核融合科学研究所

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2024.6.10

核融合プラズマの新たな乱流遷移を発見核融合炉の革新的な運転シナリオの確立へ

研究成果(プレスリリース)

概要

フュージョンエネルギーの実現には、磁場のカゴで高温のプラズマ※1を保持し、核融合反応を起こす必要があります。ところが、プラズマ中に存在する不規則で微視的な揺らぎ(乱流※2)により、プラズマが磁場のカゴから流れ出てしまいます。そのため、乱流の物理特性を理解し、それを抑制することは重要な課題です。九州大学応用力学研究所(福岡県春日市)の木下稔基助教、核融合科学研究所(岐阜県土岐市)の田中謙治教授、京都大学大学院エネルギー科学研究科(京都府宇治市)の石澤明宏教授らの研究グループは、大型ヘリカル装置(LHD)※3において、レーザーを用いた高精度計測により、特定の条件において乱流が抑制される現象を観測しました。さらに軽水素プラズマと重水素※4プラズマの比較実験およびスーパーコンピューターを用いたシミュレーションにより、乱流の抑制は乱流の種類が変化する際に起こることが明らかとなりました。本研究結果は、乱流抑制のための核融合炉の革新的な運転シナリオの確立や炉設計への応用が期待される成果です。

この研究成果をまとめた論文がPhysical Review Lettersに6月7日に掲載されました。

研究背景

図1 LHD における乱流計測
図1 LHD における乱流計測

フュージョンエネルギーは、軽い原子核同士が融合して重い原子核に変わる(核融合反応)際に放出されるエネルギーです。フュージョンエネルギーを用いた発電(核融合発電)では、重水素と三重水素が融合し、ヘリウムに変わる際に発生するエネルギーを利用します。この反応過程では二酸化炭素は排出されません。また、燃料である重水素や三重水素は海水中から回収することが原理上可能であるため、持続可能なエネルギー源として、近年急速に実用化に向けた研究が進んでいます。核融合反応を起こすためには、重水素や三重水素を1億度以上のプラズマになるまで加熱し、それを強力な磁場のカゴで保持する必要があります。ところが、プラズマ中に存在する乱流によりプラズマが磁場のカゴから流れ出てしまいます。そのため、乱流は核融合研究において重要なトピックであり、乱流の抑制は核融合発電の実現に不可欠です。

乱流の抑制には、乱流が発生する物理背景を理解することが必須であり、この課題に取り組むうえでLHDは最適な装置です。例えば、通常、乱流の計測は容易ではありませんが、LHDでは、レーザーを用いた高精度計測※5により(図1)、乱流の空間的広がりや進行方向などの物理特性の計測に成功しています。また、本実験は、LHDにて重水素を用いた実験(2017~2022年)※6が可能な期間中に行われており、乱流のプラズマの質量に対する依存性を調べることができました。

研究成果

図2 密度と乱流の大きさの関係
図2 密度と乱流の大きさの関係

九州大学の木下稔基助教、核融合科学研究所の田中謙治教授、京都大学の石澤明宏教授らの研究グループは、LHDにおける乱流を包括的に理解するために、一定の加熱条件下で軽水素プラズマの密度(電子やイオンの数)を変える実験を行い、同時に乱流を詳細に計測しました。その結果、ある密度(遷移密度)において乱流が最も抑制され、遷移密度以下では、乱流は密度が高くなるにつれて減少しますが(図2の紫色の領域)、遷移密度を超えると乱流は増加に転じる(図2のオレンジ色の領域)ことがわかりました。さらに、遷移密度を境に、乱流の進む向きが反転することも観測されました。これは遷移密度前後で乱流の特性が変化(乱流遷移)することを示唆しています。

次に乱流遷移を裏付けるために、スーパーコンピューターを用いたシミュレーションを行いました。その結果、遷移密度以下で観測された乱流は、主にイオン温度の空間的な変化により引き起こされる乱流であり、遷移密度以上の乱流は、主に圧力分布の空間的な変化により引き起こされる乱流であることがわかりました。そして、この乱流の性質の変化が、乱流抑制の重要な物理背景であることがわかりました。このように実験観測とシミュレーションを駆使することで、観測された乱流抑制の背景に乱流の種類の変化、つまり乱流遷移が存在することが明らかになりました。

