hamajima, R. Nakamoto, K. Tsumori, M. Osakabe, M. Kisaki, K. Miyamoto, K. Takahashi, U. Fantz
永岡賢一1,2、中野治久1,2、濱嶋大河2,*1、中本崚也3,*2、津守克嘉1,4,*3、長壁正樹1,4、木崎雅志1,*3、宮本賢治5、高橋和貴6、Ursel Fantz7
1 核融合科学研究所
2 名古屋大学
3 長岡技術科学大学
4 総合研究大学院大学
5 鳴門教育大学
6 東北大学
7 マックスプランク研究所(ドイツ)
*1 現所属 株式会社デンソー
*2 現所属 株式会社IHI
*3 現所属 量子科学技術研究開発機構那珂フュージョン科学技術研究所
DOI: 10.1038/s41598-024-81334-w
【特許情報】
国際公開番号:WO2024/257787
発明の名称:イオンビーム照射装置
【研究サポート】
本研究は、文部科学省の科学研究費助成事業(17H03002, 18KK0080)、及び核融合科学研究所の一般共同研究(NIFS23KIIR023)による支援を受けました。
本件のお問い合わせ先
- 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
管理部 総務企画課 対外協力係