さらに、同じ実験を重水素プラズマで行い、軽水素プラズマと比較しました。その結果、質量の大きい重水素プラズマの方がより高い密度で乱流遷移が起こる、つまり、高い密度で乱流が抑制されることが分かりました(図3)。また、遷移密度以上において観測された乱流は、重水素プラズマにおいて明確に抑制されることがわかりました。重水素プラズマで観測された高い密度での乱流抑制は、核融合発電で想定される更に高い密度かつ質量の大きい重水素と三重水素の混合プラズマにおいて乱流が更に抑制されることを示唆しており、核融合の早期実現にとって好ましい結果です。

研究成果の意義と今後の展開

図3 軽水素プラズマと重水素プラズマでの乱流のふるまいの違い
図3 軽水素プラズマと重水素プラズマでの乱流のふるまいの違い

本研究により、乱流が遷移する際に乱流が最も抑制されることがわかりました。また、乱流遷移密度は、軽水素プラズマよりも重水素プラズマの方が高いことが示されました。これは、乱流遷移条件を決定する要因が、密度以外にも存在することを意味しています。今後は、本研究で明らかにした乱流の物理背景に基づいて、この条件の決定要因を明らかにし、核融合プラズマの乱流を抑制する核融合炉の革新的な運転シナリオの構築を目指します。さらに重水素と三重水素の混合プラズマの研究や炉設計への応用へと展開し、フュージョンエネルギーの実現への効率的な解を見出したいと考えています。

【用語解説】

※1  プラズマ
固体、液体、気体に次ぐ物質の第四の状態。気体に更にエネルギーを与えると原子は電子とイオンに分離し、プラズマとなる。

※2  乱流
プラズマの密度や温度の不均一性が引き起こす、密度、温度、電位の不規則な揺らぎ。特に、数センチメートルから数十マイクロメートルの微小な乱流はプラズマの粒子や熱の拡散を引き起こすと考えられている。

※3  大型ヘリカル装置(LHD)
核融合科学研究所の実験装置で、超伝導コイルを用いた世界最大級のヘリカル型装置。我が国独自のアイデアに基づくヘリオトロン配位と呼ばれる磁場配位を採用し、二重らせん状のコイルを用いてねじれた磁場構造を形成する。トカマク型装置とは磁場構造が異なっており、特徴を活かしたユニークな研究を行うことができる。1998年から実験を開始し、2017年には核融合炉で必要とされるイオン温度1億2千万度のプラズマの生成に成功した。LHDはLarge Helical Device の略。

※4  重水素、三重水素
水素には原子核中に陽子を一つ持ち、中性子を持たない軽水素(元素記号H)、陽子一つと中性子一つを持つ重水素(元素記号D)、陽子一つと中性子二つを持つ三重水素(元素記号T)があり、これらは水素同位体と呼ばれている。自然界における水素の存在比は、軽水素が99.985%、重水素が0.015%で、三重水素はほとんど存在しない。燃料となる重水素は海水から取り出すことが可能であるが、三重水素は海水からリチウムを取り出し、核融合反応で生成される中性子と反応させることで三重水素を生成することが可能である。

※5  レーザーを用いた高精度計測
本研究では、レーザーを用いた二次元位相コントラストイメージングという手法を用いて乱流を直接計測した。位相コントラストイメージングは元来、透明な生物細胞の可視化に用いられてきた技術であるが、レーザーを光源とすることにより、プラズマ中の乱流を可視化して計測することが可能となる。また、二次元の検出器を用いることにより乱流がプラズマ中でどのように広がっているかを計測することができる。

※6  重水素実験
初期の核融合炉では重水素と三重水素の核融合反応の利用が想定されている。三重水素は放射性同位体であり、実験段階では取り扱いが困難。LHDでは将来の核融合炉への外挿性を議論するために、従来の軽水素に加えて2017年から2022年にかけて重水素を用いた実験が行われた。

【論文情報】

雑誌名:Physical Review Letters

題名:Turbulence transition in magnetically confined hydrogen and deuterium plasmas

著者名:T. Kinoshita, K. Tanaka, A. Ishizawa, H. Sakai, M. Nunami, Y. Ohtani, H. Yamada, M. Sato, M. Nakata, T. Tokuzawa, R. Yasuhara, Y. Takemura, I. Yamada, H. Funaba, K. Ida, M. Yoshinuma, T. Tsujimura, R. Seki, K. Ichiguchi, and C. A. Michael

DOI: 10.1103/PhysRevLett.132.235101

【本件のお問い合わせ先】
  • 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
    管理部 総務企画課 対外協力係
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